〈BD〉「インレイネーミング論~後編~」――Detective “K” season 8 episode 05

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

気が付くと2024年の春。

 

2023年はオレ的にシビアな1年だったが、

今年はビリヤード界が変わる予感がする年だな。

 

ピコン!

 

BDからのメッセージだ。

 

『K、ご無沙汰です。

昨年はこの連載をなんとか

新たなシーズンに繋げましたね。』

 

シーズン8に感謝だ。

ビリヤードがオレを生かしてくれている。

 

『それは何より。ところで、

ひとつ忘れている調査がありますね。』

 

ん? 何かあったかな……。

 

『シーズン7の

インレイネーミング論】が

完結していません。』

 

うっ……確かに。

 

『思い出しましたね。

キューのインレイ形状を表現する

【インレイネーミング】は

まだまだあるはずです。』

 

シーズン7では、ベーシックな

インレイ形状だけだったからな。

 

『そうです。

複雑なインレイパターンの

ネーミングを調べてください。』

 

分かった、オレはキュー探偵。

その依頼、引き受けた!

 

******

 

前回(といっても2023年だが)

解説した通り、

 

キューコレクターやディーラーは、

キュー取引を円滑に進めるため

一つのデザインに一つの言葉を与え、

互いが認識を共有できるよう

「デザインの言語化」を発達させた。

 

1970年代以降、

カスタムキューメーカーの

登場によりデザインが進化。

比例してネーミングの

バリエーションが増えてゆく。

 

その草分けが、ガス・ザンボッティだ。

 

******

 

ザンボッティ
ザンボッティ

 

☆ザンボッティとスクラグス

 

1960年代から1970年代の

リーダー的キューメーカー、

『パーマー』社がインレイパーツを

外部メーカーに頼っていた時代、

 

アメリカ北東部、ペンシルバニア州

フィラデルフィア近郊在住の

ガス・ザンボッティは、

自らがデザインし、

「パンタグラフマシン」という

工作機械を使ってインレイパーツを

素材から切り出す工程から始めた。

 

そのデザインには、

 

【プロペラ】画像左から3本目、5本目、6本目

【ピーコック】

【レザーブレード】画像左3、5、6

【スピア】画像左4

【レイルロードトラック】画像左1

 

など、モチーフにちなんだネーミングが

ガス自身により与えられた。

 

1993年のスクラグスのカタログ
1993年のスクラグスのカタログ

 

この流れを汲んだのは、

メリーランド州ボルチモアの

ティム・スクラグス。

 

【クロックハンド】画像左5

【ティファニーダイヤ】画像左3、5、6、8

など、ザンボッティとは異なる、

より洗練されたデザインを生み出した。

 

フィラデルフィアとボルチモアは

160キロ程度しか離れておらず、

ザンボッティや、後ほど述べる

ジョスから影響を受けつつも

独自性を打ち出したのだろう。

 

両メーカーが生み出した

インレイパターンは、

他のメーカーにも広まり定番となる。

 

同時にそれらのネーミングは、

キューのデザインを語る上で

欠かせないワードとなったのだ。

 

******

 

タッド
タッド

 

☆ジナキューとタッド

 

アメリカ西海岸カリフォルニア州のメーカー、

ジナキューとタッドは、

マザー・オブ・パールの

ダイヤ形やドット形インレイ、

あるいは染色された薄板(ベニヤ)を

組み合わせたデザインが主流。

 

ベニヤのライン両端をドットで留めた

【バーベル】

片側のみ留めた【ガンサイト】

1960年代後半のジナキューで登場。

 

3つのドットを少しずつ重ねる

【クローバー】(下の画像)は、

タッドにも見られる

西海岸メーカーの象徴的パターンだ。

 

ジナのレインボーとクローバーの例
ジナのレインボーとクローバーの例

 

また、ジナキューは

1972年にキュー製作から離れるが、

1989年に再開すると

様々なデザインを生み出し、

高級カスタムキューのデザインを進化させる。

 

特に【レインボー】(上の画像)と呼ばれる、

ハギの間に入れられた

アーチ状のインレイは有名。

 

高級カスタムの中のカスタムと呼ばれる

ジナキューの代表的デザインだ。

 

同じ西海岸でも、多彩なインレイを

生み出したのがバート・シュレーガー。

 

「これぞシュレーガー」という

パターンがいくつもあるが、

ほとんどネーミングがなかった(苦笑)。

 

これは短期間ながら共同製作していた、

ディヴィッド・ポール・カーセンブロック

(2024年2月10日逝去。冥福をお祈りする)

による抽象的なデザインが多かったから、

かもしれん。

 

