〈BD〉「わすれじのSBE Days」――Detective “K” season 5 episode 07

2010年。名品がずらりと並ぶブースにて。どれもが一生ものと言えるようなキューの中から何かを選べと言われても悩む
2010年。名品がずらりと並ぶブースにて。どれもが一生ものと言えるようなキューの中から何かを選べと言われても悩む

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

全世界に広がるコロナウィルス。

 

ビリヤードの公式戦はおろか、

玉屋自体もクローズ。

 

そもそも日常の外出すら厳しく制約される毎日。

 

どうせ撞けないならと愛用のキューを

リペアに出しているプレイヤーも多いと聞く。

 

リンリンリン♪

 

おお、BDからネット通話だ。

試合がなければ、ヤツも飯の食い上げだろう。

 

『K、一応聞きますが、大丈夫ですか。』

 

問題ないさ、今のところはな。

 

『例年であれば、

Kは“SBE”のため渡米しているころですね。』

 

その通り、昨年はさぼったが、

今年は意欲マンマン……だった。

 

『しかし、この状況ゆえ

SBEは6月に延期されたと聞きました。』

 

行きたいことには変わらんぜ。

非現実的な願望だがな。

 

『KがそこまでこだわるSBE、単なるイベントを

超えた存在とも思えるのはなぜでしょう?』

 

それを語りだしたら止まらんぜ。

 

『このご時世ですから構いません、

と言いたいところですが簡潔にお願いします。』

 

よかろう、オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

1994年から2011年まで「聖地」となっていた『バレーフォージュ・コンベンションセンター』。現在はカジノに改装されてしまった
1994年から2011年まで「聖地」となっていた『バレーフォージュ・コンベンションセンター』。現在はカジノに改装されてしまった
2つのフロアを全て使って行われるSBEは、バレーフォージュにおける大規模なイベントのひとつだった。この画像は2010年の展示ブースエリア
2つのフロアを全て使って行われるSBEは、バレーフォージュにおける大規模なイベントのひとつだった。この画像は2010年の展示ブースエリア

 

スーパービリヤードエキスポは、

プロプレイヤーのアレン・ホプキンスと

その息子、ホプキンスJr.が主宰するイベント。

 

略して「SBE」または「SBX」とも呼ばれる。

 

初回の1993年以来、

年一回欠かさず実施されてきた。

よって今年、もし開催されれば28回目となる。

 

会期は2003年までは3日間、2004年以降4日間。

 

開催時期は毎年3月か4月、

場所は何度か変わっているが、

ペンシルバニア州フィラデルフィア郊外の

バレーフォージュで開催された時期が、

1994年から2011年と長い。

 

よって、バレーフォージュ=聖地と

されていた時代があった。

 

2015年以降は、バレーフォージュから

10数キロ離れたオークスという町の、

広さ約6万8千㎡もある

コンベンションセンターで開催されている。

 

*****

 

エキスポの各年のプログラム。中央で開いてあるのは2019年の会場レイアウト図
エキスポの各年のプログラム。中央で開いてあるのは2019年の会場レイアウト図

 

SBEのコンセプトは

“Everything under one roof”。

「ビリヤードの全てを一か所に」

という意味だな。

 

ざっくり言えば、

プロトーナメントとアマチュアトーナメント、

物販が同時に行われるイベントだ。

 

朝から晩まで会場に居続けても、飽きることはない。

そこにいるのは、ビリヤードにハマった人間

(稀に犬や猫もいるが)ばかり。

 

どんなにアツく語っても、変人扱いされない。

 

味にこだわらなければ腹いっぱい食事も出来るし、

通常の試合以外に「練習エリア」では、

「真剣勝負」が常に進行しているし、

キューの逸品や掘り出し物は、

どこに隠れているかわからない。

 

24時間ビリヤードのことだけ考えていれば良いのだ。

 

*****

 

