〈BD〉「記念キュー、アニバーサリーキュー」――Detective “K” season 5 episode 04

ジナ50周年記念モデル
ジナ50周年記念モデル

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

平成31年と令和元年。

 

キューの世界では、カーボンシャフトの

普及に弾みがついた一年だったな。

 

令和2年は、大手メーカーだけでなく、

中堅メーカーや少量生産メーカーからも

登場することだろう。

 

リンリンリン♪

 

おお、BDからネット通話だ。

年始のあいさつか? お年賀かお年玉か?

 

『今年もよろしくお願いします。

昨年は、天皇陛下即位記念貨幣や

令和記念切手が発行されましたね。』

 

…………なんだ、

何かもらえるわけじゃないのか。

それで?

 

『キューの世界にも、記念キューがありますね。』

 

確かに。

 

『限定生産というだけでなく、

何らかの意味を持たせて作られるキュー。

そこに惹かれて購入する

プレイヤーやコレクターがいるはず。』

 

まぁ、オレもその一人だな。

 

『そこでKがこれまでに出会った記念キュー、

あるいはアニバーサリーキューについて

調べてもらえますか。』

 

旅の思い出に、

土産物屋で売っているようなヤツだな。

 

『そうそう、帰ったら職場で配るような……

わけないじゃないですか!』

 

ノリツッコミを覚えたかBD。

 

よかろう、オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

キューメーカーに規模の違いはあれど

「限定モデル」は、大抵のメーカーに存在する。

 

アメリカの大手メーカー、マクダモットは

「今月のキュー」と称して限定モデルを

2005年からほぼ毎月製作している。

 

そもそも、一本ものデザインしか作らない

ブラックボアやデニス・シアリングのように

全て受注生産というメーカーや、

 

タッドやサウスウェスト、

バリー・ザンボッティなど、

注文がこなしきれないぐらい忙しいメーカーに

「限定」という概念はあてはまらない。

 

早い話、定番デザインのモデルがあり、

かつ生産能力に余裕がなければ作れないのが

「限定モデル」。

 

更に何らかの意味を持たせた

「記念キュー」を手掛けるには、

メーカーの「格」すなわちブランド力が必要。

作っても売れない不人気メーカーでは

意味ないからな。

 

*****

 

日本国内で「記念キュー」といえば、

真っ先に思い浮かぶのが『全日本選手権モデル』。

 

毎年11月に実施される『全日本選手権』を

記念した特別デザインのキューが、

(株)三木と(株)アダムジャパンにより

限定生産される。

 

2019年全日本選手権モデル。左がEXCEED、右がMUSASHI
2019年全日本選手権モデル。左がEXCEED、右がMUSASHI

 

仮にオーダーすれば納期まで

かなり待たされるムサシやエクシードを、

即買いできるメリットは大きい。

 

ちなみにキューには全日本選手権モデルである旨の

レタリングやインレイはない。

 

デザインに特別な意味を持たせない分、

プレーの道具として使うには良いのだが、

コレクター的視点で言えば、

「毎年買って集めたくなる」

動機が湧かないのをどう考えるかだ。

 

もし、全日本選手権モデルを毎年購入している

コレクターがいたら、尊敬に値するな。

 

この点、アメリカのコレクターイベント

『インターナショナル・キュー・コレクターズ・ショー』

(ICCS)では徹底している。

 

テーマを指定した上で、

ICCS主催者が参加メーカーに製作を依頼する

「テーマキュー」に、「ICCS+年号」を

キュー尻に記すことを要求している。

 

ICCSのテーマキューにはキュー尻に銘が入る
ICCSのテーマキューにはキュー尻に銘が入る

 

後々「ICCSのために作られた」事が、

将来そのキューに「箔を付ける」ことを

目論んでいるわけだ。

 

*****

 

キューメーカー自身が、長いキャリアを

重ねてゆくと、区切りをつけたいもの。

 