******

 

ジョスの1994年カタログと【ナンバー18】(2枚目画像右端)

 

 

☆ジョスとメウチ

 

アメリカ東西のキューメーカーの

「良い所取り」をしたのが、

2人のハスラー、

ダン・ジェーンズとビル・ストラウドが

1968年に立ち上げたジョス。

 

ジョスは、

東海岸メーカーのデザインテイストを、

西海岸メーカーが用いたインレイ技術で表現。

 

1972年、ジョスとジョスウェストに分裂し、

それぞれが独自デザインを発展させてゆく。

 

1本ごとに異なるデザインの

少量生産に徹したジョスウェストに対し、

同一デザインのキューを量産したジョスは、

モデルナンバーがデザイン識別の

ネーミングとなった。

 

例外は、1987年の映画『ハスラー2』

(原題:The Color Of Money)で

使用されたキュー。

 

ほぼ同一デザインの市販モデル

【ナンバー18】(2枚目画像右端)は、

 

日本で『ハスラー2モデル』、

米国では“The Color Of Money Cue”と

呼ばれた。

 

そのネーミングで呼ばれる

デザインを施したモデルは、

仕様をアップデートしつつ

現在でも生産されている。

 

メウチの1993年のカタログと【クラウンジュエル】(右)

 

 

一方、キュー全体を

様々なモチーフからデザインした草分けが、

1975年ミシシッピ州で設立されたメウチ。

 

プレイヤーの間では、

モデルナンバーよりもキュー個々の

デザインモチーフのネーミングの方が

知られている。

 

【釣り針】画像上1、M-9

【ギャンブラー】画像上4、M-12

【ローズ】

【ハイウェイ】画像上7、M-15

【シールド】画像上8、M-16

 

などネーミングだけでデザインがわかる

モデルが数々製作された。

 

特に1980年代末に日本へ輸入され、

当時2,000万円のプライスタグが付けられた

【クラウンジュエル】は、

コレクターには有名なデザインだ。

 

メウチはネーミングが与えられるような

モデルが減った2000年代以降、

存在感が薄れてしまう。

 

ビリヤードとは関係ないモチーフを

デザインに用いる手法は

現在でも魅力的に思える。

 

「刺さる人には刺さる」キューならば

買うというプレイヤーは多いはずだ。

 

******

 

サムサラの1995年カタログ

 

 

☆サムサラとリチャード・ブラックとコグノセンティ

 

2024年4月、

アメリカン・キューメーカーズ・アソシエーション(ACA)の

キューメーカー殿堂入りが決まった

サムサラ。

 

インターシャ技法によるデザインには、

メーカー自身によるネーミングが与えられた。

 

なかでも

【スワール】2枚目画像左9(ナインボールの右横)

【ファンテイル】2枚目画像左10(テンボールの右横)

 

は、他に模倣するメーカーがいない

唯一無二のデザイン。

 

逆に「サムサラ」といえば、

これらをイメージするほど。

 

ブランドとデザイン、ネーミングが

一つのセットとなっている稀有な例なのだ。

 

1枚目:リチャード・ブラックの1980年代のカタログ 2枚目:コグノセンティの1996年のカタログ

 

 

また、メーカー自身が

ネーミングしたデザインでは、

1980年代のリチャード・ブラック、

1990年代のコグノセンティを挙げたい。

 

どちらも洒落たネーミングで、

デザインとネーミングの両面で

様々なイメージを与えてくれる。

 

リチャード・ブラックの

【アフターシックス】画像左6

【ブラック・バロン】画像左8

【アラモ】画像左11

 

コグノセンティの

【シセイドー】

【ダブルビジョン】

【ロゴポイント】画像右1

 

などは聞いただけでもどのようなデザインか、

興味が湧いてこないだろうか? 

 

******

 

インターネットとSNSの普及は、

インレイデザインのネーミングを

広めると同時に、画像を共有し

「見れば分かる」ようになったことで、

「デザインの言語化」を不要とした。

 

さらに、高級モデルの複雑な

インレイデザインや、

ブレイクキューなどに見られる

プリント技術によるデザインは、

言葉による表現が難しい。

 

キューのデザインを語り合う機会、

つまり考え方や価値観を相互に伝える

コミュニケーションが減っているためだろう。

 

会話の中で、

デザインとネーミングが一致して、

互いにニヤリとする瞬間こそが

キューを語り合う楽しみなのだがな。

 

******

 

インレイのネーミングについてはここまで。

 

次回は

『スーパービリヤードエキスポ』(4月アメリカ)

現地速報レポートだぜ、BD!

 

…………

 

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