飯間智也・ジャパンオープン初優勝

「見くびってはいけない男」の大仕事

2022年10月

 

2022ジャパンオープン

 

大会前、この34歳のサウスポーを

優勝候補に推していた人は

多くはなかったかもしれない。

 

しかし、決勝日会場・

ニューピアホールでの飯間智也の

ハイパフォーマンスと堂々たる佇まいは

「日本一」にふさわしいものだった。

 

ラストの10ボールを入れた直後に

腹の底から出た雄叫びの根源は

本人にも一言では説明できないが、

見た者に「飯間智也、ここにあり」と

印象付けるのには十分な一幕だった。

 

その日のうちに大阪に戻り、

翌朝からいつもの日常に戻った

新チャンピオンが語る

「東京での大仕事」の裏側。

 

 

→ 大会レポートはこちら

 

↓優勝を決めたラストラック映像

もう1回振り向いてもらえたかなという気持ちです


 

――優勝から一夜明けました。

 

飯間:色々な方からお祝いのメッセージをいただいて、じわじわと優勝の実感が湧いてきています。最近はそこそこの結果しか出せず、今年は出られなかった試合もあり、出ても表彰台(3位以上)には上がれてなかったので、正直ちょっと見くびられてるじゃないですけど、評価してもらえてない部分はあったかなと。それでも今回ジャパンオープンで優勝して、すぐいくつか前向きなオファーや打診をいただけたので、「飯間はすごいんやな」と思っていただけたというか、もう一回振り向いてもらえたかなっていう気持ちもあります。

 

――「まさかの優勝」とご自身で振り返られていましたね。

 

飯間:今はお店(自身が営む大阪『AMII』)で夜にレッスンをしながら、昼間は別の仕事をしています。なので正直なところ、ビリヤードに100%注力できている方々と比べたら練習量は全く足りてないです。撞けない日もあるし、撞けても時間はすごく短い。今回もジャパンオープンに向けての特別な調整とかはできませんでした。もちろん国内で一番大きい試合やし、「頑張ってニューピアに行きたいな」とか「結果残せたらええな」とは思ってましたけどね。

 

――決勝戦(vs 内垣建一)は互いに良いプレーを展開していました。振り返っていかがですか?

 

飯間:お互いにミスが少なくて、ブレイクでのトラブル(スクラッチやノーインなど)しかゲームを左右するところはなかったと思います。自分の勝因は特になくて、なんで勝てたのかもわからないですけど、1球1球めっちゃ狙って撞くことができてました。もちろん普段出ているハウストーナメントや14-1の練習でも集中して撞いているつもりです。でも、その時試したいことをやったりとか、適当に撞くこともあります。今回はそんな姿勢はなくそうと思って努力してましたし、考えがまとまりきらずに撞いた球は結構少なかったはずです。

 

――「めっちゃ狙って撞いた」とのことですが、プレーリズムは良かったと思います。決勝会場のニューピアホールのダイヤモンドテーブルにもすぐ順応できていたのでしょうか。

 

飯間:ダイヤモンドテーブルは本当に良くて、ボールがばっちり自分の感覚に合う動きをしてくれたので、テーブルを信じて撞くことができました。以前、5月の『グランプリウェスト第1戦』の前日に、神箸久貴プロのお店(愛知『JIN』)でチャレンジマッチのお仕事をいただいて、設置されたばかりのダイヤモンドテーブルで長時間撞いたんです。その時に終始めっちゃ撞きやすいイメージがあったので、「ニューピアホールのダイヤモンドテーブルでも撞きたいな」と思ってました。最初は新ラシャすぎて難しかったですけど、お客さんが多く入って湿気の度合いが変わってきた頃にはコンディションが落ち着いて撞きやすかったですね。

 

© 2022 New Art
© 2022 New Art

準決勝の最後、ふとボールと会話してる感覚に


 

――ニューピアホールで撞くのは初めてでしたが、雰囲気や環境はいかがでしたか?

 

飯間:演出や照明にもすぐ慣れて気持ちよく撞くことができました。お客さんの存在をいつもの試合よりもすごく近く感じましたし、拍手や歓声も耳に入ってましたけど、気になるということはなかったです。“簡単そうに見えて実は難しいショット”に拍手をもらえると、「わかってくれてるな~」ってテンション上がりました(笑)。

 

――決勝戦(8ラック先取)の終盤は競り合いになりました。

 

飯間:4-6でビハインドの状態から取り切りと2連マスで7-6と逆転できたので、そのまま「マスワリで決めてやろう」とは思ってました。前日のベスト16(vs 浦岡隆志)も準決勝(vs 羅立文)も上がり際に連マスを決めてたので、同じ流れで行きたいなと。でも、そこで僕がブレイクスクラッチしてしまって、内垣プロもナイスプレーをされていてヒルヒル(7-7)になったので、逆にマスワリでやられる覚悟もしてました。

 

――最終ラック、内垣プロのブレイクはノーイン。

 

飯間:配置を見た時に「いつも通り撞いたら取れるな」とは思いました。最初の1番から2番が一番難しくて、中盤以降は簡単な配置になってたんで、「これをミスったらめちゃくちゃ恥ずかしいし後悔するな」と。4番を撞く時に立てキューになってますが、ああいう球も普段14-1を撞いてるから全然苦ではなかったですね。

 

――ゲームボールを入れて雄叫びを上げました。

 

飯間:自然と出ました。あれだけ喜びを出したのは初めてですね。10番を撞く直前に「簡単な配置やったけど自分のプラン通りに撞けたな」とか「みんな見てるな」とか「これ入れたら優勝なんや」とか、いろんな感情があふれてきました。

 

――決勝戦以外で印象に残った場面は? 土俵際に立たされてから逆転勝利を収めたベスト8(vs 神箸渓心アマ)でしょうか?

