土方隼斗・2年連続日本1位

国際メジャー大会ファイナリストの現在地とここから

2025年1月

 

2006年JPBA入り。

今年(2025年)プロ20年目の

シーズンを迎える土方隼斗。

 

これまでのキャリアで

国内タイトルをほぼ全て獲得し、

日本トップに位置する土方にとって、

2024年はひときわ忙しく、

そしてメモリアルな年になった。

 

海外連戦の中で果たした

チャイナオープン』の準優勝。

そして、2年連続4度目の日本ランキング1位

 

2023年『8ボール世界選手権』5位で

得た手応えは、

2024年『チャイナオープン』で

大きな自信に変わった。

 

今年36歳になる“マスワリ王子”は、

今何を見て、ここからどこに向かうのか。

 

2025年1月に話を聞いた。

 

アベレージと爆発力の両立を目指している


 

――お正月はどう過ごしましたか?

 

土方:特にどこにも行かず地元でのんびりしてました。12月はカタールに2週間ぐらいいたので(『カタールワールドカップ10ボール』&『10ボールアジア選手権』)、やっと年末年始に落ち着いたかなって。さかのぼると2024年は9月の『チャイナオープン』(準優勝)あたりからずっと試合続きだった感覚です。

 

――1年が終わる頃、疲れを感じたり?

 

土方:もうシーズン途中から疲れを感じてました(笑)。特に9~10月がハードで。『8ボール世界選手権』(ニュージーランド)、『ジャパンオープン』、『チャイナオープン』、ベトナム(『ホーチミンシティオープン』&『ペリオープン』)。40日間ぐらい大きな試合が続いて、日本に戻ってからも『GPE-5』『北陸オープン』『GPE-6』『全日本選手権』があって、毎週試合をしていた感じ。もちろんたくさん試合ができるのは楽しいですし、出れば得るものがありますけど、疲れは感じます。

 

――JPBAランキングで2年連続4度目の1位が確定しました。

 

土方:僕自身、2年連続の1位は初めてだったので素直に嬉しかったです。2020年からコロナ禍になり、その後首を痛めたりして、気持ち的に難しい時期もありましたけど、2023年はまた集中できて1位になれました。続けて2024年も1位になれたのは、高いアベレージを残せていたということだと思いますし、今年は海外ボーナス(『チャイナオープン』準優勝のポイント加算)もありましたけど、2位以下に割と大きなポイント差を付けての1位だったので、トータルで見ると力を出せていたのかなとは思います。

 

――2024年は国内でオープン戦優勝2回(『関西オープン』&『全日本14-1』)、『ジャパンオープン』と『全日本選手権』という2大タイトルでは3位でした。

 

土方:大きい試合でアベレージが高くなってきたのは良いことなんですけど、自分らしくはないかもしれません(笑)。今まで大きな試合では「爆発力で行き切れる時もあれば早く負ける時もある。落差が激しい」というのが、良くも悪くも自分の特徴だったと思います。少しずつアベレージプレイヤーに近付いているのかもしれません。ただ、『チャイナ』準優勝や『ジャパン』・『全日本』の3位は良い成績ですけど、勝ててはいないのでそこは課題ですね。高いアベレージを維持しながら、ここぞという時に爆発力も発揮できないとタイトルは獲れないと思います。その両立を目指しています。

 

2024年9月『チャイナオープン』で準優勝
2024年9月『チャイナオープン』で準優勝

緊張感を抑えながら静かに全集中することができた


 

――『チャイナオープン』準優勝は海外大会でのキャリアハイと言えるものですが、力を発揮できた実感はありますか?

 

土方:そうですね。テーブルコンディションが最近の国際大会標準みたいになっていて、ポケットも渋かったんですけど、そこでもコンスタントに力を出せたことは大きな収穫でした。決勝戦も自分の中で緊張感を抑えながら静かに全集中することができたと思います。最後はJ・フィラー(ドイツ)に負けましたけど、最低限のパフォーマンスは発揮できて、少なくともどこかで大きなボロを出してしまったという感覚はないです。それでも後半ああいう展開(6-6まで競り、後半フィラーに離されて6-11で敗戦)になってしまったのはしょうがないかなと思ってます。

 

――優勝できなかった悔しさは?

