〈BD〉10日(日)『GPE-6』がラスト実況。「GPEの声」“なおるだ”インタビュー【後編】

2016年『GPE-1』にて。左から解説の塙圭介、同・井上浩平、実況の“なおるだ”(加藤直哉さん)
2016年『GPE-1』にて。左から解説の塙圭介、同・井上浩平、実況の“なおるだ”(加藤直哉さん)

 

JPBA東日本男子プロツアー、

『グランプリイースト』(GPE)の

実況を16年務め、

 

明日10日(日)の

GPE-6 in BAGUS川崎店』が

GPEでの実況納めとなる

“なおるだ”こと加藤直哉さん。

 

加藤さんの思う

『ビリヤード実況の醍醐味』と

『実況時に心掛けていたこと』を

掘り下げるインタビュー。

 

11月6日(水)公開の【前編】に続き、

【後編】をお届けします。

 

ーーーーーー

 

2018年『GPE-8』。解説は左から西嶋大策、小川徳郎
2018年『GPE-8』。解説は左から西嶋大策、小川徳郎

 

――前編で「昔から実況者に注目してスポーツ中継を見ていた」という話がありましたが、影響を受けた実況者は?

 

加藤:一番はF1を実況していた時の古舘伊知郎です。F1が日本でブームになって、僕もそれで好きになったんだけど、あれは古舘さんの実況があってこその広がりだったと思ってます。中嶋悟というドライバーの存在やフジテレビの力の入れ具合もあったけど、古舘さんがF1というコンテンツの面白さを世に知らしめたと。他に野球ならこの人、NBA(バスケ)ならこの人、Mリーグ(麻雀)ならこの人という感じでたくさん好きな実況者はいるけど、一番は古舘さんです。

 

――加藤さんは最近よくMリーグも見てますね。

 

加藤:Mリーグというコンテンツ自体の面白さに加えて、日吉辰哉さんの軽快な実況が人気を呼んでいると思います。自分はプロの実況者ではないですけど、「裾野を広げていくためにはどうするか」「まだよくわかっていない人たちにも楽しんでもらえるにはどう伝えるか」というところを意識しているので、日吉さんのようなビギナーにも「麻雀って楽しいもの」を伝えるような実況スタイルは、ビリヤードに置き換えて参考にしています。

 

ちなみに、ビリヤードファンの中にMリーグファンの方もちょこちょこいて、僕の実況を聴いて「日吉さん味、出してましたね」って言われたこともあります。意識していましたが、完全に感化されてます(笑)。 

 

――前編にも出てきましたが、「どの層に向けて話すべきか」という問題には答えがないですよね。

 

加藤:以前「もっとビリヤードをわかってる人に実況をやらせろ」みたいなコメントを目にした時は正直がっかりしたんですけど、後でよくよくそのコメントを噛みしめたら嬉しくなってきました。

 

――と言いますと?

 

加藤:僕はプロのすごさを伝えるために、ビギナー~Cクラスぐらいの、あまり知らない・できない人のテイで実況することをできる限り心掛けています。「今球が変な動きしましたね?」「えっ、今のは何ですか?」という素直な反応をして、解説のプロの方から「これはこうで」と教えてもらう役回りに徹しているところがあるので、今ではそういったコメントをいただくと、「あ、ちゃんとそっちを演じられてたんだ。不自然じゃなかったんだ」と思うようになりました。なので、むしろ褒め言葉だなと。

 

――GPEの実況を始めて約16年。当初と今ではどんなところが変わりましたか?

 

加藤:明らかに視野が広くなりました。1日3試合(ベスト8、準決勝、決勝戦)、全ての球について事細かに語っていると長くて面白くないから、解説のプロに「試合ではどんなルーティンを持ってますか?」みたいな話を振ることがあります。目の前の試合からは少し脱線するけどビリヤードに関連する雑談に入る訳です。で、昔は雑談に入ってしまったら目の前の球を全然追えなくなって、その間に出たすごいショットを見落としたりしたこともありました。でも、今は両方を追えるし、どこで雑談を一時停止するか、バサッと切ってしまっていいかどうかとか、バランスも取れるようになりました。

 

1:2013年にプロ初優勝を飾った井上浩平。優勝したのは『GPE-1』でこの写真は同年『GPE-5』。井上プロは解説者としても人気が高い

2:2016年『GPE-2』で復活優勝を遂げた西嶋大策

3:2019年『GPE-4』。準決勝で大井直幸のスーパーショットを実況解説していた3名。中央はタレントのくじらさん、右は青木亮二

4:GPEで男子プロに混ざって4度も決勝ラウンド(ベスト16)に進んでいる平口結貴(左5)。この写真は2018年『GPE-2』の朝

 

 

