小西さみあ・全日本選手権初制覇

“自分のプレーに集中する”ために心掛けたこと

2025年11月

 

カメラのファインダー越しにも、

遠くから眺めていても、

小西さみあが3日間全7試合、

理想的な戦い方――

集中の持続とパフォーマンスの最大化――を

実現していることが伝わってきた。

 

オフテーブルでは柔和で穏やかな小西だが、

バンキングを撞くと同時に競技モードに入り、

眉根も口元も真一文字に結び、

脇目も振らず9つの球と向き合っていた。

 

ひとたび「出来た」配置を迎えると、

武器であるトルクフルなストロークで

美しい撞音を響かせながら

ダイナミックに取り切って見せた。

その姿に、ワールドトップ達に通ずる

スケールの大きさを感じた。

 

心技体の一致を感じさせた3日間。

どんな心境、どんな目標で戦っていたのか。

大会後に明かしてもらった。

 

→ 大会結果記事はこちら

自分の課題をやり遂げられた嬉しさもありました


 

――最後は3-9コンビで優勝を決めました。その2球前、相手の1番ミスでターンが回って来た時はどんなことを考えていましたか? 

 

小西:座っている位置から3-9コンビが見えていたので、相手が1番を決めたらそのまま3-9コンビで取られそうだなと思っていました。ですが、1番をミスしてくれたので、ターンが回って来た時にすぐ3-9コンビの再確認をした覚えがあります。2番の位置もキーボールとして最高の位置(サイドポケット近く)だったので、ツキがあると感じていました。

 

――3-9コンビが決まった瞬間、どんな気持ち・感情が湧いてきたのでしょうか? 高々とキューを掲げていましたが、あれは自然に出たものですか?

 

小西:シンプルに嬉しかったです。優勝まで辿り着けたこともそうですし、今回自分で持って来た課題をやり遂げられた嬉しさもありました。キューを掲げる動きは自然に出ていたと思います。気が付いたら足まで上がっちゃってました(笑)。

 

今回の目標は「自分のプレーに集中すること」


 

――今年の全日本選手権にはどんなテーマ・目標を持って臨みましたか? 

 

小西:今回は「自分のプレーに集中すること」が大きな目標でした。

 

――大会前に何か「全日本選手権対策」はしていましたか? 練習・調整・準備など明かせる範囲内で教えてください。

 

小西:ちょうどアメリカのWPBAツアー(『ドクタープール/ジャコビー ツアーチャンピオンシップ』)から帰ってすぐだったので、「向こうで学んだことをすぐに全日本選手権でチャレンジできる」と前向きに挑めました。あとは、タイムスケジュール制の試合における準備ルーティンが少し決まってきていたのも良かったと思います。例えば、どのくらいの時間に起きてどのくらいで着替えてごはんを食べるか、などです。

 

――小西プロにとって全日本選手権とはどんな大会ですか?

 

小西:もちろんどの大会も自分にとっては欠かせないですが、国内ではグレードの高い試合ということもあり、『全日本選手権』と『ジャパンオープン』は他よりも少し意識します。

 

――予選ラウンドは2連勝で勝ち抜けました。ご自身のプレー内容や球の状態は?

 

小西:良い状態だったと思います。今回の目標である「自分のプレーに集中すること」がすぐに実践できたことが大きかったと思います。そのおかげでテーブルコンディションにもこれまでより早めに対応できたと感じています。

 

――決勝ラウンドのベスト32(谷みいな)、ベスト16(林媺玟 リンメイウェン。台湾)はともに競り合いになりましたが、どんなことを考えながら戦っていましたか? 

 

小西:ベスト32からシングルイリミネーションになるので負けられなくなるプレッシャーがありますが、そこは意識しすぎないようにメンタルコントロールに努めていました。谷みいなプロとは特に今年は国内・国外共に試合でよく当たっていて、自分の中で一つの山場だと感じていました。そこを乗り切るためにも今回の目標を改めて心掛けて臨みました。林媺玟選手とのベスト16は最終日前日の最終回転ということもあり、少しそれまでの疲れを感じていました。特に後半にかけて上がり切れるはずの配置をミスしてしまったり、これまでの試合よりパフォーマンスが落ちていました。でも、最後にマスワリで上がれたのは、ネクストが難しかった取り出しの1番をしっかりショットに行けたことが大きかったです(※動画は下に掲載)。あの1番がきっかけでそこから落ち着いた心境で取り切れたと思います。

 

――最終日の前の晩や当日朝はどんなことを思っていましたか? 「最終日はこうプレーしよう」「ベスト8の壁を越えたい」など考えましたか?

