〈BD〉「キューのグリップ学 パート2 ~糸巻き・革巻き・ノーラップ~」――Detective “K” season6 episode 12

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を

引き受ける探偵だ。

 

五輪競技が終わり、気持ちが落ち着いた。

今回は「キューのグリップ学」パート2。

 

前回(パート1)は,

糸巻きで終わってしまったので、

革巻きやその他素材のグリップについて

説明したい。

 

******

 

1980年代半ばのカタログの中に見られるコルク巻キュー(中央)
1980年代半ばのカタログの中に見られるコルク巻キュー(中央)

 

握りやすさや感触の良さを目的とした

糸巻が登場した19世紀後半。

 

他の素材を巻くグリップも当然のごとく

登場した。その一つがコルク。

 

ブナ科常緑樹のコルクガシの樹皮を

はぎ取り加工した素材だ。

 

コルクでよく目にするのは、

ワインボトルの栓だな。

 

薄いシート状に加工されたコルクを

巻き付ける技法でグリップに使用された。

 

釣り糸用として防水加工された

アイリッシュリネン糸と比較すると

手が滑りにくく、しっかり握れるのが特徴だ。

 

20世紀初めには、

ポケットより大きな玉を使用し、

かつ多彩な撞点やストロークを駆使する

キャロムプレイヤーがコルク巻を好んでいた。

 

これはやがて、グリップ部分に

ゴムチューブを装着するよう発展してゆく。

 

現在では、シリコン素材を用いて、

「シットリ」から「サラサラ」、

色や模様もバリエーション豊かな

グリップが広まった。

 

そのコルク巻は、

1990年代初めまでグリップ素材の

オプションとして存在していた。

 

オレ自身、

ジョー・ハーセックのカスタムキューや、

マクダモットの量産モデルで

使ってみた経験がある。

 

握り心地はとても良かったが、耐久性や、

汚れや水分を吸い込みやすいことから、

21世紀に入ると全く使われなくなった。

 

もし、見かけた方はBDまでご一報を。

 

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バリエーションの多い革巻グリップ
バリエーションの多い革巻グリップ

 

そして、現在ポピュラーな革巻グリップ。

 

糸巻よりも原材料費が高く、

巻くのも手間がかかるため高級仕様とされる。

 

革巻が登場したのは

19世紀末だったと思われるが、

現在のキューにおける革巻の原型は、

 

1930年代末に登場した

ブランズウィック社の

「ウィリー・ホッペ・

プロフェッショナル」モデル。

 

持ち運びしやすいよう、

シャフトとバットに分割可能な

ツーピースキューであり、

表面が滑らかな牛革が巻かれていた。

 

「ウィリー・ホッペ・プロフェッショナル」モデル風革巻のキュー
「ウィリー・ホッペ・プロフェッショナル」モデル風革巻のキュー

 

アメリカのカスタムキューメーカーの草分け、

ハーマン・ランボーやフランク・パラダイス、

ジョージ・バラブシュカが、

1950年代から60年代、こぞって

手本とした上級モデルの業界標準だった。

 

このため1970年代まで「革巻」と言えば、

どのカスタムキューメーカーでも

スムーズ仕上げの牛革というのが一般的だった。

 

変化が訪れたのは、

1980年代末の映画『ハスラー2』ブーム。

 

キューの高級化により、

革巻のキューが一気に増えた。

 

更にキューメーカーの増加により、

他メーカーとの差別化を図るため、

 

型押し加工された牛革、豚革、

トカゲ革、ワニ革、サメ革、

スティングレイ(アカエイ)革、

オーストリッチ革、象耳革……など、

様々な革が巻かれるようになった。

 

また、自動車のステアリングを巻くのに

使われる合皮も転用された。

 

奥側がトカゲ型押し牛革(たぶん)、手前側がトカゲ革
奥側がトカゲ型押し牛革(たぶん)、手前側がトカゲ革
合皮巻グリップ
合皮巻グリップ

 