――実況していて記憶に残る試合はありますか。

 

加藤:順位は付けられないですけど、3つぐらい挙げますね。まずは、井上浩平の初優勝です。2013年GPE-1 in 千葉デキシークラブ。決勝戦の相手が、GPE年間ランキングMVPを今年(※最終戦前にMVPが確定)含めて5回も獲ることになる羅立文で、その時解説席に座ったのは井上プロと親しい塙圭介。決勝戦の実況はいつも自然と熱が入るものだけど、この時は塙プロの井上プロに対する気持ちとかも乗っかりつつの実況解説だったのでよく覚えてます。そして、次は西嶋大策の復活優勝。

 

――2016年GPE-2 in 千葉プールカイザーですね。

 

加藤:西嶋プロが大きな病気をして、療養とリハビリを経ていよいよ試合に出られるまで復調して、その初戦でした。決勝ラウンドに残っただけでもすごいし、皆に「体調どうなの? 大丈夫?」って心配されながらそのまま優勝するっていう(笑)。半端じゃない。あの復活劇には感動しました。あとは……2つ出していいですか?

 

――どうぞどうぞ。

 

加藤:記憶に残るスーパーショットという意味では、2019年GPE-4 in 大田区産業プラザ(特設会場)の準決勝で大井直幸が撞いたこのロングの引き球ですね。↓

 

↑ 18min.より大井直幸の3番ドローショット

 

 

加藤:これは今見てもビビるスーパーショット。3番を入れて真っ直ぐ手球を引いてるんですけど、4番のポジションエリアがすごく狭くて引き加減をぴったりと合わせないといけない。それを大井プロが完璧に決めた。その瞬間もう鳥肌がすごかった。その時はゲスト解説でタレントのくじらさんもいたんですけど、皆で「超うめぇ~!!」って声が出ました。

 

――最後は?

 

加藤:これは自分の実況と直接の関係はないんですけど、平口結貴がGPEの決勝ラウンドに4回も勝ち残って、そのうち2回ベスト8まで勝ち進んだことは割とすごいことだと思ってます(2019年GPE-7と2022年GPE-3)。なかなか予選を通るだけでも難しいGPEで、女子プロがそこまで行くなんてという驚きがありました。他にもたくさんあるんですけど、パッと今思い付いたのはこの4つです。

 

――我ながらナイスだったなと思うフレーズや選手のニックネームなどは?

 

加藤:何かあるかな……、それこそ前編でも出てきた「キヨシ師匠」(鈴木清司プロのこと)は、ご本人にも視聴者さんにも受け入れられてますね。あれは東北の鈴木淳プロと鈴木清司プロをあわせて「アツシキヨシでどうですか?」っていう軽いノリから派生しました。上方漫才コンビの名前みたいなゴロの良さがあって。

 

似たようなところでは、嶋野聖大の「ゆとり王子」も僕が言いふらしたかもです。 字面だけ見ると悪ノリしすぎと思われるかもしれないですけど、ちゃんと本人に了承は得ていますし、「全然いいです。むしろありがたい」と言っていただいてます。プロ選手は何かとキャラが立って少しでも目立ってた方がいいですしね。 あとは、フレーズというか口癖っぽいものですが、「えっ、この球すごくないですか!?」は、よく言ってるって言われます。

 

――言ってます(笑)。

 

加藤:それから、好きな古舘伊知郎のオマージュで、プロレスっぽく選手本人になりきった節回しを使うこともありました。「俺を誰だと思ってるんだ! ◯◯だぞ!」みたいな。でも、だいたいそこまで行くと「ウザい」という反応もありましたね(笑)。

 

――「この人とはよく喋ったな」という印象のプロは?

 

加藤:一番多いのは塙圭介じゃないかと思います。最近だと嶋野聖大。2人とも優しくて、いつも解説を引き受けてくれるし、話しやすいです。同じくめちゃくちゃ喋りやすいのはキヨシ師匠。技術的にもすごいプロですし、年上なんですけど、いじってもそれに乗っかってくれます。

 

他にもたくさんのプロの方と喋らせていただきましたけど、GPEの決勝ラウンドで解説をするということは、ベスト16、ベスト8、準決勝のどこかで負けてしまっているということなので、やっぱり皆さん負けた後は熱くなってるし、解説は解説で疲れるんです。だから、積極的に解説をしたいという人はそんなに多くないと思うんですけど、なんやかんやいろんなプロの方が「なおるだが言うなら」と引き受けてくれました。一瞬「え~」っていう反応をされることばかりなんですけど(笑)。あ、ただ、この数年は「解説やりたいです」という若手プロが増えてますね。神箸渓心や杉山功起とか。これはとても嬉しいです。

 

