〈BD〉「ハギ数の偶数・奇数(後編)」――Detective “K” season7 episode 09

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

*****

 

さて、今回は

『ハギ数の偶数・奇数』後編。

 

※前編はコチラ

 

「なぜハギの数にはバリエーションがある?」

をテーマに、

 

「ハギの本数が多ければ高級」

と考えたキューメーカーは、

ハギ数をどれだけ増やしたのか?

を解説したい。

 

******

 

前回、ハギの数は

「2」→「4」→「8」→「6」→「5」

と進化したことを解説した。

 

また、「4」を間引く形で「3」が、

 

工作機械の高度化(単に角度を

分数で考えれば済む事だが)により、

360を割り切れない「7」が

登場したことも説明した。

 

では、「9」以上のハギはどうなのか?

 

世間では明確な定義がないが、

ここでは「9」以上を

「多ハギ」として解説しよう。

 

******

 

左は長短8剣、右は子持ち8剣
左は長短8剣、右は子持ち8剣

 

さて、数の他に挙げられるハギの要素は、

「長短」とハギ同士の「重なり」。

 

ハギの数を増やし、

かつデザイン的なバランスを取るため、

隣り合うハギの長さを変えた

デザインが生まれた。

 

「ハギの数を増やすには、大きさを変えれば良い」

という発想だ。

 

ジナキューが考案した、

ハギを「インレイ」で入れる

いわゆる「インレイハギ」技法による

「長短8剣」は、現在メーカー問わず

好んで用いられる形式。

 

これに触発されて、

「剣ハギ」技法で製作されたのが、

ザンボッティの「長短8剣」だ。

 

また、前回追悼記事を掲載した

故ビル・シックが、1990年代初めに

「長短12剣」を製作している。

 

それは、長4剣+短8剣という

変則的なもので、

【長短短長短短……】という

配列になっていた。

 

オレ自身、長6剣+短6剣の

キューに出会ったことがなく、

おそらく「長短」の限界が

ここなのだろう。

 

******

 

一方、ハギを入れる製作工程で、

先に入れた剣と「一部が重なる」ように

後から剣を入れる「子持ちハギ」

呼ばれる形式が生まれた。

 

最初に入れたハギを、

次の工程でその一部を削り、

さらにハギを入れる手法だ。

 

この考えはハギにとって

非常に重要な進歩で

「ハギを入れるスペースがないなら、

一部重なっても構わない」

という考えが生まれたことを意味する。

 

4剣ハギをベースにした子持ち8剣ハギは、

1980年代にヘルムステッターの

上級モデルに用いられたことで、

日本のプレイヤーにはなじみが深い。

 

そして、1990年代には、

5剣を生み出したオメガ/dpkから

スピンアウトしたマイク・ベンダーが

「子持ち10剣」を製作する。

 

子持ちハギは10剣が限界と思うが、

6剣ハギベースの子持ち12剣ハギが

存在していればそれが限界だろう。

あいにくオレは見たことがないがな。

 

剣ハギ断面。ここには4剣、5剣、長短6剣、子持ち8剣がある
剣ハギ断面。ここには4剣、5剣、長短6剣、子持ち8剣がある

 

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しかし、

「ハギが一部重なっても構わない」なら、

「ハギの中にハギを入れても構わない」はず。

 

そうして登場したのが「重ねハギ」

 

英語では「リカットポイント」

呼ばれる形式だ。

 

これは製作時、種板(ベニヤ)を使わず、

一旦剣ハギを入れた後に荒削りして、

さらにハギを入れる技法。

 

手間はかかるがハギの数として

カウントされない。

 

見た目は種板を使ったハギと大差なく、

製作技法が違うだけだからだ。

 

ところが、

「ハギがそこにあるのならカウントする」

メーカーがある。

 

その元祖がサウスウェスト。

 

長短6剣のうち、

長剣のみ「重ねハギ」とした

シンプルなデザインなのだが、

人気メーカーだけにわずかな差でも

プレイヤーやコレクターからすれば大違い。

「9剣ハギ」は高級モデルの

代名詞となっている。

 

このサウスウェスト流の

数え方を用いると、

【剣ハギ数=最も外側のハギ数+重ねハギ数×リカット回数】

となる。

 

例えば、一見4剣でも

2回リカットしていれば、

4剣+4剣×2回=12剣ハギ、となる。

 

この考えをフォローするのが、

上海で製作されているゼン・キュー。

 

高級モデルでは、

6剣+6剣×リカット3回=24剣ハギだ。

今のところこれが最多だろう。

 

上は5剣(20剣)、中は4剣(12剣)、下は9剣
上は5剣(20剣)、中は4剣(12剣)、下は9剣

 

しかし、単にインレイハギを重ねる、

あるいは剣ハギの中に

「インレイハギ」を入れたキューでは、

「重ねハギ」と認識されず、

カウントされないケースもある。

 

結局のところメーカーやコレクターの

主観で数え方が異なるのだな。

 

上は4剣、中は4剣+インレイハギ4剣(非8剣)、下はインレイハギ6剣(非12剣)
上は4剣、中は4剣+インレイハギ4剣(非8剣)、下はインレイハギ6剣(非12剣)

 

******

 

やがて、バット前半部のハギは

限界があると見たのか、

グリップ部を境に上下対称となるよう、

ハギをキュー尻にも入れる「上下ハギ」

1990年前後に生み出された。

 

本来「キュー尻」にハギは

必要ないのだが、ハギの数を

増やすためにデザイン領域を

拡張したといっても良いだろう。

 

約束としては、

バランスを取るため上下は必ず

同じハギの形式と本数にすること。

 

例えば上が長短6剣ならば

下も長短6剣となる。

 

しかし、ややこしい点が一つある。

 

それは上下も重ねハギも

まとめて数えることだ。

 

ハギの数を聞いただけでは、

全体のデザインを想像するのは難しい。

 

しかしこれが「多ハギ」の神髄。

 

数を聞いて、「どんなキュー?」と

実物を見たくなる事が重要なのだ。

 

前述のゼン・キューには、

上24剣+下24剣が存在し、

合算して「48剣ハギ」と呼んでいる。

 

つまり

(長短6剣+重ねハギ6剣×リカット3回)×上下2回

という構成だ。

 

24剣重ねハギ(ゼン・キュー)
24剣重ねハギ(ゼン・キュー)

 

******

 

多ハギは果たしてどこまで増やせるのか? 

 

60剣や80剣モデルは、

限界に挑戦するキューメーカーの

有無次第だが、木材同士を結合し、

強度を高めることを目的とした

「ハギ」本来の役割からすれば限界がある。

 

貴重な木材を削り落とすロスが増え、

ハギが細くなるにつれ、

加工が難しくなり、

強度も弱くなるからだ。

 

とはいえハギの進化は、

数を増やすだけでない。

 

これまでになかった発想のデザインが

生まれることを期待しているぜ。

 

さて、2022年もあとわずか。

来年も依頼を待っているぜ、BD!

 

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