手触りだけでなく、素材の価値や

キュー全体のデザインとの調和を考慮した

グリップ選びがトレンドとなったのだ。

 

******

 

ところでキューにおける革の巻き方には、

「革のつなぎ目が極力わからないようにする」

という独特の流儀がある。

 

おそらくこれも

「ウィリー・ホッペ・プロフェッショナル」が

元祖だろう。

 

グリップの長さに合わせた革を

手巻き寿司のように巻く際、

合わせ目をわずかに重ねるなどの方法で

目立たなくする手法だ。

 

革巻きの合わせ目が視認しやすい例
革巻きの合わせ目が視認しやすい例

 

結果的に、リングトカゲ革など、

素材が持つ独特の文様が

生かせるメリットが生まれ、

標準的な巻き方として普及した。

 

革巻きを得意とするメーカーやリペアマンは、

「合わせ目がどこか、見つけてごらん」などと、

ヤケに挑戦的(笑)だったりするほどだ。

 

らせん巻グリップが見られる1980年代のシュメルケ。左側から5番目の黒いキューは、革のらせん巻とナイロン糸巻を組み合わせている
らせん巻グリップが見られる1980年代のシュメルケ。左側から5番目の黒いキューは、革のらせん巻とナイロン糸巻を組み合わせている

 

しかし、かつてはテニスラケットのように、

帯状に加工された革をらせん状に

巻き付ける手法も用いられていた。

 

しっかりとしたグリップ感が得られる

メリットがあったが、なぜか普及しなかった。

 

おそらくプレイヤーの美学として

「グリップはバットの表面と

ツライチ(同じ高さ)が良い」

という考えがあったからだろう。

 

積層タップの『タイガー』や

『Xシャフト』で知られるタイガー社が、

四角形の断面を持ち、隙間なくらせん状に

巻けばツライチとなるグリップ用革紐を

1990年代末に市販していたが、

あまり普及しなかった。

 

タイガー社製の革紐が巻かれたキュー
タイガー社製の革紐が巻かれたキュー

 

また、テニスラケット用のグリップテープを

キューに巻くプレイヤーもいた。

 

学生カバンの取っ手に赤テープを巻く

(昭和の流儀だ)ような、

好戦的(笑)なカスタマイズだった。

これも最近はほとんど見ないな。

 

******

 

革巻の普及には、

キュー修理やメンテナンスを手掛ける

リペアショップの存在も大きい。

 

プレイヤーがキューのグリップを交換する際、

糸巻であれば作業のため旋盤が必要。

 

しかし、革巻の場合は作業用の治具が

置ける大きさの机さえあればよく、

ビリヤード場の片隅での作業も可能。

 

手慣れたリペアマンであれば、

グリップ溝と革の厚みが

合わないなどの問題がない限り、

1時間もあれば交換できるだろう。

 

比較的手軽なドレスアップ、

チューンアップが革巻なのだ。

 

本来、グリップは、

プレイヤーが手玉にアクションを加え、

そのフィードバックとしてキューの

振動が伝わってくる重要な部分。

 

その意味では、

見た目や手触りの良さというだけではなく、

「パフォーマンスの向上」を目的とした

素材選びがあって然るべきだ。

 

糸巻から革巻に交換すれば軽くなる

(わずかな違いだが)、

 

トカゲ革に交換すると、

手に貼りつくようなグリップ感が得られる、

 

スティングレイ革なら、

細かい突起により手のツボが刺激される

(とオレは思う)など、

 

効果が実感できるのも

革巻が流行する一因だろう。

 

******

 

一方、

グリップ部分をあえて無くしてしまう、

変形させる、

糸でも革でもない新素材を巻く、

 

などのラジカルかつ

アナーキーなキューも存在する。

 

それらを紹介するには、

また長くなるので、次回としよう。

引き続き期待してくれ、BD!

 

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