――昔は解説をする=罰ゲームっぽい受け止められ方も、プロの間にあったかもしれないですね。

 

加藤:そう、ちょっとありました。僕が会場で解説をやってくださるプロを探しながら近寄っていくと、モーゼの十戒なみに道が開けることもあったり(笑)。僕に肩をトントンされないようにオーラを消していて。でも、だんだんとビリヤードの試合の配信には実況解説があった方がいいよねっていう風潮になってきたのは嬉しいです。だからこそ、若手プロも積極的にやってみたいと思うんでしょうし。

 

1:2021年『GPE-4』。川上善広、丸岡良輔

2:2022年『GPE-1』。松川慎之介、早瀬優治

3:2023年『GPE-1』。小原洋平、木本忠臣

4:2024年『GPE-3』。菅原利幸、照屋勝司

 

 

――加藤さんご自身は約16年GPEの実況をやってきて慣れていると思いますが、開催日が近付くとどんな気持ちになっていたんですか?

 

加藤:昔は楽しみな気持ちでしたね。会場に来てくださった30~40人だけに向けて(場内FM)で話すだけだったので。そこからUSTREAMやYouTube Liveというライブ配信映像に音声が乗るようになってからは、視聴者数が全然違うから楽しみ半分プレッシャー半分みたいな感じでした。で、ここ数年は正直言えばちょっと気が重いなと感じることの方が増えてきました。結局それがGPE実況の卒業にも繋がっている気がします。

 

――実況者の立場から見たGPEの魅力とは?

 

加藤:「高野智央応援団(自称)」の一人として会場に通っていた頃から思うのは、「とにかくGPEは他の大会より面白い」ということ。実況解説は聴いててめちゃくちゃ楽しかったし、勝者予想トトカルチョとか、ブレイクスピードガンコンテスト(※今はない)とかがあって、ずっと会場にいても楽しめました。立ち上げ当時から、観に行った人の満足度はかなり高い試合だったと思います。

 

前日に予選をして決勝日はベスト16からということで、決勝ラウンドの価値が高かったし、シングルトーナメントの一発勝負なのも良いところだと思います。GPE独自のランキングもしっかりしています。そんなふうにリニューアルをしたのが銘苅さん(銘苅朝樹。元プロ)をはじめとするGPE発起人の人達ですけど、そのおかげでビリヤードプロの大会が「コンテンツ」に生まれ変わったと思います。その面白さもあって昔の僕はGPE会場によく行くようになってました。もちろん他の大きなスポーツイベントと比べることはできないんですけど、少なくとも昔の『東日本男子プロツアー』に比べたらはるかに良くなりました。

 

――わかりました。最後に、加藤さんの実況を楽しんでくれていた方々へ一言。

 

加藤:GPEの実況解説を聴いてくださった皆さん、ありがとうございました。会場で直接声を掛けてくださったり、SNSなどでコメントをしてくださった人にも感謝しています。知らない方からたまにメッセージをいただくこともありました。「いつも楽しみにしています」「今回も楽しかったです」という励ましやお褒めの言葉がめちゃくちゃ嬉しかったです。「実況解説を聴きながらビリヤードを楽しむ層」が少しでも増えればいいなと思いながらやっていたので、今は少しさみしさもあるけど、実況者としてGPEに関われて本当にありがたかったですし、人間としての厚みを得ることができました。

 

――加藤さんが伝えてきた「観るビリヤードの楽しみ」がもっと広がるといいですね。

 

加藤:そうなんです。ビリヤードはプレーする楽しさだけじゃなくて、観る楽しさもすごくあるので、これからもプロの試合を観て欲しいなと思います。ぼーっと眺めるだけじゃなくて、例えば推しのプロを見付けて応援しながら観ているとより一層楽しめると思います。僕がGPEで実況をするのは今週末の第6戦(GPE-6)が最後です。ぜひ実況解説を聴きながらお楽しみください。ビリヤードはいつまでも味のなくならないガムです!

 

(了)

 

※インタビュー前編はこちら

 

1:2024年9月『ジャパンオープン』にて。加藤さんは2014年からジャパンオープンの特設会場(ニューピアホール)オーガナイザーとして進行管理を担っていた。そちらも今年で卒業

2:ライブ配信画面に加藤さんの姿が映ることはないが、近年はビリヤードデザインの服を着用して実況することが多かった。2022年撮影

 

加藤直哉Profile:

ニックネーム:なおるだ

生年月日:1975年4月4日

出身・在住:新潟県/神奈川県

ビリヤード歴とクラス:約25年(実況を始めてからはほとんど撞いていない)/Aクラス

使用キュー:オリビエ

職業:会社員

好きな海外ビリヤードプレイヤー:トーステン・ホーマン(ドイツ)

 

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