〈BD〉56年前の9月→「ビリヤード芸術競技に招聘状」。【シリーズ・日本ビリヤード新聞 vol.1】

 

古今東西の希少なビリヤードアイテムを

多数所蔵している

「ビリヤード珍品コレクター」の

I氏(あいし)。

 

先月、I氏のコレクションを紹介する

秘宝館』企画を始めたばかりですが、

ここではまた別の企画をお届けします。

 

I氏は、約半世紀前に刊行されていた

月刊紙『日本ビリヤード新聞』の

バックナンバーも

多数所持しておられます。

 

そこで採り上げられている

イベントや事象の多くは、

現代ビリヤード界の成り立ちに

密接に結び付いていて、

ただ「懐かしい」「昭和感ある」と

眺めるもの以上の価値があります。

 

そこで、I氏の解説付きで定期的に

ご紹介いただくことにしました。

 

今回採り上げるのは

1965年10月発行号(内容は9月)。

 

ヘッドラインの

「ビリヤード芸術競技」とは一体……?

 

…………

 

I氏・記:

 

ビリヤードをこよなく愛する皆様、こんにちは。約20年前、私、I氏はネットオークションで大変貴重な逸品を落札しました。それは『日本ビリヤード新聞』の大量のバックナンバーです。

 


『日本ビリヤード新聞』とは一体何でしょうか?

ベテランプレイヤーの皆様ならリアルタイムでご存知かもしれませんが、これは1965年(昭和40年)5月に創刊されたビリヤード情報紙で、タブロイド判の月刊紙でした。月遅れながらビリヤードの国内外の最新情報が分かる、貴重なメディアだったと思われます。

 

(※日本ビリヤード新聞社〈大阪市北区〉より毎月1日発行。編集発行人は赤垣昭氏。1部100円・1年1,000円)

ただ、新聞というモノの性質上、すぐに古紙として処分されることが多かったようで、今ではほとんど現存していないのではないでしょうか。I氏もこれまでに、老舗のビリヤード場に保管されていたものを何度か目にした程度です(おそらく1970年代後半に廃刊になったようです)。

往時の日本ビリヤード界を知る重要な手掛かりでもありますので、これから月1回、約半世紀前のその月に起こった出来事をバックナンバー記事から紹介させていただきます。

…………

 

 

今回ご紹介するのは、1965年10月号(第6号)の一面記事。見出しに『ビリヤード芸術競技に招聘状』とあります。

 

ここで勘のよい方は、“ビリヤード芸術競技”とは“artistic billiards”のことだと見当がつくでしょう。

 

あらためて説明させていただきますと、“artistic billiards”とは、曲球のような難しい配置のショットに難易度に応じてポイントをつけて、ショットに成功した配置のポイントの合計点を競う……という競技です(※BD注:現在も数は少ないながら国内外でアーティスティックビリヤードの公式大会やエキシビションイベントがある)。

現在の日本では“artistic billiards”(フランス語では”billard artistique”)を「アーティスティックビリヤード」とカタカナで表記しますが、当時はまだ適切な訳語もなく「ビリヤード芸術」と直訳したものと推察されます。

 

当時の記事のイントロ部分には、このように書かれています(原文ママ、以下同じ):

『日本ビリヤード協会染谷事務局長宛に、このほど世界ビリヤード連盟会長ジュオルジュ・トロファー氏から来年五月にマドリッド(スペイン)で開催される、ビリヤード芸術競技の世界選手権大会についての書簡が届いた。』

この書簡は1965年9月10日付のものでした。その概要は、翌年の1966年5月にアーティスティックビリヤードの世界選手権大会が開催されるが、日本から出場できそうな選手はいるだろうか……という打診でした。

 

これを受けて、日本ビリヤード協会(NBA)は9月20日に高石真五郎会長(当時)の名前で以下の内容の返信をしたとのことです。


『・大会の開催については、世界連盟副会長として賛意を表し、盛会を期待する。

・内容がはっきりわからないので、ただちに出場の諾否はご返事できない。

・しかし小方選手がアルゼンチンで各国の選手に会うので、直接問い合わせた上で、日本選手でも可能な競技であるならば、是非出場を希望する。そのときは何分よろしくお願いする。』

