小宮鐘之介・第31期球聖位

それでも、入れる

2023年4月

 

この激闘は、

2014年『第23期』と

2017年『第26期』という2度の

喜島安広vs大坪和史戦を思い起こさせる。

 

あの時と同じく、

フルセットのヒルヒルまでもつれた

今年の『第31期 球聖位決定戦』。

 

役者は変われど、

正念場のひりついた雰囲気と

ライブ視聴者数の跳ね上がり方は

あの時と全く同じだった。

 

「まさか自分の人生でフルセットの

ヒルヒルを撞くことがあるなんて」。

 

ラストブレイクに臨む小宮鐘之介の顔に

緊張の色はなく、むしろ極限の戦いを

楽しんでいるようだった。

 

2年連続の防衛達成。

長い長い1日を振り返ってもらった。

 

「どうやったら勝てるのか」――頭は常に回転してた


 

――2度目の防衛に成功しました。

 

小宮:まず「勝てて良かった」という安堵感があります。そして「また来年もこれをやるのか」という気持ちもあります。今回も試合が楽しかったんで、またやりたいのはやりたいんですけど、試合直後はそういう感覚でした。

 

――12時間近い激闘を制しました。疲れは?

 

小宮:表彰式が終わった後にドッと疲れが来て、頭も空っぽで、「もう何もしたくない」という感じでした。今朝起きたら筋肉痛と節々の痛みで身体が動かなかったです。ビリヤードのしすぎです(笑)。

 

――去年の初防衛とはまた異なる感想でしょうか。

 

小宮:そうですね。去年の方が大会前に球を撞く頻度が高くて、試合に臨む気持ち的にも余裕があったと思います。今年は仕事が忙しくて撞く時間をあまり作れなかったし、先に『女流球聖戦』で奥さん(女流球聖位の梶原愛選手)が防衛してたのでプレッシャーもありました。

 

――フルセットのヒルヒルまで行きました。長丁場になることを想像していましたか?

 

小宮:競るだろうとは思ってました。相手の持永選手の上手さやプレースタイルからしても、どちらかの一方的な展開になることはたぶんないだろうと。でも、まさか自分が人生でフルセットのヒルヒルを撞くことがあるとは……(笑)。ラストブレイクの時「こんな劇的な試合の当事者になるなんて」と思ってました。

 

――そのラストラック、相手が1番バンクをミスして撞き番が回って来ました。

 

小宮:僕の座っていた場所からは、“返りのバンク”で1番が逆サイドに入ったように見えたんです。だから、ワンテンポ遅れて「あ、外れたんだ」って。席を立った時は1番が右下のコーナーに通ってるかどうかわからなかったけど、手球の後ろに立って見たら“への字”のコースがあったので、「配置的にこの1番を決めたら勝てる」と。1番を入れて2番は微妙な逆フリになりましたけど、その時点で最後までの組み立てが決まりました。

 

――4番から5番に出した時、手球が5番に当たりましたね。あれはラッキー?

 

小宮:当たるかもとは思ってましたけど、あの当たり方になった(5番を左サイドに取る形になった)のはラッキーでした。4番を撞く時、手球が7番に隠れるのだけは避けたかったんで、引きとヒネリを少し抑えました。5番は右のサイドでも右下コーナーでもいいと。あの撞点だと5番に当たる可能性もあるのはわかってました。

 

――過度に緊張することなく、最後まで頭が回っていた様子ですね。

 

小宮:そうですね。第3セットを取ったあたりから緊張は全くなかったです。常に頭は「どうやったら勝てるのか」とフル回転していて、それに身体も付いてきていたと思います。去年の防衛戦もそうだったんですけど、僕は緊張で震えたりとかキューが出なくなるということはないです。逆に悪い時は緊張しなさすぎてスイッチが入らないということが多いです。今回は一番良い状態だったと思います。

 

ブレイクが決まれば巻き返せる、と


 

――もっとさかのぼりますが、今回は本番に向けてどんな調整を?

