肥田緒里恵・JPBFプロ

元・世界選手権3連覇女王が見る、現代レディース3C勢力図

2015年8月

 

残念ながら既に落選してしまったが、

 

もし、もしも2020東京オリンピックで

ビリヤードが採用されていて、

 

ポケット、キャロム、スヌーカーの

3種目が男女それぞれあったとするならば。

 

日本のメダル獲得が確実視されたのが

キャロム(スリークッション)女子だろう。

 

日本は女子3C強豪国であり、

 

その日本女子3C界の象徴とも言えるのが

この人、肥田緒里恵である。

 

女子3C世界選手権3連覇、

女子3C全日本選手権優勝13回という実績を誇り、

 

今年も7月にアメリカの国際レディース3C戦で

3位入賞を果たした。

 

しかし、国内では後輩プロたちの進境著しく、

楽な戦いなどない。

 

海外では、オランダに

「世界最強女王」が誕生している。

 

肥田はそんな状況をどう見ているのだろうか。

 

久しぶりにじっくりと話を聞いた。


写真・取材・文/BD

 

…………

 

Orie Hida


東京都出身・在住

1995年プロ入り(JPBF)

両親(肥田明と肥田一美)も共にプロ

2004年、2006年、2008年

『第1回~第3回世界女子スリークッション選手権』3連覇

『全日本選手権』13勝

他、国内外で優勝・上位入賞多数

最新の戦績は、

2015年8月

『第7回レディース3Cオープン・ビリヤードアカデミーZ戦』優勝

海外では

2015年7月『ジェニファー・シム国際』3位

東京『ビリヤード キャノン』所属

使用キューはADAM JAPAN

 

「世界最強女王」T・クロンペンハウアー(オランダ) 2014世界女王 2015ジェニファー・シム国際優勝
「世界最強女王」T・クロンペンハウアー(オランダ) 2014世界女王 2015ジェニファー・シム国際優勝

久しぶりに海外であれだけ上手く撞けました


 

――7月、ニューヨークで行われた『ジェニファー・シム国際』で3位でした。まず、この結果については?


「T・クロンペンハウアーとの準決勝は、私が急におかしくなっちゃいました。でも、そこへ至るまでの過程、予選リーグ戦(全勝)から決勝ラウンドのベスト8までは、よく頑張れたと思います。落ち着いてましたし、久しぶりに海外であれだけ上手く撞けたと思います。アベレージも1.07ぐらいありました。あとは準決勝でもっと競ることができたら良かったんですけどね」


――この大会は3回目の開催。今回はジェニファー・シムさんいう方の名前を冠していました。会場の『キャロムカフェ』の常連さんだったそうですね。最近亡くなられたということで。


「そうなんです。ジェニファーさんは国際大会にアメリカ代表として出ておられたプレイヤーで、以前から知り合いでした。年齢も私と同じくらいで、初めて海外の試合に出た時、全然英語が話せなかった私にとても親切にしてくれたことを思い出します。予選からずっと頑張れたのはそういったことも関係しているかもしれないですね」


――予選リーグ戦ではクロンペンハウアーと同組になり、彼女に勝ちました。


「彼女と対戦するまでの成績は、私が全勝、彼女が1敗という状況で、もう互いに予選を抜けられることはわかっていたので、消化試合と言えば消化試合でした。彼女は試合前日にニューヨークに到着して疲れもあったでしょうし、私の前にカンボジアの選手(※国際大会初出場で2位。韓国人男性と結婚し、韓国でトレーニングを積む)とやっている時にだいぶイライラして負けてしまったので、普段の彼女ではなかったですね。

 

 私は彼女に3連敗中でしたし、『この状態の彼女に勝てないなら一生勝てないんじゃないか』って思って頑張って、なんとか勝てました(笑)」


――そして、準決勝で再戦。

 

「準決勝ではこてんぱんにやられちゃいました。こちらが序盤から当てていって主導権を握る展開にしたかったんですけど、普段はしないようなミスを私がしてしまって、少しずつ何かがズレていきました。そうさせたのは、プレッシャーというか見えない圧力というか。『相手が強い』とわかっていることからくる焦りだったのかもしれません。

 

 また、クロンペンハウアーは前日のイライラが全くなくなっていて、平静を取り戻していました。決勝戦も良い内容でしたよ。予選で一度負けたカンボジアの選手に勝ってました」

 

韓国トップの李信詠
韓国トップの李信詠

今、クロンペンハウアーがダントツですね


 

――クロンペンハウアーは『世界最強』と言われています。肥田さんの目から見ても現役世界No.1の選手でしょうか?


「ダントツですね。『次に来るのが誰だろう』と考えてしまうぐらい抜けてると思います。もちろん人間なので多少の波はありますし、今回のようにイライラすることもありますが、大きく崩れることがほとんど無く、安定しています」


――肥田プロでも彼女と当たると厳しいと感じますか?


