森雄介・PBA初優勝

韓国の大舞台で勝ち得たビリヤード人生初のトロフィー

2025年8月

Photo : PBA 2025
Photo : PBA 2025

 

これだけ全身で喜びを表している

森雄介を初めて見た。

 

森は2021年9月、設立3シーズン目を

迎えたスリークッションプロツアー、

PBA』へ挑戦するため渡韓。

 

当初はなかなか結果が出なかったが、

ソウルに住み、研鑽を積んで地力を蓄え、

2023年に準優勝、2024年に3位と

上位進出を増やしていった。

 

そして、2025年8月12日。

2025-2026シーズン第3戦

『NHカードチャリティ選手権』で遂に優勝。

ビリヤード人生で初めてトロフィーを手にした。

 

渡韓5年目で掴んだ最高峰の栄誉。

それは日本人ビリヤード選手初の

「賞金1千万円プレイヤー」(※1大会で)

誕生の瞬間でもある。

 

以前から自分の実力と立ち位置を

冷静に客観視し、

結果に一喜一憂することが少なかった森。

しかし、今回ばかりは声が弾んでいた。

 

→ 大会結果記事はこちら

ベッド脇にトロフィーを置いて寝ました


 

――優勝から一夜明けた今の心境を。

 

森:いや~、幸せですね。昨晩ベッドの横にトロフィーを置いて寝たんですけど、朝起きて確認して「ある~」と思って(笑)。最高の目覚めでした。

 

――大会を通してプレー内容や状態は良かったですか?

 

森:実は大会前日に急に体調が悪くなって出場を辞退するか迷ってたんです。初日(ラウンド128)の朝起きて「なんとか行けるな」と思って試合に出ました。ラウンド64とラウンド32の日も体調が悪くてぎりぎり会場に行けた感じでした。

 

――そうだったんですか。でも、その3ラウンドは2アベ以上で勝っていました。

 

森:ビリヤードは絶好調でした。たぶん体調が悪いから、かえって良い具合に力が抜けていたんだと思います。自分でも新しい発見でした。今までは結構力んでたんだなって。で、ラウンド16の日に体調が復活したんですけど、そしたら全然当たらなくなっちゃって(苦笑)。急に身体に力が入るようになって、昨日まで外れてなかった球が外れ始めて「あれ?」って。ラウンド16はたまたま相手も不調だったので助かりました。

 

――ラウンド8と準決勝は?

 

森:身体は完全に復調していました。球の内容の良し悪しは自分ではよくわからないです。あそこまで勝ち進んで行くと自分のプレーを冷静に分析する余裕もなくて、ただ一生懸命やってるだけでした。でも、緊張や気負いはほとんどなかったので、良い精神状態で挑めていたんじゃないかと思います。

 

あのまま4-0で勝ち切れないのが今の実力


 

――決勝戦はオムサンピル(韓国。Sang-pill EOM)と対戦。どちらが勝ってもPBAツアー初優勝でした。試合前の心境は?

 

森:特別意気込む訳でもなく、とにかく「できることをやるだけだ」と。普段と同じようにただ会場に球を撞きに行ったというだけです。

 

――決勝戦の第1セットから森プロがスピーディに3セット連取しました。よく撞けている感覚は?

 

森:ありました。やるべきことをやれていたと思いますし、どちらか言うと楽しみながら撞けていました。チームリーグのSY BUILDERSのチームメイト達や会社の方々がたくさん応援してくれましたし、会場のギャラリーもあたたかい拍手をくださっていたので気分良く撞けていました。

 

――ちなみに、PBAのプレー環境にはもう慣れていますか? テーブルコンディションへの対応は?

 

森:大会で使われているテーブル、ラシャ、ボールのブランドとモデルは契約期間中はずっと一緒ですし、何度も試合で撞いているのでだいたいの特徴はわかってます。普段もその特徴を頭に入れながら練習しています。もちろんテーブルコンディションは日々多少変わりますけど、球が外れたとしても「ああ、今はこういう感じか」と納得できています。

 

――セットカウント3-0として早くも優勝に王手。しかし、第4セットで急減速。当たりが止まり、相手が盛り返してきました。

 

森:あの第4セットは……特に力んでいた訳でもないし、勝ち急いでいた訳でもないんですけど……なんででしょうね(苦笑)。でも、あのまま4-0で勝ち切れないのが今の自分の実力なんだと思います。精神状態がおかしくなった訳ではないので単純に実力不足だったんだなと。

 

撞いた瞬間「当たってくれ」と祈ってました


 

――セットカウント3-3に追い付かれ、最終第7セットへ。

 

森:3-3に追い付かれた時に一瞬、準優勝に終わった2023-2024シーズン第4戦が頭に浮かびました(森プロが3-2で先にリーチをかけたがD・マルティネス〈スペイン〉に逆転された)。「またあのパターンかよ」って。そのせいか、第7セットの初球を撞く時は最大級にビビってました(笑)。全然キューが出なくて、スピード不足で当たらなかったです。

 

――どう気持ちを立て直したんですか?

 

森:その前の第6セットは2イニングしか撞いてないけど、ショットはそんなに悪くなかったので、その感覚のまま撞き続けたら戦えるだろうと思ってました。オムサンピル選手も最終セットはさすがに優勝を意識して少し硬くなっていたんじゃないかと思います。何球か外してくれたのでチャンスはありました。僕も「もうこれはやるしかない」と割り切って撞けました。平常心じゃなくてもビビリまくりでも何でもいい。必死で身体ごと球を当てに行った感じでしたね。

 

――とにかくキューを出して。

 

森:はい、根性球もいいところ(笑)。細かいことは何も考えてなかったです。撞いた瞬間「とにかく当たってくれ」って祈ってました。

 

――最後は5点ランで上がりました。マッチポイントボールは表回し(縦の箱玉)。難しい球だったと思いますが、どんな心理状況でしたか?

