観戦! 隼斗vsコルテッザ・エキシビションマッチ

期待に違わぬハイテンポなランアウトショー

2013年12月

取材協力:MECCAOn the hill !

at MECCA(神奈川県川崎市)
at MECCA(神奈川県川崎市)

5度目の対決は全日本選手権直後、川崎で……

 タイトルは『再戦』。土方隼斗vsリー・バン・コルテッザという、日本とフィリピンを代表するトッププロによるエキシビションマッチは、神奈川県川崎市のビリヤード場『MECCA』(メッカ)の5周年記念イベントの一環として行われた。期待通りのスリリングな好ゲームだったことを先に記したい。

 

 決戦が組まれたのは11月26日。主役の2人は2日前まで兵庫県で『全日本選手権』を戦っていたが、その疲れも見せずに川崎に現れた。

 

 改めてこの2人の対戦歴を記すと、正確には今回が5回目である。

 

●第一の戦い

7、8年前、ビリヤード場で実戦形式の練習(コルテッザ勝利)

●第二の戦い

2012年、都内ビリヤード場でのエキシビションマッチ(コルテッザ勝利)

●第三の戦い

今年の『ジャパンオープン』ファイナル(土方勝利)

●第四の戦い

今年の『USオープン』敗者8回戦(コルテッザ勝利)

 

 過去4度対戦して、コルテッザの3勝1敗。しかし、ジャパンオープンという大舞台のファイナルでは、土方が素晴らしいプレーでコルテッザを封じている。長年土方を観ている筆者も、今年の充実度と成長カーブには驚くばかり。今回2度目の勝利を収めるとしても全く不思議ではない。

34歳・円熟のコルテッザ、24歳・成長中の土方

 夜10時15分、ゲームは静かにスタート。バンキングはコルテッザの勝ち。フォーマットはテンボール・9ゲーム先取の勝者ブレイク(セルフラック)。テーブルはブランズウィックの『Ⅴ・トーナメントエディション』で、ポケットは渋め。

 

 このレベルだと、オープニングから走ることがあるから目が離せない……と思っていたら、案の定コルテッザがあっという間のマスワリ3連発。1ラック目の取り出しはバンクだったのだが、ノータイムで決めて、あとはテーブル上で一筆書きをするようにさらさらと取っていく。技術的なことを言えば、コンパクトに押し出すように手球を捉える撞き方が特徴で、的球に圧力をかけない撞き方が本当に巧い。猛者で溢れかえっているフィリピンビリヤード界にあって、マネーゲームで無類の強さを誇るというが、それは「外れにくい撞き方が体に染み付いている」からだろう。

 

 土方も言う。「コルテッザは的球の運び方が綺麗ですし、入れ方が本当に巧い。だからあれだけ勝てるんでしょうね。ショットの選択肢も多く、その都度最善の選択をしてくるんですが、それが巧いし、早いし、正確なんです」

 

 しかし、今の土方は相手にいいようにやらせる男ではない。コルテッザのバンクミスやセーフティの綻びを突いて確実に加点していく。コルテッザに負けず劣らずプレーリズムも軽快だ。以前にもまして的球を楽々と叩き込んでいる印象もある(参考図1)。これは、ギャラリーも盛り上がるオフェンシブな戦いになってきた。

 

「最近は僕もシュートやショット力に関しては、そんなに差がなくなってきたのかなと感じることが増えてきました。細かいテクニックはまだまだコルテッザに敵わないですけどね」(土方)

 

 なにしろ土方の姿勢と表情が良い。昨年のエキシビションでは、まだどこか「胸を借りる」というような一歩引いた姿勢であったように感じられたが、今の土方は自信に満ちた眼をしている。ポジションミスをしてもフッと笑う余裕がある。プロ公式戦年間5勝で堂々のJPBAランキング1位。そして、『関西オープン』のファイナルでA・パグラヤンを、ジャパンオープンでコルテッザを倒したことは、今なお成長途上のこの若武者に、計り知れない力と余裕を与えたのだろうと思う。

参考図1:第7ラック、土方の4番バンク
参考図1:第7ラック、土方の4番バンク

底知れぬポテンシャル――コルテッザ

 序~中盤は「逃げるコルテッザ・追う土方」という展開で推移。第11ゲーム、コルテッザは1番でファウル。土方がきっちり取り切り、次をマスワリで取って6-6のイーブンに。実力伯仲のゲームはここで振り出しに戻った。所要時間は50分ほど。コルテッザの友人である黒河伸二朗プロに聞いたところ、「コルテッザは普段から良いリズムで撞いています。今も撞き急いでいるということはないと思います。でも、本調子ではなさそうなんですよね」とのことで、どれだけポテンシャルが高いのかという話である。

 

 プレー中に汲々とするところが一切ない(顔にも仕草にも出さない)のは、エンジンが大きい証だろう。しかし、機械のように淡々と撞き続けるのかというとそうではなく、時折想像もできなかったショットを繰り出してくる(参考図2)。彼の中では妥当なファーストチョイスなのかもしれないが、卓越した技術と胆力がなければ到底成し得ないショットであり、同国の偉大な「マジシャン」、エフレン・レイズをも想起させる。この「ただでさえ巧いのに、たまに唖然とするようなショットを決め、一瞬ニカッと笑う」コルテッザ・スタイルは、今、じわじわと日本でもファンを増やしている。

参考図2:コルテッザ、2番バンクキスイン3番5番トラブル解消(記憶が曖昧ですが……)
参考図2:コルテッザ、2番バンクキスイン3番5番トラブル解消(記憶が曖昧ですが……)

ヒルヒルマッチの結果は……?

 ゲームに戻ろう。第13ラックは1番のセーフティ戦を制した土方が取り切って7-6。次はコルテッザが1番のセーフティ戦から取り切って7-7。次のコルテッザのブレイクはノーイン。土方、取り切って8-7のリーチ。マスワリで決めたい土方は、しかし、ブレイクノーインで苦笑い。無論コルテッザが取り切って8-8。迎えた最終第17ゲーム。コルテッザのブレイクは入った! 微笑むコルテッザと土方……結果は書かずともおわかりだろう。

 

 コルテッザがゲームボールを沈めたのが11時29分。17ラックを1時間14分で終えたことになる。1ラック4分ちょっとで進んだのだから、かなりスピーディーな展開だったと言える。公式戦ではないというエキスキューズが付くが、両者合わせて5番より上のボールでのシュートミスは「ゼロ」。配置が紐解けたらあとは一気だ。スピーディーでオフェンシブ。この試合に「飽き」や「ダレ」を感じたギャラリーは皆無だったのではないか。

 

 国を代表するレベルのトッププロが、ハイテンポで攻撃的に打ち合ったらどうなるのか。今回のエキシビションにはそれが如実に表れていたと思う。そしてまた、すでに国際的に実績多数のコルテッザに土方が近付いていることもわかった。来年以降もこの2人は世界中の舞台で名勝負を演じてくれることだろう。……いや、それにしても、トッププロの圧巻のランアウトショーの前には言葉もなかった。すっかり観戦客になっていたことを告白します……。

 

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