「厳しいです。でも、向こうも私のことを気持ちの悪い相手と思っているとは思います。だから、今回の準決勝では失敗しましたが、こっちが頭から良いプレーができれば、少しは相手にプレッシャーがかかって、勝ち負けになる見込みはあると思います」


――クロンペンハウアーは、肥田プロが世界選手権のプレ大会(2回)と、世界選手権(3回)を勝った時に、既に出ていましたか?


「最初の世界選手権(2004年)から出ていたと思います。プレ大会の2つ目から出ていたかな。2回目の世界選手権(2006年)の時くらいから、ヨーロッパ中で『いつ世界を獲ってもおかしくない選手』と言われていました。その後、3回目(2008年)でも4回目(東京大会。2012年)でも獲れなかったですけど、それはフォーマット(※女子の試合は短い)と、日本人よりは短気なので精神面でやられちゃってる感じもありましたね」


――今の世界トップは、個人で言ったらクロンペンハウアーで、国で言ったら韓国でしょうか?


「ええ、国は韓国ですね。今回のジェニファー・シム国際には、李信詠(リ・シニョン)や朴秀阿(パク・スア)という、何人かの強い韓国選手は来てなかったんですよ。国内の試合とのスケジュールとの兼ね合いで。彼女たちが来ていたら流れが変わっていたと思います」


――李信詠(リ・シニョン)は、昨年の世界選手権で肥田プロがベスト8で負けた人ですよね?


「そうです。今回、アメリカで彼女に当たりたいなーと思ってたんですけどね(笑)。彼女が韓国ランキングの1位だそうです。韓国は若い子も多くて層が厚い。昨年12月、日本の『レディースグランプリ』で優勝したイ・ミレ選手とか、撞ける若い子がたくさんいます。そんな中で、トップをキープしている李信詠はすごいなと思います」

 

2014年の女子全日本選手権はファイナルで西本優子(左)に敗れて2位
2014年の女子全日本選手権はファイナルで西本優子(左)に敗れて2位

あの舞台で撞いている2人が本当に羨ましかった



――さて、日本3C女子勢は今、どの辺りにいるのでしょうか?


「悪くはない位置だと思います。国としては韓国に続くところじゃないかなと。オランダなどヨーロッパ各国よりは選手層が厚いです。


 例えば、今回のジェニファー・シム国際も、私たち4名(肥田緒里恵、肥田一美、林奈美子、小林諒子アマ)以外に、もし西本優子プロ、東内那津未プロ、界文子プロ、福本綾香プロ……といった選手が出ていたとしたら、誰が上位に入ってもおかしくないと思います。日本は世界チャンピオンも2名(肥田緒里恵・東内那津未)生んでいますから……」


――強豪国と言って良い?


「と私は思っています。でもこの先は、韓国から若い女子選手がたくさん出てくると思うので、そこで日本が追い掛けていけるかどうかというところはあると思います」


――今、肥田プロはご自身のことをどう見ているんでしょうか?


「ジェニファー・シム国際ではよく撞けたと思うんですけど、この1年半~2年くらいは国内でも海外でもあまり良いところがないですね(苦笑)。毎回頑張ってはいると思うんですけど……思ったような結果は出てないです。昨年の実績で言えば、全日本選手権でも世界選手権でも西本プロが上でしたし、普通に考えれば今の国内No.1は西本プロです」


――今の肥田プロのモチベーションの源とは?


「やっぱり『世界最強』と言われる新しいチャンピオンが生まれたことです。クロンペンハウアーは本当に強いですし、いち競技者として尊敬できるものを多く持っています。すごく努力家で、ビリヤードに対して真面目です。今は純粋に彼女を追い掛けてやっていきたいという思いがあります。


 これがいけないんでしょうけど、私は競技者として結構行き当たりばったりなところがあります。感情に流されやすいというか。やる気が無い時は全然ダメで(苦笑)。そういう意味でも、クロンペンハウアーという明確な目標ができて本当に良かったなと思うんですよね」


――彼女と試合をすると、緊張感がありますか?


「ありますね! もっと向かって行って良いプレーが出来ればいいんですけど、2年に1回くらいしか当たらないので余計にプレッシャーがかかっちゃって。


 昨年の『世界選手権』(トルコ)は、クロンペンハウアーと西本プロのファイナルでしたけど、あの舞台で撞いている2人が本当に羨ましかった。東内プロと一緒に会場で観ていたら、東内プロが『また頑張って、こういう場に戻って来たいと思いました』と言ったんです。私も全く同じ気持ちでした。またあそこに行けるように、目標を高く持って、環境を整えて、頑張りたいと思います」


(取材:2015年8月)


2014年全日本選手権にて
2014年全日本選手権にて

 

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