「ビリヤード珍品コレクター」の
I氏(あいし)が所蔵している、
約半世紀前の月刊紙、
『日本ビリヤード新聞』から、
当時のビリヤード事情を読み解く
企画の第9回。
今回採り上げるのは
昭和44年(1969年)6月号(第50号)。
この年の5月に京都で
『第2回全日本選手権』が開催。
アメリカから招聘した名手、
ジョー・ボルシス選手が総合優勝を
飾ったことが報じられています。
…………
I氏・記:
ビリヤードをこよなく愛する皆様、こんにちは。今回は1969年5月のビリヤード・ニュースを紹介します。
上の画像は当方が所有している『日本ビリヤード新聞』昭和44年(1969年)6月号(第50号)の一面記事の写真です。
その見出しには、
『第二回 全日本プロポケット優勝 ジョーボルシス選手』
とあります。
この大会は現在のプール(ポケットビリヤード)のプロ選手団体であるJPBAが主催する『全日本選手権』の第2回大会にあたるものです。この大会の、開催に至った経緯と試合結果をご紹介しましょう。
…………
プールの『全日本選手権』の記念すべき第1回大会が昭和42年(1967年)に開催されたことを以前に紹介しました。
当時の日本のプールの第一人者であった藤間一男選手は、次の第2回大会に向けてさまざまな改革を考えていました。
一つは海外のトップ選手の招待です。昭和42年(1967年)と昭和43年(1968年)に、藤間選手はアメリカに渡って現地の試合に参戦したことも紹介しましたが、そのときに交流のあったプレイヤーの中から日本に招聘する選手を検討していました。
藤間選手の目に留まったのはジョー・ボルシス(Joe Balsis, 1921-1995)選手でした。ボルシス選手は1968年のアメリカ国内の獲得賞金ランキングで1位となった実力者で、後の1982年にはアメリカビリヤード協会(Billiard Congress of America, BCA)の殿堂入りを果たしました。
ちなみに藤間選手がアメリカの大会に参加しているとき、現地の選手の間には藤間選手が日本に招待する選手を探している……という噂が流れたらしく、自分を日本に連れて行ってほしいと“売り込み”をしてくる選手が多かったようです。
次に藤間選手が着手したのは競技種目の追加でした。第1回大会の種目は、そのとき日本で一般的だったローテーションだけでしたが、第2回大会ではそれに加えて、当時のアメリカの“公式競技”ともいえるストレートプール(14-1)と、日本国内で流行し始めたボーラードの3種目にしました。
さて、この『第2回プロポケット・ビリヤード選手権』は昭和44年(1969年)5月8日~11日に、第1回大会と同じく京都市の竹田フェアーホールで開催されました(昭和43年は、藤間選手が訪米等で多忙だったために全日本選手権は開催されませんでした)。
参加したのは、招待選手のボルシス選手の他に、以下の15名でした(五十音順、敬称略):
(プロ選手)
井上彰、太田紘治、大橋公平、鍵村哲男、桜本守、菅伸夫、田中守、野山修司、花谷勝、藤間一男、堀江聡太郎、森口信幸
(アマチュア選手)
島崎義光、谷口与志夫、浪江隆
昭和44年(1969年)5月号(第49号)に掲載された、第2回全日本選手権に参加が決まった日本選手の紹介記事
ローテーション部門は、まず予選で16名全員によるダブルイルミネーションのトーナメントを行い、勝者側4名・敗者側2名の6選手で総当たりの決勝リーグ戦(240点)を行いました。
昭和44年(1969年)6月号(第50号)に掲載された、ローテーションの予選と決勝リーグ戦の結果
ストレートプール部門については、予選でボルシス選手と12名のプロ選手によるダブルイルミネーションのトーナメントを行い、こちらも勝者側4名・敗者側2名の6選手で総当たりの決勝リーグ戦(125点)を行いました。
昭和44年(1969年)6月号(第50号)に掲載された、ストレートプールの予選と決勝リーグ戦の結果
ボーラード部門については、ボルシス選手を含む12名選手が、それぞれ1回のゲームを行いました。
各競技の成績は以下の通りです。
ローテーション部門/優勝:浪江隆 2位:井上彰 3位:藤間一男
ストレートプール部門/優勝:ジョー・ボルシス 2位:藤間一男 3位:堀江聡太郎
ボーラード部門/優勝:ジョー・ボルシス 2位:森口信幸 3位:浪江隆
ローテーションは、当時のアメリカではほとんど競技されていない種目だったためにさすがのボルシス選手もとまどったのでしょうか、2連敗で予選敗退でした。優勝した浪江選手は当時アマチュアでありながら勝者側で予選を通過し、決勝リーグでは4勝1敗の好成績で、さらに240点のハイランをたたき出しました。
ストレートプール部門では、ボルシス選手が本場の実力を遺憾なく発揮し、予選・決勝とも全勝という圧倒的な強さを見せました。
またボーラード部門では、日本選手は森口選手が210点、他の選手はすべて100点台というふるわない結果の中、ボルシス選手が258点(ミス2回のみ)という好成績でこちらも優勝となりました。
以上の結果、2部門で優勝したボルシス選手が総合優勝に輝きました。
この大会の後、ボルシス選手は藤間選手をはじめ日本のプロ選手と大阪、京都、広島、東京、長岡などの既存のビリヤード場をエキシビションで回り、どの会場も大変にぎわったとのことです。
…………
ビリヤードの大会で、国内のトップ選手のプレーをみるのは大変貴重な機会ですが、海外のトップ選手のプレーを直接観戦できるのは、非常に新鮮なものです。海外のプールのトップ選手が来日するのは、おそらくこの大会でのボルシス選手が初めてであり、当時の日本のファンのみならず、プロ・アマ選手に大きな衝撃を与えたことは間違いありません
毎年11月に兵庫・尼崎で開催されている『全日本選手権』には、例年多くの実力選手が海外から参戦し、日本のファンを楽しませてくれます。しかし、ご承知のように2020年と2021年の選手権は新型コロナウィルスの感染拡大防止のため中止となってしまいました。
なかなかコロナ禍の収束の見通しが立ちませんが、ぜひ今年こそは『全日本選手権』が無事に開催され、海外から世界レベルの選手が多数参加し、以前のような盛り上がりを見せてくれることをI氏は期待しています。
…………
I氏、ありがとうございました。
また来月、約半世紀前の6月の
日本ビリヤード界のニュースを
解説していただきます。
※日本ビリヤード新聞紹介記事一覧はこちら
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