〈BD〉54年前の7月→「7月20日“ビリヤードの日”によせて」。【シリーズ・日本ビリヤード新聞 vol.11】

 

ビリヤード珍品コレクター」の

I氏(あいし)が所蔵している、

 

約半世紀前の月刊紙、

『日本ビリヤード新聞』から、

当時のビリヤード事情を読み解く

企画の第11回。

 

今回採り上げるのは

昭和43年(1968年)7月号(第39号)の

社説:「撞球記念日」。

 

現在「ビリヤードの日」として

知られる「7月20日」。

日本ビリヤード史において

どんな意味を持つ日なのか。

改めてご紹介します。

 

…………

 

I氏・記:

 

ビリヤードをこよなく愛する皆様、こんにちは。今回は1968年7月のビリヤード・ニュースを紹介します。

 

上の画像の左側は、当方が所有している『日本ビリヤード新聞』昭和43年(1968年)7月号(第39号)の社説です。

 

その見出しには、

 

『社説 撞球記念日』

 

とあり、「ビリヤードの日」に関する論説を載せています。

 

今回は『日本ビリヤード新聞』の過去の記事を交えて、「ビリヤードの日」の制定にいたる経緯をご紹介しましょう。

 

…………

 

「7月20日はビリヤードの日」……このことはビリヤードを愛好するほとんどの方がご存知かと思います。『日本ビリヤード新聞』でも、7月号の紙面にはたいてい「ビリヤードの日」に関する記事が掲載されています。

 

『日本ビリヤード新聞』昭和40年(1965年)7月号(第3号)に掲載された社説「七月二十日におもう」
『日本ビリヤード新聞』昭和40年(1965年)7月号(第3号)に掲載された社説「七月二十日におもう」

 

さて、なぜこの日が「ビリヤードの日」となったのでしょうか。

 

それは、当時の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(通称:風営法、風俗営業法)の取り締まり対象に含まれていた玉突場(ビリヤード場)を、その対象から除外する改正法が昭和30年(1955年)7月20日に公布されたことに由来します。

 

『日本ビリヤード新聞』昭和42年(1967年)7月号(第27号)に掲載された記事「撞球記念日制定について」
『日本ビリヤード新聞』昭和42年(1967年)7月号(第27号)に掲載された記事「撞球記念日制定について」

 

ところで、この法改正以前にビリヤード場がおかれていた環境はどのようなものだったのでしょうか。

 

『日本ビリヤード新聞』昭和42年(1967年)7月号(第27号)に掲載された、京都府撞球組合連合会理事長(当時)の堀江喜久三氏による「撞球記念日制定について」という記事によりますと、風営法の対象となっていた時代には

 

・未成年者の立ち入り禁止

・営業時間は午前10時から午後11時まで

・3ヶ月ごとに営業許可の更新が必要

 

など、経営に関するさまざまな制限が設けられていました。

 

そのためビリヤード業界からは風営法の適用除外を求める声が広がりました。

 

そこで、日本民主党(当時)の衆議院議員であった真鍋儀十(まなべ ぎじゅう)氏に陳情を行いました。

 

ビリヤードに深い理解を示した真鍋議員によって「風俗営業取締法の一部を改正する法律」案が議員立法として昭和30年(1955年)6月20日に、国会に提出されました。

 

この法案は衆議院を通過したあと、その年の7月8日に行われた「第22回国会 参議院 地方行政委員会 第17号」において審議されましたが、この委員会における真鍋議員の発言録が残されています。その一部をご紹介いたします。(原文ママ:以下同じ)

 

『昭和二十三年法律第百二十二号をもって制定されました風俗常業取締法は、その第一条第一号の待合、料理屋、カフエー、第二号のキャバレー、ダンスホールのほか、その第三号に玉突場、マージャン屋、パチンコ屋、その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業を取締りの対象としておるものでありますが、このうち玉突場を本法の適用範囲から除外しようとするものでございます。』

 

『玉突きは世間周知の通り純然たる物理学を応用する高尚な室内スポーツでございまして、何ら偶然の勝負を争うものではございません。その点で第三号の中の他の二つ、すなわちマージャン、パチンコとは全然その趣きを異にするものでございまして、当然風俗営業取締法の対象から除外せらるべきものであるというのが提案の主眼でございます。』

 

『撞球は物理を応用する科学的競技でありますので、入射角、反射角等による精密な測定、物体移動の慣性などの研究練磨によってのみ進歩上達する競技であり、そこにスナップにせよ、ショットにせよ、日本人の体質の上からみた適応性や優越性が認められるものでございまして、各種の国際スポーツのうち、将来これが覇権を掌握し、かつ維持し得るものは撞球以外にはないとさえ言われておるわけであります。』

