〈BD〉「キューのグリップ学パート3 ~糸巻き・革巻き・ノーラップ~」――Detective “K” season6 episode 13 ~The Last Episode~

 

Part 1Part 2より続く~

 

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を

引き受ける探偵だ。

 

前回、「コルクラップを見かけた方は

BDまでご一報を」と告知したら

本当に一報があった。

 

トラディショナルな4剣のpfd、

コルクラップだ。

 

読者氏が2014年頃に新品で購入したpfd(製作年不明)。コルク巻きは純正の仕様。購入直後に少しだけ使ってそのまま保管しているとのこと
読者氏が2014年頃に新品で購入したpfd(製作年不明)。コルク巻きは純正の仕様。購入直後に少しだけ使ってそのまま保管しているとのこと

 

1990年代には、

ブランズウィック社タイトリストの

ブランク(半完成品)を使った

キューも製作していたpfd。

 

実は派手なデザインだけでなく、

1960年代テイストのモデルも

作れるメーカーだ。

オーナーは、大切にしていただきたい。

 

今回はキューのグリップ学「パート3」。

ノーラップ、ウッドグリップ、

そして変態グリップについて語ろう。

 

******

 

ノーラップの伝統的なキュー
ノーラップの伝統的なキュー

 

玉を押して転がす「メイス」という用具を

逆向きに持って「撞いた」結果、

生まれたキュー。

 

その成り立ちゆえキューの握り部分には、

当初何も巻かれていなかった。

 

従って「ノーラップ」という

概念や単語が出来たのは、

グリップに絹糸や木綿糸を巻く

「ラップ」が出現した19世紀末ごろ。

 

例えれば、太古の人類が衣類を

身に着ける以前、裸体を「裸」とは

意識しなかったようなものだ。

 

ところで、現代でも「あえてノーラップ」

というキューが存在する。

 

ポケット用のブレイクキューや

ジャンプキュー、あるいは後から

ゴムやシリコンのチューブを

はめる前提のキャロム用キューだ。

 

また、銘木が持つ色合いや

木目の美しさを見せるため、

あえてノーラップとしている

キューも存在する。

 

これは、ヒトに例えるならば、

ボディに自信があるから

露出が多い服装を選ぶ、的な発想だな。

 

本来ノーラップは製作上の手間が少ない

安価なキューなのだが、そのシンプルな

美しさゆえ、キュー好きが

ハマってしまうこともあるのだ。

 

さらに、超高級モデルにおいて、

バット全体にひとつのデザインを施すため、

「ノーラップ」としたキューも存在する。

 

自由なデザインのノーラップやウッドグリップ(ジャコビー)
自由なデザインのノーラップやウッドグリップ(ジャコビー)

 

******

 

ややこしいのは、ノーラップと

似て非なるキューが存在すること。

 

それが「ウッドグリップ」と

「コーティンググリップ」。

 

どちらも握った感触はノーラップなのだが、

デザイン的にラップが巻かれているように

見える。つまり「なんちゃって巻」(笑)だ。

 

ウッドグリップのサムサラ
ウッドグリップのサムサラ

 

「ウッドグリップ」は、

糸巻や革巻グリップを銘木に置き換えたもの。

それゆえ「ノーラップ」とは区別される。

 

見栄えの良い銘木を使えば、

木工品として美しさが増す。

バット全体で銘木を組み合わせれば、

様々な色合いが可能。さらに、グリップも

インレイを入れられる領域となる。

 

メウチのコーティンググリップ
メウチのコーティンググリップ

 

「コーティンググリップ」は、

グリップに糸を巻いた後、

糸もろともバット全体を塗装したもの。

 

握った感じは、僅かな凹凸は感じるものの、

ノーラップと変わらない。

 

キューメーカー、メウチの

グリップといえばコレだ。

 

一説には、メウチは、グリップ部を

塗装しないようマスキングする手間を

省くため採用したと言われている。

 

しかし、バット全体を平滑に

仕上げるためには、糸が

塗料(下塗りのシーラー)を吸い込み、

多量の塗料と磨きの工程が必要。

 

コストダウンや製作期間の短縮より、

糸の劣化を防いでキューの美しさを

長期間保つ事が目的だろう。

 