1993年『第1回』のプログラム。当初はアメリカ男子プロの組織『PBTA』主催のイベントとして、ニュージャージー州セコーカスで開催された
1993年『第1回』のプログラム。当初はアメリカ男子プロの組織『PBTA』主催のイベントとして、ニュージャージー州セコーカスで開催された
1993年『第1回』のプログラムの中面。朝10時開始でその日の試合の最終ラウンドのスタート時刻は午後11時という長丁場だったことがわかる。ブースの出展リストにはブラックボアやオメガ/DPKの名前も見える
1993年『第1回』のプログラムの中面。朝10時開始でその日の試合の最終ラウンドのスタート時刻は午後11時という長丁場だったことがわかる。ブースの出展リストにはブラックボアやオメガ/DPKの名前も見える
1995年『第3回』のプログラム。男子プロツアーが外れるなどゴタゴタがあったため印刷が間に合わず、レターサイズ3つ折りの簡素なものになった
1995年『第3回』のプログラム。男子プロツアーが外れるなどゴタゴタがあったため印刷が間に合わず、レターサイズ3つ折りの簡素なものになった
1995年『第3回』のプログラムの出展リスト。PREDATORは前身の「クローソンキュー」名義で出展。コグノセンティ、ジナ、ザンボッティ、ジョスウェスト、マクダニエル、スクラグス、シューラ―など予算が許せば何本でも買えた時代だった
1995年『第3回』のプログラムの出展リスト。PREDATORは前身の「クローソンキュー」名義で出展。コグノセンティ、ジナ、ザンボッティ、ジョスウェスト、マクダニエル、スクラグス、シューラ―など予算が許せば何本でも買えた時代だった

 

しかし、SBEが全米最大の

ビリヤードイベントかといえば、違う。

 

試合規模からすれば、『USオープン』や

『ダービーシティクラシック』、

『APAワールドプールチャンピオンシップ』

などより小さいし、出店業者の数は

『BCAトレードエキスポ』の半分にも及ばない。

 

アメリカ全体から見れば、

アメリカ北東部のローカルイベントに過ぎない。

 

主催者、アレン・ホプキンスは、

ビリヤードにおいて「試合観戦とプレーの両立」が、

いかに重要かという点に最初から気付いていた。

 

プロトーナメントの観客を増やすには、

熱心に観戦してくれるアマチュアプレイヤーに

足を運んでもらえばよい。

 

そのためにプロ・アマ混合のオープン

トーナメントではなく、アマチュアトーナメントを

開催することで集客したのだ。

 

さらに人が集まればビジネスの機会も増える。

 

BCAトレードエキスポは業者間のビジネスだが、

SBEでは小売り。

 

プロ・アマそれぞれの試合を

集客のカギとしながら「エキスポ」と名付け、

業者のブース出展も重視した。

 

その結果が「SBE=ビリヤードなんでも市場」化。

国内外から多くの出展者と顧客が

集まるようになった。

 

これらの要素によりSBEは、

一つひとつの要素を見れば最大ではないものの、

全てがバランスよく揃った

イベントのカタチが出来たのだ。

 

*****

 

2010年のアマチュアトーナメント風景。7フィート台が100台以上並び、試合が絶え間なく進行する光景は壮観
2010年のアマチュアトーナメント風景。7フィート台が100台以上並び、試合が絶え間なく進行する光景は壮観
2001年のプロアリーナ最終日。WPBAツアー(女子プロツアー)の重要な大会としてエキスポが位置付けられ、多数の女子プロが集まった。ESPNの録画が入るほどの人気でギャラリーも多かった。プレーするのはヘレナ・ソーンフェルト(2019年逝去)
2001年のプロアリーナ最終日。WPBAツアー(女子プロツアー)の重要な大会としてエキスポが位置付けられ、多数の女子プロが集まった。ESPNの録画が入るほどの人気でギャラリーも多かった。プレーするのはヘレナ・ソーンフェルト(2019年逝去)
2010年のプロアリーナ。決勝戦ともなると四方を観客席が取り囲み、熱心なギャラリーで一杯になった
2010年のプロアリーナ。決勝戦ともなると四方を観客席が取り囲み、熱心なギャラリーで一杯になった

 

というわけで、SBE参加の基本は「試合出場」。

 

ジュニア部門やシニア部門、

レディース部門など複数のトーナメントが

時間をずらして進行するため、

重複エントリーも可能だ。

 

家族3代で揃って試合出場というケースも珍しくない。

試合中はアツくなっていても、

終わればフレンドリーなのがアメリカ人の良いところ。

ビリヤードに国境はないことが実感できるだろう。

 

さて、取引の場として捉えると、

キュー売買に関してSBEは理想的な環境。

 

小規模カスタムキューメーカーや

キューディーラーが出展し、それを目当てに

キューコレクターやバイヤーが集い、

取引が拡大するサイクルが生まれた。

 

結果的に小売りだったはずのSBEが、

1990年代後半には仕入れの場に変質した。

 

日本からも多くの業者が「買い付け」に訪れ、

片っ端からキューに

“Sold"の札を付けていった時期もあった。

 

ブースに並んでいたキューが、

翌月には国内市場に出回る。

夏のボーナスには、ちょうど良いタイミングだ。

 

*****

 