 

土方:それは思いのほかありました。まず準決勝で大井(直幸)プロと当たることが決まった時、結構複雑な気持ちになりましたし、勝った直後も喜べなかったです。でも、時間が経つにつれて、これだけの大舞台で決勝戦まで来られたことが素直に嬉しくなってきて、「負けても勝っても楽しみたい」という気持ちや「こんなチャンス、なかなかないから勝ちたい」という気持ちが出てきました。結果、決勝戦で負けてしまったことはめちゃくちゃ悔しくて……。決勝戦のプレーが100点だったかと言われたら100点じゃないんですけど、気持ちが入ってなかった訳じゃないし、フィラーを相手に自分のプレーが全くできなかった訳でもない。なんだろう、中盤から流れが向こうに行っちゃったなっていう悔しさですね。

 

――ある特定の球をミスしてしまって悔しい、ということは?

 

土方:1球あるんですけど、あのテーブルコンディションで決勝戦という舞台を考えると、1球だけなら悪くはないんじゃないかなと。他の世界トップ達の決勝戦を見ていてもミスはあることですから。ただ、決勝戦の後半では流れを引き寄せるようなスーパーショットは出せなかったですね。一発そういうのがあればまだ違ったかもしれません。でも、良い経験になったし、すごく悔しかったし、だからこそまた海外大会の決勝戦で戦いたいなと思いました。

 

――WPAメジャー大会でのファイナリスト。自信にもなったのではないでしょうか?

 

土方:そうですね。1年前の『8ボール世界選手権』(2023年10月)で5位になった時に、久しぶりに海外で上の方に行けてちょっと自信になりました。それからしばらく海外で上位に行けてなかったし、悔しい負け方をすることも多かったので、「自信もあってイメージも良いのに流れが掴めないしんどさ」を感じてました。それがチャイナオープンでは流れが向いてくれた感じはありました。正直、ブレイクの配置とか含めて運勢は良くなかったと思います。マスワリ量産で勝てた試合というのもありません。でも、準決勝もそうですけど、行き切れない配置が続く中で、なんとか攻防を制して取れたラックが多かったので、それが自信になった感じはあります。流れに乗って勢いで行けたら理想的ですけど、常にそれが出来る訳じゃない。展開が悪くても集中を切らすことなく、セーフティも上手くこなしつつ戦う。トッププロ達を相手にそういう攻防戦を制して勝てたことで、「こんな試合展開でも行けるんだな」って自信になりました。

 

――以前の取材で、海外遠征における移動・睡眠・体調管理の難しさも語っていました。そのあたりはだんだん対処できるようになっているのでしょうか?

 

土方:色々やってますけど、今もやっぱり難しいですね。距離が近いせいかまだアジア圏の方が体調を整えやすいというか、力を出しやすい気はします。でもなんだろう……時差というより、宿泊施設とか滞在環境ですかね。ホテルも民泊も両方使いますけど、民泊は行ってみないとわからないところもありますし。どんな所でも自分のコンディションを整えられるように意識はしてますけど、やっぱり良い環境に滞在できると試合で力を出しやすいのは間違いないです。

 

↑全日本選手権ベスト16のラストラック

 

まず追い上げること、追い付くことが大事だなと


 

――『チャイナオープン』以外で2024年に印象に残っている試合とは?

 

土方:良かった試合を挙げると、『全日本選手権』ベスト16です(vs 呂輝展〈ルーフェイザン〉。前年前の決勝戦の再戦)。3-10からまくって上がれた(11-10で逆転勝利)のは本当にナイスだったと思います。悪い意味で印象に残ってるのは『ジャパンオープン』準決勝(vs 林宗翰)ヒルヒルの9番インスクラッチ。ああいう状況であんな負け方したことはあまりありません。あと海外戦で悔しかったのは、マリオ・ヒー(オーストリア)に『ペリオープン』(ベスト64)と『カタールワールドカップ10ボール』敗者最終)の2回負けたこと。両方とも4-8から追い付いたんですが、ヒルヒルで負けてしまいました。ただあのクラスの選手を相手に2回ともヒルヒルまで持ち込めたのは成長を感じる部分でもあります。

 

――2024年成長できたと思うところもお聞きしたいと思っていましたが、今挙がった呂輝展戦やヒー戦で発揮できた「切れずにやること」や「粘り」がそうでしょうか。

 

土方:そうですね。精神面は成長したと思います。相手に大差でリードされても切れにくくなったというか、負け目なメンタルではなくなったというか。「こんなにまくれる自分がいるんだ」と体感した1年ではありました。追い掛けている最中に致命的なミスをしてしまうこともそんなになかったと思います。今までは大量リードされたら少し諦めが入ってしまって、せっかくターンが回って来てもミスで返すこともありました。海外トップ達は大差でリードされてても、何も変わらず撞いているように見えるじゃないですか。心の中ではキツイなと思ってると思うし、結果として負けちゃうこともあると思いますけど、まず追い上げること、追い付くことがとても大事だなと。