 

小西:「ベスト8の壁を越えたい」という気持ちはやはりどこかにありました。アマチュア時代に初めて全日本選手権に出た時(2014年)、昨年と一昨年、どれもベスト8敗退だったので。でも、ちゃんと今回の自分の目標に最後まで忠実でいようと決めて、勝ちたい気持ちが先行しないように努めました。目標を達成したらきっと結果も付いて来ると信じていました。

 

決勝戦第6ラックの8番を成功できたのは大きかった


 

――最終日の3試合いずれも小西プロが先行する展開でした。心身の状態の良さやショットの安定感、テーブル対応力などを頭から発揮できていたよう見えましたが、ご自身はすんなり試合に入れた感覚はありますか? 

 

小西:そうですね、スタートダッシュはよくできていたと自分も感じています。先ほどお答えした通り、ちゃんと心構えができていた状態だったのでメンタルも安定していました。テーブルコンディションも、はじめの2日間でたくさん撞いてましたし、他の方のプレーも見てきたので慣れてきていたと思います。

 

――そして、3試合全て相手が中盤以降に追い掛けてきてナイスプレーも見せていましたが、焦りやプレッシャーは?

 

小西:焦りは感じていませんでした。自分がミスをして相手に回してしまっている自覚も試合中にハッキリとあったので。1オンフット(ラック)の勝者ブレイクというフォーマットは、主導権次第で点数が大きく動くものだと思います。なのでプレッシャーは確かにかかりますが、展開には納得して自分のことに集中しようと考えていました。

 

――決勝戦の相手の謝雯(台湾)とは初対戦でしたか? 彼女の印象は?

 

小西:おそらく初対戦だと思います。よく試合で見かけていたので昔から面識はありました。彼女はテンポ感の良いスタイルで高いシュート力を持っているなという印象です。ジャンプショットなども綺麗に決められましたし、さすがだなと。試合中はポーカーフェイスでさっぱりとした人柄に見えましたが、表彰式前にお話したら優しい笑顔で笑ってくださる方でした。

 

――決勝戦だけを振り返ると、ご本人としては何点を付けられる試合だったでしょうか?

 

小西:うーん、80点くらいでしょうか。球の内容だけならもっと低い点数になりますが、メンタル面は自分の中でよくできていたので総合評価としてはそのぐらいです。

 

――決勝戦の中でカギになったと思う場面や球を教えて下さい。

 

小西:パッと思い浮かんだのは、第6ラックの8番です(※下記X動画)。その前の7番から8番へ当て出しする際に、8番をワンクッション入れてサイド穴前に運ぼうとしたのですが、力加減を誤って8番をロングに残してしまいました。その8番を、ネクストのイメージもしっかり持ってショットし、成功できたのは大きかったと思います。もしあそこでミスをして3-3にされてしまっていたら、ブレイク権も取られて一気に行かれてもおかしくなかったので、決められて良かったと感じています。

 

自分の状態が最高に良かったのは準決勝です


 

――相手に5-5に追い付かれた後も小西プロは崩れることがなく、しっかりと取り切りを重ねていました。あの大舞台の大詰めの局面で、なぜ集中力を持続させることができたのでしょうか?

 

小西:ただただ無我夢中でした。たしかに「5-5に追い付かれた」展開ではありましたが、自分の中では5-5までずっとシーソーゲームだったと感じていました。さきほどお答えしたように、このフォーマットは点数が大きく動く展開になりやすいと思うので、2~3点差はあまり「差」とは言えないと思っています。そんな気持ちでいたので良い集中状態を保ちやすい考え方になっていたのかもしれません。また、5-5にされた後の第11ラックで相手がブレイクスクラッチをしてくれて、フリーボールスタートだったのもツキがあったと思います。

 

――決勝戦以外で「状態がいいな」「ツイてるな」などポジティブな手応えがあった試合や場面はありますか?

 

小西:どの試合でもありました。目標のおかげで全体的に状態が良いことが多かったですし、ツイてる場面もありました。中でも状態が最高に良かったのは準決勝(vs 柳信美)です。柳信美選手とは台湾で昔開催されていたビッグイベント、『アムウェイカップ』のステージ2でTVテーブルで負けたことがとても記憶に残っていたので、今回リベンジを果たせて嬉しかったです。「ツイてる」と感じたのはベスト8(vs 平口結貴)です。ゲームボールがフロックインになってしまい申し訳なかったのですが、こんなそうそうないことがこの決勝日に出てくれたことは本当にツキがあると思いました。

 

――小西プロは今年も『8ボール世界選手権』『10ボール世界選手権』『WPBAツアー』など国際大会へ積極的に挑んでいますが、その経験は今回の優勝にどのような影響があったでしょうか?