このときの時代背景ですが、日本は1964年に世界ビリヤード連盟(UMB)に加入し、1965年4月には当時の日本のキャロム競技の第一人者であった小方浩也選手が、UMB主催の『世界5種目選手権』に出場して、スリークッション部門で当時の世界チャンピオンであったR・クールマンスを破るなど、日本選手の活躍が世界中に知られ始めたころだったのです。

ちなみにこの書簡が届いたとき、NBAの高石会長はUMB副会長を兼任していました。また小方選手はアルゼンチンの大会に参戦中でした。

 

UMBからの書簡の冒頭部と小方選手
UMBからの書簡の冒頭部と小方選手


この記事ではUMBのトロファー会長からの書簡の日本語訳を紹介し、最後にこのようにまとめています:

『いずれにしても、さきの五種目競技といい、今回の芸術競技といい、世界のビリヤード界との交流が盛んになるに従って、日本のビリヤード界も、あらゆる点で世界的な視野に立って、ものを見、考えなければならない時機に来ている。今回の芸術競技にしても、全くはじめて耳にする競技であり、こんごも更にこの種の目新しい競技に参加する可能性が充分あることでもあり、急激にしかも大きく転換してゆくわがビリヤード界のためにも、すべての点で研究、向上が期待されるところである。』

言うまでも無く当時の日本のトップレベルの選手は、いろいろな「曲球」を成功させる技術を持ちあわせていました。しかしそれは、イベント等で披露する「余興」の側面を持つもので、この記事のような「競技」として得点を争う……といった認識は持ち合わせていなかったのではないでしょうか。

この記事全体から、「ビリヤード芸術競技」なるものに困惑した当時の関係者の雰囲気が伺えます。

 

…………

 

第7号の一面。中央の「藤間(一男氏)、五期連続名人位獲得」や右下の豊島園ビリヤードの広告にも目が行く
第7号の一面。中央の「藤間(一男氏)、五期連続名人位獲得」や右下の豊島園ビリヤードの広告にも目が行く


ちなみに、この翌号の1965年11月号(第7号)には続報として以下の見出しがありました。

『ビリヤード芸術競技 世界連盟から第二信届く』
『至難の協議内容 日本からの参加は明後年か』

UMBのトロファー会長からの第二の書簡では、以下のことに触れられています:


・72課題に配点される総点500点中、少なくとも150点をとらなければ世界選手権への参加は認められない。この150点は約22~23課題にあたり、これだけの点数を日本選手権大会で獲得しなければならない。


・UMBとしては、参加を正式に受諾できる公式選手が当面日本にはいないと考えざるを得ない。


・もし小方選手がこの競技に関心を持てば、これを習得して他の選手への指導もできるだろうから、その場合は日本の国内選手権を開催して、1966年以後に開催される世界選手権に参加する選手も出るだろう。

さらにこの記事では、


『競技のくわしい内容についてはやはりわからず、非常に派手で特殊技術を要求されるということから、曲球の類と想像される。これも小方選手が帰国すればわかるものと思う。』


とあり、まだビリヤード芸術競技とは何であるのか当惑している様子が感じられます。

それ以降、この選手権開催に関する記事は見当たりませんでしたので、「ビリヤード芸術競技の世界選手権大会」への日本選手派遣は見送られたものと思われます。

その後1980年代に入って、ようやく日本でもアーティスティックビリヤードに魅せられた選手が現れてきました。1985年には住吉大海プロ(故人)が日本人で初めて『世界アーティスティックビリヤード選手権』(第15回 オランダ大会)に出場しました。また翌年の1986年には『第1回全日本アーティスティックビリヤード選手権』が開催され、町田正プロ(JPBF)が初代王者に輝きました。

仮に1965年の時点で『日本ビリヤード芸術競技選手権』が開催され、世界選手権に日本選手が出場していたら、どういう成績を残されたのでしょうね。……I氏の妄想はつきません。

 

…………

 

I氏、ありがとうございました。

 

また来月、約半世紀前の10月の

日本ビリヤード界のニュースを

解説していただきます。

 

※日本ビリヤード新聞紹介記事一覧はこちら

 

 

………… 

 

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