カスタムキューを多数取り扱っている
その代表、大原秀夫氏が所蔵している
キューを見ていく本企画。
(※過去記事はこちら)
今回紹介するのは、
バットエンドキャップの通り、
ザンボッティ(『Szamboti』)の
「TO: HIDEO」モデル。
UK Corporation代表の
大原秀夫氏「専用」のキューであり、
大原氏がパーソナルコレクション、
そしてプレーキューとして
大切にしている1本です。
製作者はバリー・ザンボッティ
(Barry Szamboti)。
ザンボッティ創始者の
ガス・ザンボッティ
(Gus Szamboti)は、
創業20年を迎えようかという
1988年に57歳の若さで逝去。
その後、息子のバリーが
キュー製作を継承しています。
…………
今回紹介するキューは、
ザンボッティの王道、
オーセンティックな「4剣」を
ベースにした高級仕様です。
フォアアームはバーズアイメイプルに
エボニーの4剣。
ベニアは4枚で【白・黒・白・黒】。
剣の中にはピーコックインレイ。
スリーブはエボニーベースで、
「4スピア」(スピアインレイ×4)が
4箇所に入り、
その間に縦線2本の
「レイルロードトラック」
(ライン間にダイヤ&ドット)が
配されています。
スリーブのリング状のインレイは
「Lazy Z」。
フォアアームのリングは
「チェーンリング」。
……と各所に手がかけられた
デラックス仕様です。
…………
大原氏・談:
「このキューもまだ載せてなかったですか。
ずいぶん長く後回しにしていましたね(笑)。
UK Corporationでは、ザンボッティも
何本も取り扱ってきましたが、
私が直接バリーにオーダーしたのは
後にも先にもこれだけです。
同じタイミングで人から頼まれた
8剣モデルもオーダーしたので
正確には2本ですが。
アメリカの
『スーパービリヤードエキスポ』で
バリーに何度か会い、
喫煙所などでよく話をするようになって、
しばらくしてから直接お願いしました。
1990年代後半に依頼して、
たしか完成まで7、8年待ったと思います。
『TO: HIDEO』は
私がリクエストしました。
初めから入れてもらうつもりでした。
はっきり言えば、所有者の名前は
入れない方がリセールバリューは高い。
例えば初期のジナなどは裏にオーナーの
名前が入ってるキューがありますが、
ザンボッティとなると、今買いたい・
頼みたい人の9割は投機目的。
そういう人達はわざわざ値打ちを
下げるようなことはしませんし、
中古市場でもこういう名前入りの
キューは敬遠されがちです。
私もバリーから2、3回
『本当にTO: HIDEOと入れていいのか』
と聞かれましたが、
それはリセールバリューのこともあるし、
おそらくは作り手として、心理的な
抵抗感もあったのだろうと思います。
単に『HIDEO』と入れるのならまだしも、
『TO』はバリーが私にへりくだるという
ニュアンスも英語話者にはあるかもしません。
それで気が進まなかったの
かもしれないと私は推測しています。
もちろん私にはそんな気持ちはなく、
『私はキュー屋を続けていくけれども、
このキューは売らないで自分で使い、
一生手元に置いておくと決めている。
だからTO: HIDEOを入れたいんだ』
そうバリーに説明して
わかってもらいました。
プレーキューで使いたかったので、
ステンジョイントにしてもらいました。
もっとゴージャスさを求めるなら、
アイボリージョイントにして
8剣にしていたと思います。
最近はこれで撞いてはいないですが、
とても扱いやすいキューです。
ただ以前の基準での
『良いキュー』ですので、
現代9ボール向きではありません。
よくスピンが乗りますが、
ヒネるとすごくズレます(笑)。
先球にもヒネリがよく伝わって
驚くようなバンクショットなんかが
出来るので、ワンポケットや14-1、
バンクプールにはよいと思います。
もうバリーには4、5年会ってないので、
早くお会いしたいですね。
今『スーパービリヤードエキスポ』に
彼が顔を出したら
握手・サイン・写真攻めに
あうんじゃないでしょうか。
私がキューを頼んだ頃は
まだそんなこともなく、バリーは、
『いつも親父の名前を出されて
比べられて、キューを作っても
「親父のものには及ばない」なんて
言われすぎて参っちゃうよ』
なんてぼやいてました。
その流れで『私はあなたの作ったものが
欲しいんだけど、直接頼んでも良い?』
という感じでオーダーした
……と記憶しています。
その後、一旦は新規オーダーを
受け付けなくなったバリーですが、
今も新品キューが出ていますし、
順調に製作はしているのだと思います。
むしろ一時期よりもペースが
上がっている気もするので、
心配されたバリーの健康状態もよくなり、
工房も上手く回っているのでしょう。
この『TO: HIDEO』キューは、
自分がいなくなった後、どこに行って
どんな評価を受けるんでしょうね。
どんな値段が付くのか全く予想も付きません。
そんなキューを所有するのもまた
コレクターの楽しみだと思います」
(了)
…………
○ UK Corporation連載企画
『カスタムの輝き』バックナンバーはこちら
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