そのために製作されるのが「〇〇周年モデル」、

すなわち「アニバーサリーキュー」。

 

アメリカ人は、数字を分割するとき、

二分の一や四分の一などの分数的な感覚が

あるらしく、通常は25周年とか50周年とかを

区切りとして祝うことが多い。

 

ところが、キューメーカーは10年ごとに

記念モデルを製作するケースが多い。

 

例えば、サムサラやマクウォーターは

20周年記念モデルを製作している。

 

サムサラ20周年記念モデル
サムサラ20周年記念モデル
マクウォーター20周年記念モデル
マクウォーター20周年記念モデル

 

限定モデルとして売れそうなキューを作りたいが、

25周年まで待っていられない

事情や背景があるのだろう。

 

ちなみに20周年記念モデルの草分けは、

リチャード・ブラックが

1993年から1994年にかけて製作した

『20th Commemorative Cue』。

 

ただ、受注生産のみで何本製作されたのかは不明。

オレすら見たのはパンフレットだけで、

実物を一度も手にしたことがない幻のキューだ。

 

*****

 

カスタムキューメーカーが記念モデルを

手掛けるきっかけを作ったのは、

ジナキューだとオレは思う。

 

ジナキューは、1993年に30周年モデルを

製作した後、40周年、50周年と

10年おきに限定モデルを製作した。

 

ジナ30周年記念モデル
ジナ30周年記念モデル
ジナ40周年記念モデル
ジナ40周年記念モデル
ジナ50周年記念モデル
ジナ50周年記念モデル

 

デザインとしてもレギュラーモデルとは異なり、

一目でわかるもの。

 

そして限定本数ながら通し番号を入れず、

平等に扱っているのが最大の特徴。

 

例えば30本製作された30周年モデルには

すべて“One of Thirty” 、

つまり「30本のうちの1本」と刻印することで、

通し番号で差がつかないようにして、

オーナーに不公平感を持たせないのが特徴だ。

 

常に高い人気を誇り、多くの顧客を持つ

ジナキューならではの配慮だな。

 

とはいえ、同一限定モデルであっても、

インレイ材やジョイント材を変えることで

「限定の中の限定」モデルが存在するのが

ニクイところだ。

 

ジナキューの作者、アーニー・ギュテレスは

カスタムメーカーとしては現役最長。

すでに引退を表明し、60周年モデルが

製作される可能性はまずありえない。

 

ジナキューの記念モデルは

長いキャリアの区切りを象徴する作品として

高い価値を持ち続けるだろう。

 

*****

 

この他にも、顧客自身のイベント、

例えば結婚や子供の誕生などを記念して

製作される「記念キュー」も存在する。

 

まぁこれは個人的な意味づけであり、

キューコレクター的視点から言えば、

デザインや素材が他のモデルと比較してどうか、

という基準しかない。

 

オーナーの名前などを入れて

「パーソナライズ」されたキューの価値については、

コレクターなら知っていることだ。

 

これについては別テーマとして

項を改めることとしよう。

 

*****

 

限られた本数の、同一デザインを持つキューに

何らかの意味を持たせて製作できるメーカーは、

それ自体がコレクターやプレイヤーから得た信頼の証。

 

玉を撞く道具として、何ら他のモデルと

変わることはないのに、限定生産である事実や、

製作された意味づけを共有することで、

そこに価値を認めて新たな需要が生じるという点に、

カスタムキューの「カスタム」たる本質が表れている。

 

機会を逃せば、永遠に手が届かない存在に

なってしまうかも、という心理をつき、

「需要と供給のバランス」を

巧みに崩したところで成立するのが

「記念キュー」「アニバーサリーキュー」なのだ。

 

*****

 

しょっぱなからコアな調査依頼だったな。

 

令和2年は、

どのようなキューとの出会いがあるだろうか?

 

次の依頼を待っているぜ!

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

…………

 

Detective Kについて詳しくはこちら

 

 

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