 

――「諦めない」と口で言うのは易しいですが……。

 

土方:しんどいです(笑)。そもそも、プロ活動19年の中で2024年はかなり辛かった1年でもありました。負けた試合は、とにかく相手選手によく入れられたり、ミスなく撞かれた試合ばかりでした。本当に苦しかったですけど、「気持ちを切らしちゃダメだ」となんとかプラス思考でいようと努めてました。でも、それが続くとやっぱりストレスも溜まるし、疲れます。

 

2月『PBS ラスベガスオープン』にて。TVテーブルでS・バンボーニングと対戦
2月『PBS ラスベガスオープン』にて。TVテーブルでS・バンボーニングと対戦

今の自分がWNT.に参加するのはとても厳しい


 

――話は変わりますが、土方プロはこれまでのところ、WPA系の試合を中心に海外大会に出ています。今後WNT.(マッチルーム)の試合に出ることもあるでしょうか?

 

土方:まず、今の僕にはWNT.の全ての大会に出られる権利はありません(※WNT.プロではない)。そして、権利がない選手がWNT.に挑戦するには、今はハードルが上がりすぎているとも感じます。昨年は『ぺリオープン』(WNT.系)には出ました。これからも出られるならWNT.イベントの予選会やWNT.系オープン戦にも出てみたいとは思いますけど、出るとWPAからの制裁があるでしょうし、国内外の大会と日程が重複していたり、予選会はヨーロッパやアメリカで行われることも多くて、そうなると経費と時間もかなりかかるので、とても厳しいですね。

 

――単純にいちプレイヤーとして見ると、WNT.は魅力があるでしょうか?

 

土方:プレイヤーとしては、ショーアップされて盛り上がっている試合はWNT.の方が多いと感じます。それにWNT.は選手一人ひとり、特にトップ選手をアピールして、スターに仕立てて行くのが上手いなという印象です。イベントのスケールも大きいですし、出られるならあの強いメンバーの中で戦って勝ちたいなとは思います。一方、WPAは誰を優遇する訳でもなく、各国代表を呼んで行う「世界の公式戦」という感じです。

 

――WPAとWNT.が対立している状況はプレイヤーとしてはすごく困りますよね。

 

土方:そうですね。トップ選手達、特にアジアのトップ達は考えることが多いと思います(※WPA傘下のアジア組織、ACBSは強硬な姿勢を示している)。去年は制裁があったりなかったりわかりにくかったですし、成績を残せば残すほどどちらかだけを選ぶように迫られてしまうというか。難しいですよね。WNT.の上の方にいる選手達の中にも、出られるならWPAにも出たいという人はいるでしょうし。対立が解消されないなら、互いに競い合って、両方とも賞金が上がっていくのが選手としては良いことなのかもしれません。

 

――その意味では、12月に初開催されたWPA『カタールワールドカップ10ボール』は賞金額が高い大会でした。

 

土方:試合環境は良かったです。空港から公式ホテルへ行きやすいし、会場はホテルの中にあるからとても楽です。大会によっては自分でホテル探しから何からやらないといけない時もありますけど、カタールみたいに一箇所にまとまっているとストレスを感じることは少ないです。実際、会場はそんなにショーアップされていた訳じゃないし、ギャラリーもほとんどいなかったけど、悪くはなかったです。テーブルコンディションも全体的に良かったと思います。ただ、レフェリーラックとかレフェリーの対応はかなりばらつきがありました。『チャイナオープン』はレフェリーが訓練されていてレベルが高いので結構差を感じましたね。2回目以降、クオリティが上がっていくことを期待しています。

 

↑『土方隼斗のビリヤードTV』より

 

自分の発信の場が確立できた


 

――そういえば、YouTubeチャンネル『土方隼斗のビリヤードTV』はそろそろ5年になりますね。現在登録者数が5万人。競技活動を続けながら、発信も続けています。

 

土方:もう5年ですか……始めた頃はコロナ禍でしたね。今は更新頻度が高くなくて週1ぐらいです。できれば企画系の動画をもっと上げたいとは思ってますけど、なかなか手が回りません。

 

――楽しさややり甲斐は感じていますか?