 

森:構えた時に手前に黄球があって、体勢的に少し撞きづらかったのは気になりました。でも、ほぼヒネらず、厚みとスピードを合わせるだけで撞ける球だったので「外れたらしょうがないや」と覚悟を決めて撞けました。難しい球ですけどやることは単純だったので、むしろあれがマッチポイントボールだったのは良かったかもしれません。

 

これだけの大舞台で優勝できたのは人生初


 

――マッチポイントボールを当てて大喜びしていました。

 

森:もしセットカウント4-0で勝てていたらあんなに喜ばなかったと思います。自分で苦しい展開にして自分で喜ぶ場面を作る……自作自演ですよね(笑)。でも、真面目な話、これだけ大きな舞台で優勝したのは人生で初めてなんです。当たった瞬間「やっと勝てた!」と、とにかく嬉しかったです。そして、SY BUILDERSの仲間たちや会社の方々が目の前で喜んでくれていたのを見て自分もさらに嬉しくなりました。

 

――これでシーズンランキングもD・マルティネスと同率で暫定1位になりました。

 

森:ランキング1位になるのも初めてで良い気分です。ただ、今一番嬉しいのはこの立派なトロフィーをもらったこと。今まで日本の大会で優勝した時もトロフィーのない大会だったので、一つも持ってなかったです。人生で初めてのトロフィーをこんなビッグイベントで獲得できたのがすごく嬉しい。やっと部屋にトロフィーを飾ることができます(笑)。

 

――今シーズンは第1戦33位、第2戦17位、そして今回の第3戦で優勝と成績を上げて来ていますが、開幕から徐々に状態が良くなってきているのですか?

 

森:状態が良くなってきたというより、少しずつですけど実力が付いてきているのかなと思います。今も基礎的な練習は欠かしてないですし、色々な選手から聞いたり見たりしながら新しいことも吸収して、自分のプレーの幅が広がり、質も上がっていると思います。

 

――昨年末のインタビューでは「まだ実力が足りてない」と言ってましたが、当時と比べてレベルアップしていますか?

 

森:そうですね。何年も毎日積み重ねてきたものが、今ちょっとずつ良い方向に出ていると思います。そして、ある時急にそれが大きな結果として現れることもある。今大会がまさにそんなタイミングだったのかなと思います。

 

目標は変わらない。実力勝負で一番になりたい


 

――PBAで優勝した今、次の目標は?

 

森:1回優勝できましたけど、まだ僕はどう考えても実力では一番じゃないです。優勝したからって実力が急に上がる訳でもない。優勝する前と変わらないんですけど、目標は「実力で一番になること」。だから今回の優勝はボーナスだと思って、ずっと自分を高め続けていかないといけません。

 

――昨年末のインタビューで「僕はスタートダッシュに失敗している選手」とも語っていましたが、今回優勝したことで遅れを取り戻せた感覚はありますか?

 

森:いや、全くないですね。優勝したことで皆さんの見る目は変わるかもしれないですけど、自己評価は全く変わりません。そこは試合の結果とは切り離して考えています。実力という物差しで見るとまだまだトップ選手達に遅れを取っています。僕は実力勝負で一番になりたいです。

 

――「実力という物差し」とは例えば長期間のアベレージやランキングですか?

 

森:そうです。生涯アベレージを上げていきたいです。ポケットビリヤードでのFargoRate(ファーゴレート)みたいなものです。仮にFargoRateで「850」というレーティングが付くほどの実力の持ち主なら、多くの試合で優勝や入賞ができますよね。当たり前のことですけど、実力が高い人ほど勝つチャンスが増えます。僕はスリークッションで「優勝や入賞をして当たり前」ぐらいのアベレージの選手になりたいです。そのレベルはまだまだ遠いですけど、何年か前の自分と比べたら確実に近付いていると思います。

 

――最後に応援してくれている方々にメッセージを。

 

森:これまであまり良い結果をお見せできなかったですが、皆さん諦めずに応援し続けてくださり本当にありがとうございます。これからも時々活躍する姿をお見せできるように頑張っていきますので、引き続き応援よろしくお願いします。これからチームリーグも個人戦も続くのでしばらく日本には帰れませんが、日本に帰ったらトロフィーを『アレナ』(父・森陽一郎プロが営むビリヤード場。東京・江古田)に置いておきますので、ぜひ見に来てください。

 

(了)

 

 

Road to Victory : 

R128 3-0 vs Han-sol CHOI Av.2.368

R64 3-1 vs Savas BULUT Av.2.120

R32 3-0 vs Jae-geun KIM Av.2.500

R16 3-0 vs Dae-woong LEE Av.1.250

R8 3-2 vs Jung-ju SHIN Av.1.909

Semi-final 4-2 vs Semih SAYGINER Av.2.028

FInal 4-3 vs Sang-pill EOM Av.1.689

 

Yusuke Mori

1993年10月15日生・O型・天秤座

東京出身/韓国在住

2014年JPBF入会

◇ 国内プロ3C戦績:

2017年PRO 3-Cushion Tournament GLANZ戦優勝

2019年全日本3C選手権準優勝

2019年JBS MAJESTY CUP優勝

2020年PRO 3-Cushion Tournament GLANZ戦優勝

◇ PBA(韓国)戦績:

2023年9月『SY Championship』準優勝

2024年6月『Hana Card Championship』3位

2025年8月『NHCard Charity Championship』優勝

使用キューはADAM JAPAN 

キューケース・グローブは3seconds

スポンサーはSY BUILDERS、MIN Table

 

※森雄介の2024年末のロングインタビューはこちら

 

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