2000年のコグノセンティブース。右端が会場入り後1分で購入した1本
2000年のコグノセンティブース。右端が会場入り後1分で購入した1本
1999年のサムサラブース。キューの販売が右肩上がりで、展示本数やディスプレイ台も凝ったものになった
1999年のサムサラブース。キューの販売が右肩上がりで、展示本数やディスプレイ台も凝ったものになった
1999年。マクウォーターブースもサムサラと同種のディスプレイだった。他にもいくつかのメーカーがこのような展示をしていた
1999年。マクウォーターブースもサムサラと同種のディスプレイだった。他にもいくつかのメーカーがこのような展示をしていた

 

オレ自身、SBEでは

キュー購入を最大の目的としていたが、

予算と相談して後ほど……では手遅れ、

という悲劇は数限りなく経験した。

 

その反動で

「初日会場入り1分でコグノセンティ購入」や、

「会場入り口で、業者に渡る予定の

ザンボッティをジャッカル」など、

行動が先鋭化していた時期もあった(遠い目)。

 

メーカーはベテランと若手、

ディーラーやコレクターは歴戦の目利きと

素性不明の胡散臭いヤツが入り乱れ、

 

「誰が何を買うか」を互いに監視し、

時にはウラ情報を交換したり、

相手を牽制したりという状況。

 

あるメーカーの新作を手に取っていると、

隣のブースのメーカーが

「オレのキューじゃなくて、そっちかよ」

という視線を送ってくる。

 

ヴィンテージキュー専門のブースでは、

逸品に混じって偽物や改造歴ありのB級品など

ワナだらけ、そして価格は交渉次第。

 

「コレはハズレだな」と

手を出さなかったキューが、

別のブースに現れるのは「あるある」パターン。

 

トランプのババ抜きのように、

誰かがつかんでしまうまで転がり続ける

キューも存在するのだ。

 

*****

 

2010年の『オメガビリヤードサプライ』のブース。他にも高価なキューからジャンク品、Tシャツや怪しげなトレーニンググッズを扱うブースが100以上並んでいた
2010年の『オメガビリヤードサプライ』のブース。他にも高価なキューからジャンク品、Tシャツや怪しげなトレーニンググッズを扱うブースが100以上並んでいた
2014年のキューディーラーブース。掘り出し物や逸品を見つけるのがエキスポの楽しみ方
2014年のキューディーラーブース。掘り出し物や逸品を見つけるのがエキスポの楽しみ方

 

会場内でハデな買い方をしていると、

「カモ」として目を付けられる。

 

「もっと欲しいキューが出てくるかも」

という表情でフラフラしていると、

 

「あなたなら、この値段で……」

「まだ他の誰にも声をかけていないから……」

等々、不意に呼びかけられるのだ。

 

背後からいきなり

キューで小突かれる場面を想像してくれ。

 

びっくりして振り返ると、

どうしても売り払いたいらしいヤツから

「これ、ユーが以前から探していたキューだろ?」

と逸品(または駄品)を

目の前に突き付けられるのだ。

 

楽しくないわけがなかろう(苦笑)。

 

*****

 

2001年。同行者含めわずか5名のメンバーでこれだけキューを買った
2001年。同行者含めわずか5名のメンバーでこれだけキューを買った

 

SBEの最終日は、

1年で一番テンションが上がる日だ。

 

プロ・アマともプレイヤーが絞られるため、

試合は落ち着いてくる。

それとは対照的に、物販ブースでは熱が入る。

 

物品販売の売り手は

「なるべく売り切りたい」ために値下げする。

 

「積極的に欲しいわけではないが、

値下げされると買ってしまう」

パターンは、まあ良い。

 

困るのは、すでに予算が尽きているのに

「欲しいものが最終日になって出現する」ケース。

 

例えば、「サウスウェスト3本、

3×6のウィットンケース付で安くするよ」

などと言われて、誰がスルーできるだろうか?

 

しかしない袖は振れない。 

 

泣く泣くあきらめると同時に

「来年こそ後悔のない買い物を」

と心の中で立てる誓いが、

毎年参加する原動力になってきた、というわけだ。

 

*****

 

SBEは、イキのいいプレイヤーや

製品の最新トレンドを把握するには

絶好の機会なのだが、

 

格式ばったものでも、アマチュアに対して

敷居が高いものでもない。

 

会場内は「何をするかは人それぞれ」だが、

ビリヤード好きばかり。

ただそこに居るだけでも楽しめるのだ。

 

気持ちを一つにして、そんなエキスポで

再び集まれる日が来るのを願ってやまない。

 

次の依頼を待っているぜ!

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

…………

 

Detective Kについて詳しくはこちら

 

2018年SBEレポート by Kはこちら

 

 

 

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