 

土方:正直、楽しさを感じられる瞬間は少ないというか、もともと楽しさを求めて始めたことではないのでそれは良いんですけど、やり甲斐は感じています。自分で企画を考えて色々動くのは嫌いじゃないですし、ちゃんと見てくださる人がいるというのはありがたいです。「動画を見てビリヤードを始めたんです」「ビリヤードを始めてから動画に出会って練習してます」という声をいただくことも多いので、「もっとちゃんとやりたいな」と思いつつも、これだけ試合が増えてくると、動画制作に集中するだけの気力がなかなか出てきません(笑)。企画はいっぱい考えているんですけど。

 

――もともとお好きなんですね、企画を考えることが。

 

土方:はい。「やりたいことリスト」は50個以上あります。でも、今一番頑張りたいのはプレイヤー活動ですし、動画の撮影・実演・編集のことを考えるとどうしても腰が重くなるというか(笑)。演者だけやってあとは全て人任せならいくらでもできるんですけど、全部自分でやっているのですごく時間がかかることがわかってますし、なかなか取り掛かれません。ただ、自分の発信の場が確立できたおかげで、例えばこないだの『カタールワールドカップ10ボール』や『アジア10ボール選手権』など海外の試合も自分でライブ配信できるようになりましたし(※海外では「選手本人に限り動画撮影を認める」という大会がいくつかある)、より多くの人に試合を楽しんでもらえるようになったので、それはすごく良かったです。ライブ中にチャット欄でどんなやり取りをしているのかなども後で見ています。

 

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2024年9月『ジャパンオープン』
2024年9月『ジャパンオープン』

30代のうちにこれという成績を残したい


 

――最後に、2025年の目標をお聞かせください。

 

土方:国内で言うと、まず「3年連続ランキング1位」です。男子ランキングで3年連続1位になった人は近年(※JPBAランキングが「統一ランキング」になった1990年代後半以降)いないので、狙って頑張ってみたいと思ってます。もともと2024年は「2年連続1位」にはこだわらずにやってたんですけど、後半はさすがに意識してました。せっかく2年連続1位になれたので、次は3年連続で。それと「全日本選手権優勝」。これは2024年の目標でもありましたけど、まだ勝ててないので2025年も引き続き全日本初優勝を目指します。そして海外では、去年は優勝にあと一歩届かなかったので、また決勝戦を撞いて今度は優勝したいというのが一番の目標です。

 

――その3つを達成するには何が必要だと思いますか? スキル? 運勢?

 

土方:なんでしょう……運勢があれば全て行けそうな気もします(笑)。でも、運勢に味方に付けるために何が必要かと言われたら難しいですね。気持ちを切らさず、今やっていることをやり続けていくしかないのかなって。さっきも言った通り、試合では「流れを掴めない時でもなんとか攻防を制して点を取る」しかないと思います。それが「勝ち続ける」とか「勝ちにこだわる」ということだと思いますし、優勝やランキング1位に繋がっていくところだと思います。

 

――あと2ヶ月で36歳(3月16日が誕生日)。年齢やキャリアを意識することはありますか?

 

土方:そう、もう30代後半です(笑)。最近少しは年齢を意識しますね。今は40代で活躍しているプレイヤーも多いですけど、体力・気力が一番充実していて、一番海外に行きやすいのは30代だという気はしているので、これから何年かの間に『これ』という成績を残したいという気持ちは強いです。2025年も頑張ります。

 

(了)

 

Hayato Hijikata

JPBA40期生

1989年3月16日生 東京都出身&在住

アマ時代の2005年『世界ジュニア』銀メダル

2005年、2013年、2019年、2020年『関東オープン』4勝

2007年『ルカシージュニアワールドテンボール』優勝

2008年、2019年『北海道オープン』2勝

2010年『エイトボールオープン』優勝

2013年&2016年『ジャパンオープン』優勝

2013年、2014年、2016年、2024年『関西オープン』4勝

2013年『東海グランプリ』優勝

2016年『全日本ローテーション』優勝

2016年『ハウステンボス九州オープン』優勝

2016年『北陸オープン』優勝

2018年&2024年『全日本14-1』優勝

2024年『チャイナオープン』準優勝

『グランプリイースト』通算24勝、他、入賞多数

2013年、2016年、2023年、2024年JPBA男子年間ランキング1位

使用キュー:EXCEED & MEZZ

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YouTubeチャンネル:土方隼斗のビリヤードTVあつまれ☆ビリヤード

 

 

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