 

小宮:1週間前くらいは(会場の)『エニシング』とは違う所で週に4~5日くらい撞いてました。その前は週2、3回ぐらいでした。時間も長くは取れなかったんで、自分の気になるところを中心に一人で撞き込みました。苦しい展開になることを想定して球の取り方を変えてみたりとか。その後、セーフティが上手な人に相手をしてもらうこともありました。クッションの使い方とかを思い出しながら、勝負勘を取り戻して行ったような感じです。

 

――前々日に試合テーブルで練習をしたと聞きました。コンディションへの対応は?

 

小宮:金曜の夜に試合テーブルで撞きました。試合用のニューボールは使えないので、お店にあったダイナ スフィアで撞いたんですけど、やっぱり試合用のニューボールとは全然動きが違ってました。それと、ラシャは1週間ぐらい前に張り替えられてたんですけど、去年の新(さら)ラシャともまたコンディションが違っていて、色も今年は緑(昨年は青)だったので、景色も見慣れない感じでした。それもあって、当日朝の10分間練習と第1、第2セットあたりは、早くコンディションを掴みたいのに掴めないまま撞いていた感じでした。新(さら)っぽい動きをする時もあれば、そうじゃない時もあるし……。

 

――第3セットあたりから合わせられるようになっていった。

 

小宮:少しずつですけどね。完全に対応できていたかと言われるとまだまだです。そこは誰が見ても持永選手の方が上手く合わせてたと思います。僕は一番近くで持永選手のプレーを見ていたにも関わらず、合わせるのに時間がかかりました。そこは全然満足できてないところです。

 

――今回、試合に臨むにあたってのテーマとは?

 

小宮:持永選手も島田(隆嗣)選手もテンポの良いプレーが持ち味だと思いますけど、どちらが上がって来ても「スピード勝負に乗らないこと」は意識してました。あの早取り切りに合わせてしまうと自分にとって良くない流れになるだろうと。なので、相手のペースに引っ張られず、考えるところは考えて撞こうと思ってました。実際そう出来たと思うし、それが良い方に行ってくれたかなと思います。

 

――相手に2セット先行された時、焦りは?

 

小宮:なかったです。前日にあのテーブルで撞いてる人が有利だということは、自分が挑戦者だった時の経験からわかってましたし、最初のヨーイドンは勝てないだろうと思ってました。こちらは出来るだけ早くコンディションとブレイクを掴みたいと思ってたんですけど、あれだけ相手にマスワリを出される展開だとなかなか難しかったです。でも、第1セットは自分のミス(ヒルヒルの8番ミス)で取られましたけど、「あそこまで競れたならオッケーだな」という感じで焦りはなかったですね。頭も動いてたんで、「あとはブレイクがちゃんと決まれば戦える。巻き返せる」と思ってました。

 

面白い声援や声掛けも自分にはプラスになる


 

――そして第3セットを取り、反撃の狼煙を上げました。

 

小宮:あのあたりからブレイクが決まり始めた印象があります。そして、自分の集中とペースも良い状態だったので、それがセットごとに途切れないように意識していました。休憩を終えてバンキングになったらすぐにちゃんとスイッチを入れることを心掛けてました。

 

――第4セットを終えて2-2のタイになりました。

 

小宮:2-2に追い付いた時に「ここから3先だ」と思ったのを覚えてます。ブレイクもコンディションもなんとなくわかってきてたんで、「ここからは言い訳なしのイーブンの戦いだな」と。あとはリードした時に油断しないことと、チョイスを間違えたとしても後悔しないことを意識してました。

 

――今年は声出し応援が解禁されました。声援は力になりましたか?

 

小宮:それはもう(笑)。あれがあってこその球聖戦だと思いますし、エニシング応援団はやっぱり最高です。たまに面白い声援とか掛け声があったじゃないですか。自分はあれが完全にプラスに働きます。つい笑ったり反応したりしちゃうんですけど、それで集中が切れることはなくて、逆に皆が楽しく試合を見てくれてるんだなってわかって安心します。エニシング応援団はあれが自然体なんで、声が出てなかったらむしろ心配になります。

 

――今回のご自身のプレーで良かった点と良くなかった点は?

