〈BD〉「追悼 ダン・ジェーンズ」――Detective “K” season 7 episode 13

ジョス(Joss)の創業者、  ダン・ジェーンズ(Dan Janes)
ジョス(Joss)の創業者、 ダン・ジェーンズ(Dan Janes)

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

先日は、キューケースメーカー、

ジャック・ジャスティスの訃報

伝えたばかりだが、

 

今度は2023年6月20日(現地時間)、

キューメーカー、ジョス(Joss)の創業者、

ダン・ジェーンズ(Dan Janes)の

訃報が届いた。享年83。

 

追悼が続くと正直気が滅入るが、

BD読者に伝えないわけにはいかない。

 

BD、今回もオレの思い入れ優先だ。

よろしくな!

 

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1960年代、ロードプレイヤーだった頃のダン・ジェーンズが対戦した往年の名プレイヤー、エディ・テイラー(左)とエド・ケリー(右)とともに
1960年代、ロードプレイヤーだった頃のダン・ジェーンズが対戦した往年の名プレイヤー、エディ・テイラー(左)とエド・ケリー(右)とともに

 

ダン・ジェーンズは1939年12月、

ケンタッキー州の生まれ。

 

ビリヤードを始めたのは16歳。

数年後には旅回りのハスラー

(ロードプレイヤー)として、

全米各地を転戦。

伝説のプレイヤーたちと

勝負するまでになった。

 

1960年、ダン・ジェーンズは

メリーランド州ボルチモアの、

『プラザビリヤード』という

ビリヤード場スタッフの職に就く。

 

1965年のある日、ダンは訪ねてきた

ハスラーのビル・ストラウドと意気投合。

 

2人は勝負だけでなく、

キューの売買も手掛ける旅に出た。

 

当時、撞き味もデザインも優れたキューは

ジナやタッド、バラブシュカ、

パラダイスやパーマーなどごくわずか。

 

2人はキュー売買を通じて得た経験から

「自分たちでキューを作れば、絶対に売れる」

と確信した。

 

旅回りハスラー生活をおよそ3年続けた後、

2人はボルチモアに戻りキュー製作を開始。

 

ジョージ・バラブシュカに教えを乞うも

何も教えてもらえず、

最初は手探りだったという。

 

2人はブランド名として、

東洋の言葉で「運」という意味を持つ

“JOSS”という単語を選び、

1968年、ジョスキューを旗揚げした。

 

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3年間のハスラー生活で得た

全米各地のプレイヤーや

ビリヤード場オーナーとのコネ、

実際に手にとって観察したキューの多さは、

他のカスタムメーカーに対する

大きなアドバンテージとなり、

ジョスはたちまち評判になった。

 

1972年、ビル・ストラウドは

コロラド州に移住。

『ジョスキューズ・ウェスト』を立ち上げ、

ダン・ジェーンズとの関係を解消した。

 

このため、ダン・ジェーンズの『ジョス』が

非公式に「ジョス・イースト」と

呼ばれたこともある。

 

代わりに雇われたのが、

地元のビリヤード場で働いていた

プレイヤー、ティム・スクラグス。

 

ティムは独立するまでの約6年間、

ジョスのスタッフとして働いた。

 

また後に「帝王」と呼ばれた

名プレイヤー、マイク・シーゲルは、

大学生時代に生活費を稼ぐため、

ジョスのキュー製作を手伝っていた。

 

単なるアルバイトだったのだが、

これが後に大きな意味を持つ。

 

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1980年代、日本で人気最高潮だった時代のカタログ
1980年代、日本で人気最高潮だった時代のカタログ

 

マイク・シーゲルは、

1986年の映画『ハスラー2』の

技術アドバイザーに抜擢される。

 

かつて世話になった彼が進言したのだろう、

ジョスのキューが

映画の小道具として採用された。

 

ポール・ニューマン演じる

ファスト・エディが愛用し、

トム・クルーズ演じる

ヴィンセント・ローリーに譲った

バラブシュカを、

ジョスのキューが「演じた」のだ。

 

当時空前のビリヤードブームに

沸いていた日本では、そのトリビアにより

ジョスの人気は最高潮に達し、

「キューのロールスロイス」と

呼ばれたほど。

 

ひと目でジョスと分かる

インレイハギと凝ったデザイン、

ジョイントカラーに金文字で輝く

JOSSのロゴは、

当時のプレイヤー憧れの的となった。

 

イッツ・ジョージ社の

本革製キューケースに入れられたジョスは

『ハスラー2』世代にとって、

「トレンディ」なスタイルだった。

 

1988年12月、

ジョスを手に入れた瞬間のオレは

「これは究極の一本、生涯最後のキューだぜ」

と思っていた。

 

ただ、オレが当時の状況をダンに聞いたところ、

「映画によるブームは、

ビリヤード業界全体の景気を改善した。

だが、ジョスはそもそも多くの注文を

抱えていたので大した変化はなかった」

と言っていた。

 

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ダン・ジェーンズ。2003年の『ACA』殿堂入りスピーチ
ダン・ジェーンズ。2003年の『ACA』殿堂入りスピーチ

 

ダン・ジェーンズは

低い声でゆっくり諭すように話し、

何があっても表情を変えない

親分肌の性格だった。

 

実際、誰に相談を持ちかけられても

「大丈夫、任せておけ」といって、

問題をさらっと解決したという

実力者だった。

 

オレ自身、古いジョスの鑑定や

リペアを何度か頼んだことがあるが、

「代金? お前がオレやジョスのキューを

撮影した写真を渡してくれれば十分だ」

といって決して受け取ろうとしなかった。

 

一方で厳しい父親のように、

「人の話を聞くときは腕を組むな」

「分かったのなら『分かった』とはっきり言え」

と諭されたこともある。

 

2003年3月には、『ACA』

(アメリカンキューメーカーズアソシエーション)の

キューメーカー殿堂入りを果たす。

 

「製作方法や材料調達に困っている

少量生産キューメーカーがいれば、

ためらうことなく援助した」

のが受賞理由。

誰もが納得する表彰だったな。

 

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『トールハンマー』は2000年代、日本でもおなじみのブレイクキューだった
『トールハンマー』は2000年代、日本でもおなじみのブレイクキューだった

 

『ハスラー2』ブーム後も、

ジョスはハギなしのストレートモデルから

一本物の超高級モデルまで

ボルチモアの自社工場で手掛ける、

フルラインナップメーカーとして

地に足を付けた経営を長年に渡り続けた。

 

高級路線や拡大路線に走らず、

幅広いプレイヤー層に受け入れられる

高品質なキュー製作、そして

メイド・イン・USAにこだわる姿勢こそ、

ダン・ジェーンズが指向していたもの

だったのだろう。

 

その遺志は家族経営メーカーとして、

ダンの息子、ステファン・ジェーンズが

受け継ぎ、今後も続いてゆくに違いない。

ご冥福をお祈りする。

 

息子のステファン・ジェーンズがJOSSの跡を継ぐ
息子のステファン・ジェーンズがJOSSの跡を継ぐ

 

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