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編みグリップのエスピリチュ(上)
編みグリップのエスピリチュ(上)

 

グリップの巻き方や素材は様々だが、

キューメーカー、ラス・エスピリチュが

施したのは、絹糸の編み物のようなラップ。

 

2000年初頭、ラス・エスピリチュは、

複数の絹糸を編むように巻き付けながら、

グリップ部分に模様を作り出した。

 

しかも糸巻を「コーティンググリップ」

として保護し、グリップ部分を

キューデザインの主役としたのだ。

 

そのために、わざわざ専用の機械を

開発したのだが、完成したキューが

芳しい評価を得られず、姿を消した。

 

日本では、数多くの織物や編み物が

各地で生産されている。

日本人の母親を持つラス・エスピリチュの

DNAには、日本の伝統工芸の感性が

組み込まれているのかもしれない。

 

このようなグリップに今取り組めば、

世界的にもユニークなキューが

出来るはずとオレは思う。

 

******

 

2020年発売のMEZZ『POWER BREAK G』のスポーツグリップ
2020年発売のMEZZ『POWER BREAK G』のスポーツグリップ

 

ブレイクショットにおいては、

プレーヤーのパワーを極力ロスすることなく

手玉に伝える必要がある。

 

2000年代初頭に登場した、

先角一体型タップや樹脂タップ、

そしてラバーグリップは

ブレイクキューの性能を飛躍的に向上させた。

 

ブレイクキューにメーカー装備の

ラバーグリップが装備された初期の製品は、

2003年のメッヅ『パワーブレイク』。

 

「SPグリップ」と名付けられた素材には、

滑り防止のための凹凸が

付けられていた事が画期的だった。

 

これ以降、ブレイクキューのグリップ素材は

プレデター等の海外メーカーも含め、

様々な工夫を凝らすようになる。

 

ロゴやカラーラインを入れ、

部位によって凹凸パターンを変えて

握る位置を決める目安とし、

素材自体に厚みを持たせて強く握り込める

「スポーツラップ」と呼ばれるグリップだ。

 

******

 

いぼいぼグリップのStealthcue
いぼいぼグリップのStealthcue

 

グリップは何も平滑である必要はない。

 

握りやすさ、いわゆる

「エルゴノミクス」を追求しても良いのだ。

 

しかし、2000年代後半、

ステルスキューが製作していたモデルは、

突き抜けていた。

 

グリップ部は団子のようなくぼみのある

「ドゥーリ―ハンドル」と名付けられたもの。

 

問題は、塗装によるデザインの自由度を

最大限に生かし、ビビッドな色合いで

怪しげな(笑)モデルを多数発売したこと。

 

オレはステルスキュー創業者の

マーク・ストローラーに

「なぜこんな(いかがわしい)デザインを?」

と聞いたことがあるが、

 

答えは「工場のスタッフにも

『本当にこんなものを作っていいのか?』

と何度も念押しされた」だった(苦笑)。

 

実際に使ってみると、

グリップの握り位置を常に固定できる、

指を引っ掛けるように柔らかく握れば、

立てキューでもこじらず真っすぐショットできる、

など意外と実用的。

 

デメリットは、ハードショットすると

バットが不自然に振動し、

パワーロスがあること。

そして何より、見た目がヤバすぎて

友達を無くす(苦笑)ことだ。

 

******

 

さて、3回に渡り

グリップについて書いてきた。

Part 1Part 2

 

キューが「道具」から

「スポーツ用具」に進化しつつある現在。

 

タップが手玉とプレーヤーの

インターフェースとして重要と

考えるならば、キューとプレーヤーの

インターフェースであるグリップも

同様に重要なパーツのはず。

 

ショットの良し悪しを振動として伝え、

しっかり握る、あるいはスムーズな

フォロースルーを生み出すグリップの機能は、

まだ研究の余地があるだろう。

 

さて、【シーズン6】はコロナ禍の

影響もあり過去最長となったが、

今回を以て終了としたい。

 

キュー探偵業は、

クライアントあっての稼業。

次のシーズンが始まるのか否かは

BDと読者次第なのだ。

 

機会があれば、また会おう!

 

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