 

小宮:先に良くない方を言うと、セットの中盤の大事な場面で単純なシュートミスを何回かしてしまったことですね。そこから相手にリードされて取られたセットがあったので、あそこを決めてたらもう少し楽だったのかなと思います。例えば、セーフティ合戦で競り勝った後にオープンな的球を外したり。それはたぶん「セーフティ戦を制したぞ」みたいな頭になってたんだと思うんです。もっと落ち着いてシュートに向かうべきだったなと思います。

 

――では良かった点は?

 

小宮:簡単な球は簡単に取り、難しい球は難しくというか頭を使って取ることができたのは、試合を通して一番良かった点だと思います。僕は結構強めにブレイクしてたので、的球がヘッド側に集まることも多くてちょっと嫌らしい配置が多かったんですけど、シュートレンジを広く考えて、上手くフリを付けながら取ったり、細かい出しを丁寧にやったり、頭を使ってこなせたラックが多かったのは良かったです。それが自信にもなりました。

 

終わってからもあの場面はよく思い出す


 

――印象に残っている球や場面は?

 

小宮:特に印象に残ってる球というのはなくて、丸1日すごい激闘だったけど、やってる時はめちゃくちゃ面白かったということが印象に残ってます。ポイントとセットの奪い合いというか殴り合いというか、取って取られての長丁場を最後の最後まで戦えてほんとに楽しかったです。……あ、自分が印象深いというより、見てた人を不安にさせたかもしれないという意味では、最終セットの一番最後の8番です。あの時の景色は今もはっきり頭に残ってます。

 

――8番をサイドポケットに取って逆押し2クッションで9番にきれいに出した場面ですね。あの8番はそこそこフリが付いていたように思います。

 

小宮:はい、あの8番は撞ける人ほど「本当に逆押しで行くの?」「危ないし、上から遠めの9番を撞いてもいいんじゃない?」と思うと思います。新ラシャはああいう逆押しは利きにくいし、かといって良い厚みと角度で入ると手球が出過ぎることもあります。でも、僕は自信があったので「逆押しで出そう」と決めてました。だから、そんなに時間をかけずに撞いたんですけど、構えに入りながら「きっと応援団はすごく心配してるんだろうな」と思ってました。一瞬のうちに色んなことが頭を巡っていてすごく時間が長く感じられたし、終わってからもあの場面はよく思い出します。

 

――ゲームボールを入れた瞬間の感情は?

 

小宮:9番を入れてすぐ応援団の方を振り返ったら、皆総立ちになって拍手喝采だったので、嬉しさと安堵しかなかったです。9番を入れる前からサッカーのワールドカップみたいな雰囲気でしたし、盛り上げてくれた皆に「ありがとう」です。

 

――わかりました。今後の予定や目標は?

 

小宮:次はたぶん『アマナイン』の予選に出て、通過すれば6月下旬に本戦があります。その先の予定は今のところ何も決めていません。ひょっとすると試合はちょっとお休みするかもしれないです。もしかするとアマナインの後の大きな試合は来年の防衛戦(1年後の球聖位決定戦)になるかもしれません。

 

――最後に応援団に向けてメッセージを。

 

小宮:朝から会場で応援してくれた方はきっと僕よりも疲れてると思います。ほんとに丸一日拍手や声援をくださってありがとうございます。第3セットからさらに応援団が増えて会場の雰囲気が変わり、試合の流れもガラッと変わったと思います。来年も『エニシング』で防衛戦ができるのでまた応援してください。去年も言ったことですけど、それまでは皆、お酒を飲みすぎず、体を壊さないように気を付けてください(笑)。来年もよろしくお願いします。

 

(了)

 

初戴冠時インタビュー

初防衛時インタビュー(2期目)

 

 

Shonosuke Komiya

1994年12月6日生まれ・東京都出身

所属店:『ANYTHING』(千葉)

プレー歴:約16年

職業:会社員

プレーキュー:Far East(シャフトはFar East 零式〈type-0〉とZ-2、タップはエルクマスター)

ブレイクキュー:MEZZ POWER BREAK G

ジャンプキュー:GO JMP

タイトル:

アマ『球聖位』(第29期、第30期、第31期)

アマ『全関東』優勝

アマ『9ボールクラシック』優勝

プロトーナメント『Grand Prix East』準優勝1回(2016年)、

他、入賞多数

 

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