 

飯間:ベスト8は相当ラッキーでした。ちゃんと自分で取れたなって思えるラックがなくて、自分の感触的にはあの試合の中で5回くらい負けてます。だから、勝てたのはそれぐらいツキがあったってことですね。準決勝(vs 羅立文)も最後のラックは完全にラッキーでした。6-10コンビを決めたんですけど、あの10番―6番―手球の位置関係がちょうど良くて。ふとボールと会話してる感覚になったんですよね。「飯間くん、6-10を一回見てくれへん?」ってボールに言われて、よく見たら結構良い感じやったんで、「じゃあ撞いてみるし、頼むから10ボール入ってや」って。……決勝日はテーブルとボールに愛されてたのかもしれないですね(笑)。

 

 

――3年ぶりのプロ公式戦優勝がビッグタイトルとなりました。

 

飯間:2019年に自分のお店(AMII)をオープンして、これから頑張ろうってところで結果が出ず、そこからコロナで試合もなく。試合が再開されるようになっても練習量が足りてないし勝てる訳もない。そんな状態でも試合には出たいと思ってましたし、もちろん勝ちたいとも思ってましたけど、適当に撞いて負けてしまった試合もあるんで、「これじゃ勝てへんやろな」と。

 

――そういえば、内垣プロとは9月の『東海グランプリ』のベスト16でも当たっていましたね。その時もヒルヒルで勝っていて(8-7)。

 

飯間:そうです。その後ベスト8で負けてしまいましたけど、あのベスト16で自分なりに良い雰囲気を思い出したというか、試合勘を取り戻したというところもあります。その流れでジャパンオープンに参戦できたのは結果的に良かったなと思います。

 

――表彰式でマイクを向けられた時「ジャパンオープンは海外で活躍してきた人が取ってきたタイトル」と言っていましたが、以前からそう認識していたんですか?

 

飯間:あれはあの場で思い浮かびました。例えば、奥村健プロ、高橋邦彦プロ、川端聡プロ、大井直幸プロ、土方隼斗プロなど、世界チャンピオンやそれに準ずるタイトルを獲ってきた方々は皆さんジャパンオープンで勝ってたんやなって。海外への足掛かりとして『ジャパンオープン』という舞台をクリアするのは大事なことやと自分では思ってます。……そういえば、川端プロが2000年のジャパンオープンで優勝した瞬間の写真のことを思い出して僕の写真と見比べたんです。キューの掲げ方は違うけど「顔は一緒やな」と(笑)。22年前にこの感覚を経験して今も活躍を続けている川端プロの凄さを感じました。何十年もトップでやっている人はジャパンオープンの決勝戦を撞いた経験を持っている。そう考えたら、自分も少しは追い付けたのかなって感覚はありますね。

 

もう1ステージ上がれるように海外に挑戦したい


 

――プレイヤーとしての将来像は。

 

飯間:今言ったことにつながりますが、ジャパンオープン優勝経験者の皆さんに追随するというか、もう1ステージ上がれるように海外の試合にもっと出たいですね。仕事の関係もあって今すぐは難しいですけど、今回の結果で「行った方がいい」って言ってくれる方が増えて、自分でも現実味は増してます。もちろんジャパンオープンより海外メジャー大会の方が厳しいし、絶対違う壁があるはず。でも、それに向かって挑戦する気概を持つことができたんじゃないかと思います。

 

――最後に、サポートしてくれている方々にメッセージを。

 

飯間:たくさんの方々と出会ってきてそれぞれの方とのストーリーがあるので、自分の思いをここでひとまとめにしてお伝えするのは難しいですが……、自分がプロに復帰した時(2017年)から応援してくれている方で関東にお住まいの方がいらっしゃるんですけど、その方には成績を残せていなかった時期もずっと支えていただいたので本当に感謝しています。もちろんAMIIの皆やスポンサーの皆様方にも感謝しています。今回会場にいらして僕に声援や拍手を送ってくださった方々と今後交流が深まって行く可能性もありますし、一人一人との関係性を大事にして今後も活動していきたいと思います。

 

(了)

 

 

飯間智也 Tomoya Iima

 

1988年9月16日生

香川県出身・兵庫県在住

JPBA51期生(2017年1月~)

(※2008年~2013年もプロとして活動)

2009年『GPW-3』優勝

2017年『北海道オープン』優勝

2017年『北陸オープン』優勝

2017年『GPW-6』優勝

2018年『GPW-1』優勝

2019年『GPW-1』優勝

2022年『ジャパンオープン』優勝

他、入賞多数

プレーキューは『TⅡ Factory』

ブレイクキューは『PREDATOR BK RUSH』

ジャンプキューは『GO JMP

使用タップは『KAMUI

専属:『ビリヤードジム AMII

スポンサー:株式会社フルカウント、BAR SHOOTERS、BANDEL

 

 

※「聞いてみた!」の他のインタビューはこちら

 


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