〈BD〉「キューのグリップ学 パート1 ~糸巻き・革巻き・ノーラップ~」――Detective “K” season6 episode 11

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を

引き受ける探偵だ。

 

2021年夏、コロナ禍の中

日本は五輪競技の真っただ中。

 

ビリヤードでは国内公式戦の開催が

不確実な状況が続く。

 

スポーツ競技の世界は、何が正解なのかが

未だわからないまま進んでいる状況だ。

 

ピコン!

 

BDからの連絡だ。

 

『K、久しぶりですね』

 

……ふが? 久しぶりだな

(背後に歓声と実況の声)。

 

『まさか、五輪競技を観戦中ですか?』

 

いやいや(汗)、そんなことはないぜ。

 

『まぁ、無理もありません。

仕事の依頼です。』

 

え、いまじゃなきゃダメ?

 

『仕事は仕事です。

キューのグリップについて調べてください。』

 

そう、仕事だな。

キューのグリップは奥が深いセクションだ。

1回では説明しきれないぜ。

 

『仕方ありません。

多くのプレイヤーがこだわりますからね。』

 

何しろ、握りしめて

ストロークするから大切な部分だ。

 

『なにかヤラしいですが、頼みますよ。』

 

よしわかった。

おれはキュー探偵。

その依頼、引き受けた!

 

******

 

1980年代半ばのカタログ中に見られる彫刻グリップキュー(上の3本と下の2本)
1980年代半ばのカタログ中に見られる彫刻グリップキュー(上の3本と下の2本)

 

プレーする際、キューを握る部分を

「グリップ」と呼ぶ。

 

中世ヨーロッパで道具としての

キューが登場した当初は、握りやすさを

考慮した工夫はなかったようだ。

 

シンプルな木の棒から始まったキューが

進化を始めたのは、ビリヤードが競技として、

ルールや用具の規定が徐々に整備され、

チョークやタップが発明された19世紀ごろ。

 

他のプレイヤーよりも

優れた道具を持ちたいという要求から、

キューのカスタマイズ化が広まってゆく。

 

おそらくキューを握った際の

手触りや滑りにくさといった点も

考慮されたに違いない。

 

まずグリップ部分には

彫刻が施されるようになった。

 

ちょうどライフルのストックや

拳銃のグリップに入れられたように、

木部に直接模様を彫り込んだものだ。

 

おそらく初期は手作業で、後に機械で文様や

幾何学模様のパターンを施したと思われる。

 

彫刻グリップは1980年代まで

生き残っていたが、製作に手間がかかる上に

糸巻や革巻を好むプレイヤーが圧倒的に多く、

現在は絶滅したと言ってよい。

 

万一見かけた方はBDまでご一報を。

 

******

 

1980年代半ばのマクダモットカタログ中に見られるナイロングリップ
1980年代半ばのマクダモットカタログ中に見られるナイロングリップ

 

次にグリップに使われた素材は、糸。

 

オレが知る限りで、19世紀後半の

アメリカ製キューには存在していた。

彫刻よりも手触りが柔らかい。

 

当初巻かれたのは麻や木綿の撚糸や絹糸。

 

特に絹糸はアメリカからすれば輸入素材であり、

キューに高級感を与えるグリップだった。

 

しかし、絹糸グリップは第二次大戦により、

絹糸の主要な産地であった

日本からの輸入が途絶え、おそらく

1940年代には姿を消したと思われる。

 

絹糸にとって代わったのが、

1930年代末に発明されたナイロン糸。

 

第二次大戦時は軍需物資として

パラシュートやロープに使用された。

 

1945年の大戦終了以降、

美しい光沢と鮮やかな発色、

そして様々なカラーバリエーションを

もつ化学繊維で、キューのグリップにも

用いられるようになる。

 

天然繊維より安いため、

1960年代から1970年代にかけて

登場したパーマー、ヴァイキング、

マクダモットなどのキューメーカーは、

低価格のモデルを中心に

ナイロン糸グリップを採用していた。

 