 

小西:今回は特に、直前のWPBAツアーへの初参戦が大きく影響したと思います。フォーマットが、9オンフットラックの7ラックまたは8ラック先取の交互ブレイク、決勝戦までダブルイリミネーションとかなりタフな大会で、自分はステージ1から数えて4日間ほどで合計10試合してきました。対戦した選手の強さやショット力の高さ、振る舞いなどを見てきて、今の自分に必要なものを考えていました。その結論の一つを今回の目標に設定できたことが結果的に優勝に繋がったと思います。

 

――これまでの海外遠征で得られたこと、課題と感じたところ、そして現状でのワールドトップ達との差とは?

 

小西:得られたことは毎度本当にたくさんあります。課題も多く、まだ追い切れないほどです。ワールドトップの選手達とはどの部分でも歴然とした差を感じます。ショットもメンタルも基礎力も。この差を少しでも縮めて行くために日々勉強中です。

 

チャンスがある限り世界トップ達に食らい付いていく


 

――これからも世界への挑戦は続けていくのでしょうか? 国際大会に出る時はどのあたりの順位を現実的な目標としますか?

 

小西:ここ2年ほど多くの世界戦へ参戦することができていますが、チャンスがある限り挑戦を止めることはないと考えています。現実的に今の目標は、まず決勝シングルイリミネーション(ベスト16)にコンスタントに残ることです。今年7月の『8ボール世界選手権』で初めてベスト16に残ることができましたが、直近の他の世界大会では予選ダブルイリミネーションの最終戦が最高位です。そして、ゆくゆくは世界の表彰台に乗りたいです。先ほどお答えしたように、ワールドトップの選手達との差は歴然だと実感していますが、チャンスがある限り食らい付いていきたいです。

 

――今年の『チャイナオープン』では先輩の河原千尋プロが優勝しました。刺激を受けたり、意欲の向上に繋がったりしていますか?

 

小西:この場をお借りして、河原プロには改めて「優勝おめでとうございます」と述べさせていただきたいです。刺激を受けたのはもちろんのこと、日本の女子ビリヤード界に明るい夢を抱かせてくださったと心から思います。昨年から海外戦へ行く際はご一緒させていただくことが多く、実際に海外で戦う姿を見たり、色々なお話をうかがう中でとても多くのことを学ばせていただいています。身近にワールドトップ選手がいるのは恵まれた環境だと感じていますし、意欲向上にも繋がっています。

 

――『全日本選手権』で優勝した今、次の目標は?

 

小西:今年は珍しく12月にも国内、海外の両方で試合があるので(『全日本女子プロツアー in 京都』と『9ボール世界選手権』)、まずはその2試合で、今回のように自分で決めた目標をしっかりやり遂げて結果に繋げたいです。課題をやり切った先に良い結果が付いてくると信じてプレーしたいですし、逆に結果を出すためにはやり切ることが大事だと感じているので、妥協せずに臨みたいと思います。

 

――最後に応援してくれた方々へメッセージを。

 

小西:いつも暖かいお言葉をいただきありがとうございます。試合をする時は一人ですが、応援してくださる方々のお気持ちはいつもとても支えになっております。会場でも拍手やお声がけが励みになりました。より良いパフォーマンスを披露できるよう日々努めて参りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

(了)

 

Samia Konishi

1994年1月18日生、東京都出身・在住

JPBA52期生(2018年よりプロ)

2019年『全日本女子プロツアー第1戦』優勝

2023年『関西レディースオープン』優勝

2023年『東海レディースグランプリ』優勝

2024年『大阪クイーンズオープン』優勝

2024年『全日本女子プロツアー第3戦』優勝

2024年『北陸オープン』優勝

2025年『京都レディース』優勝

2025年『全日本選手権』優勝

他、入賞多数

 

アマ時代:

2008年『世界ジュニア選手権 女子の部』銀メダル、

『全日本アマチュアナインボール選手権』優勝2回、

『アマチュアビリヤード都道府県選手権大会』連覇

など、優勝・入賞多数

 

所属店:『Trigger』(千葉)

キューはMEZZ / EXCEED、タップは

スポンサー:日勝亭、Brunswick、肉球会、Zeke

 

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