 

『本法改正の暁は全国撞球組合連合協議会の組織を拡大強化して、国際スポーツとしての矜持の上に立って、日本撞球界の向上発展に努むることを全国大会において誓っております。決して御迷惑はかけさせないつもりであります。』

 

以上の発言からも、法改正にあたっての真鍋議員のビリヤードに対する熱意が感じ取れます。

 

また、その後の7月15日に召集された「第22回国会 参議院本会議 第37号」において、先の地方行政委員会の委員長を務めた小笠原二三男参議院議員は以下のように報告しています:

 

『本法案は衆議院提出にかかるものでありまして、元来撞球の本質は一種のスポーツであって、決して偶然の勝負をかけるものではなく、玉突場の営業の実情もおおむねこの線に沿うて行われているので、現行風俗営業取締法が取締りの対象として、待合、料理店、キャバレー、ダンスホール等のほか、玉突場、マージャン屋、その他設備を設けて客に射倖心をそそるおそれのある遊戯をさせる営業をあげておる中から、玉突場を削除するというのが、提案理由及び改正内容の大体であります。

 (中略)

七月十二日、討論に入りましたところ、格別の発言もなく、直ちに採決の結果、全会一致をもって、本法案は衆議院送付原案の通り可決すべきものと決定いたした次第であります。』

 

その結果、参議院でも全会一致で可決され、ビリヤードが晴れて風営法の取締りから除外されたのでした。

 

なお、以上の発言内容は「風俗営業取締法の一部を改正する法律」に関するホームページ(こちら)から引用させていただきました。

 

ちなみに、国会の会議録は「国会会議録検索システム」から調べることができます。このサイトで「玉突」「撞球」「ビリヤード」といったキーワードで検索すると、国会でこれまでにビリヤードについて審議された内容を検索できます。

 

特に、先ほどの「第22回国会 参議院 地方行政委員会 第17号」では、真鍋議員の発言に対して他の委員からビリヤードに関するいろいろな質問がよせられました。興味がある方はぜひご覧になってください。

 

『日本ビリヤード新聞』昭和51年(1976年)5月号(第133号)に掲載された真鍋儀十氏の連載記事
『日本ビリヤード新聞』昭和51年(1976年)5月号(第133号)に掲載された真鍋儀十氏の連載記事

 

なお、『日本ビリヤード新聞』では昭和49年(1974年)から昭和51年(1976年)にかけて、真鍋氏による「健全スポーツ確認運動顛末記 ビリヤード スポーツ撞球の誕生」という連載記事を載せていました。

 

このように、真鍋儀十氏は日本ビリヤード界の“恩人”とも言えるべき方です。

 

ちなみに、真鍋氏が創立した幼稚園には現在でも氏の銅像があり、そこには内閣総理大臣を歴任した岸信介氏による「撞球純正スポーツ化の父」との揮毫があるそうです。

 

…………

 

通常「○○の日」という記念日の由来は、数字の語呂合わせや、はじめて○○が行われた日に由来することがほとんどです。

 

例えば、7月10日の「納豆の日」は“なっ(7)とう(10)”の語呂合わせですし、6月22日の「ボウリングの日」は、1861年6月22日に日本最初のボウリング場が長崎の外国人居留地に出来たことに由来します。それに比べると、「ビリヤードの日」制定の由来はかなり特別な感じがします。

 

上述のように、ビリヤードは偶然で勝ち負けが決まるギャンブル的性質のものではなく、プレイヤーの技術の違いによって勝敗が決定する、れっきとした「スポーツ」であることを、風営法の適用除外によってアピールしたのでした。

 

ビリヤードは、現在ではオリンピックの正式種目を目指していますし、世間一般にはスポーツという認識が強いと思われますが、一昔前はどうしてもダーティな(?)印象がつきまとっていたかもしれません。当時の関係者は、ビリヤードを「風俗営業の対象」から「スポーツ」への変換を図るべく、大いに尽力されたのでした。

 

「7月20日はビリヤードの日」……その先人たちの努力に敬意を表し、I氏はこれからもビリヤードを愛好していきたいと思います。

 

…………

 

I氏、ありがとうございました。

 

また来月、約半世紀前の8月の

日本ビリヤード界のニュースを

解説していただきます。

 

※日本ビリヤード新聞紹介記事一覧はこちら

 

…………

 

○ 昨年(2021年)のビリヤードの日の

BD記事はこちら

 

 

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