しかし、メイプルやローズウッドなど、

自然の木目や色合いと、

ナイロン糸の組み合わせは

見た目が不釣り合いだったせいか、

あるいは手触りが良くなかったのか、

1990年代初めには見られなくなった。

 

******

 

一方、20世紀初頭からアメリカの

キューに使われるようになったのが、

アイリッシュリネン糸。

 

アイリッシュリネン糸とは、

ヨーロッパ産の亜麻の繊維を

アイルランドで紡績したもの。

 

耐久性があり、

防水加工された魚釣り用の糸を転用し、

巻いた後にプレスして糸の段差を均すことで

グリップの感触を調整できることもあり、

幅広く使われるようになった。

 

当初使われたのは、

白地に黒色の斑が入った糸だった。

 

1950年代ごろから登場した

ハーマン・ランボーや

フランク・パラダイスなど、

カスタムキューメーカーの草分けは、

好んでアイリッシュリネン糸を巻いた。

 

良く知られているのが、

白地に緑色の斑が入った糸。

 

特に釣り糸メーカー、

コートランド社の『No.9』と呼ばれる

アイリッシュリネン糸は、

ジョージ・バラブシュカが

使用したことで有名だ。

 

1960年代のリーディングキューメーカー、

パーマーは、ピーク時は1週間に

300本ほど生産していたこともあり、

コートランド社に白地に緑色以外の

糸を特注した。

 

しかも、少量生産メーカーの求めに応じ、

その糸を供給していた。

 

1970年代から本格的に製作開始した

ガス・ザンボッティは

地元フィラデルフィアの釣り糸メーカー、

ペン社からアイリッシュリネン糸を調達した。

 

ペン社の糸を使用したバリー・ザンボッティ。使い込むことで独特の風合いとなる
ペン社の糸を使用したバリー・ザンボッティ。使い込むことで独特の風合いとなる

 

これら有名メーカーの影響により、

アイリッシュリネン糸巻は

ポケット用キューの

「業界標準仕様」となった。

 

1980年代以降、様々な色を組み合わせた

アイリッシュリネン糸が

スチュワート・ハルバート社や

ブルーマウンテン社といった

メーカーにより生産され、

使用される木材やインレイ材との

コーディネーションが可能となった。

 

糸のサンプル。こちらはブルーマウンテン社。1990年代は糸を選ぶだけでも大変なほど豊富なバリエーションがあった
糸のサンプル。こちらはブルーマウンテン社。1990年代は糸を選ぶだけでも大変なほど豊富なバリエーションがあった
ハルバート社の糸のサンプル
ハルバート社の糸のサンプル

 

アイリッシュリネン糸は、

手触りや光沢、太さなどが

上記メーカーによって異なるため、

カスタムキューの製作時期特定や、

真贋判定の手掛かりともなる。

 

「このキューメーカーなら、

この糸を使っているはず」

 

「この巻き方は、

このキューメーカーにはありえない」

 

等々、コレクターやキューディーラーの

間では時々交わされる会話だ。

 

もちろん、後から巻きなおされている

キューもあるため絶対ではないが、

キューを評価する際の重要な要素が

アイリッシュリネン糸巻なのだ。

 

******

 

20世紀後半に主流となった

アイリッシュリネン糸巻。

 

使い込めば手に馴染むとともに

独特の風合いが出てくる。

 

シャフト同様、グリップを見れば、

そのキューオーナーがどれだけ

撞き込んでいるか分かったものだ。

 

ただ、欠点がないかといえばそうでもなく、

高温多湿な気候の日本では、

吸収した手汗が蒸発しにくく、

かえって水分をグリップが

保持してしまう問題があった。

 

そこで、他の素材を巻くグリップ、

何も巻かないノーラップ等が台頭する。

 

次回は、革巻きをはじめとする

様々な素材のグリップを説明する。

 

引き続き期待してくれ、BD!

 

…………

 

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