〈BD〉「キラキラキューを探せ!」――Detective “K” season 5 episode 03

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

11月は、『全日本選手権』。

令和元年は、台風だ大雨だと、

自然の猛威にさらされているうちに

ビリヤード業界の年間総決算の季節が来た。

結果はご存じの通り

 

国内プレイヤーが、新元号最初の

優勝者となるのは、来年以降に持ち越しだな。

 

リンリンリン♪

 

うむ? BDからネット通話だ。

そういえば最近連絡がなかったな……。

 

『前回の依頼からだいぶ間があきました。』

 

ふっ、秋は試合が多いからな。

BDが忙しいのはわかるぜ。

 

『お気遣いなく。ところで最近

ハデなキューを手に入れたとか。』

 

すでに耳に届いているか……。

 

『キューの価格は、インレイで決まる、

逆に言えばインレイの数が多いと

値段が上がります。カスタムキューでは、

その傾向は一層強いはず。』

 

その通りだ。

 

『そこでインレイの数が多い、

いわゆる「キラキラキュー」について

調べて欲しいのです。』

 

とにかくキラキラヌルヌルした棒探しだな。

 

『ヌルヌルは余計ですが、そんなところです。』

 

よかろうBD、オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

玉を撞く道具としてのキューに、

装飾は本来必要ない。

 

棒のどっち側で玉を撞けば

いいのかが分かれば良い。

 

しかし、道具としての優劣や

プレイヤーの慣れが勝敗に影響する以上、

玉屋の「貸キュー」ではなく、

個人所有の「マイキュー」が

求められるのは当然。

 

誰の持ち物かが分かるよう名前を刻む、

あるいは優れたキューであることを

誇示するため、装飾を加えることは、

19世紀には行われてきたことだ。

 

もちろん、高性能なキューを作るためには、

素材となる木材の選定や、

より手間のかかる製作法、

プレイヤーの手間に合わせた

重量やバランスの調整など、

量産品とは異なるアプローチが必要となる。

 

「せっかく手間暇かけて良いキューを

作るのだから、更に一工夫して

見栄えも良くしたらいいんじゃない?」

 

というのが、

キューに装飾が求められるようになった理由だ。

 

*****

 

「キラキラキュー」とは、

装飾がバット全体に施されているものを指す。

 

デザインが細かければ細かいほどよく、

貴金属や宝石が使われているとなお良い。

 

良いキューに装飾を施したというより、

装飾を施しているから良いキューとも言える。

 

英語なら、”Glitter”とか

”Gramourus”という表現がぴったりだ。

 

70年代のデヴィッド・ボウイや、

T.レックスといったミュージシャンのイメージだな。

 

オレが最近入手したキューというのは

この『ZEN Custom Cue』だ。↓

 

 

長短6剣デザインに、シルバーや

ゴールドによる微細なインレイが、

表面を埋め尽くすように入れられている。

 

グリップはインレイが入れられたリングで

3分割され、上から下まで豪華絢爛なデザイン。

 

インレイはゴールドやシルバーが多用され、

光が当たるとまばゆく光る「キラキラキュー」だ。

 

「もったいなくて使えないのでは?」

などと言われたが、オレはプレーに使っている。

特性は極めて現代的。扱いやすいキューだ。

 

*****

 

さて、「キラキラキュー」は

いつ頃出現したのか?

 

1960年代のアメリカで、キューを飾るため

多用されるようになった「インレイ」。

 

「インレイ」(inlay)とは、

Season 4のepisode 03、04、08で

説明した通りだ。

 

当初は、真珠母貝を丸型や菱形に切り出した、

出来合いの素材を使っていた。

 

バット表面に丸い穴を開けたり、

菱形の溝を彫ったりするのは、

簡単な工具で可能だ。

 

当初は、「注文主の好みに合わせた

特別なキュー」の注文御礼として、

オマケのように入れていたであろうインレイも、

数が増えると手間になる。

 

インレイを増やせとリクエストがあれば、

インレイの数に応じて価格が上がるのは当然。

 

バラブシュカのインレイ
バラブシュカのインレイ

 

西海岸のジナ、東海岸のパーマー、

それぞれの最高級モデルや、

カスタムキューの代名詞、

バラブシュカのインレイ入りモデルは、

当時の「キラキラキュー」と言ってよいだろう。

 

*****

 

1970年代になると、インレイは

出来合いのパーツを入れるだけでなく、

様々な形状をキューメーカー自身が

材料から切り出すようになった。

 

こうなるとキューの値段は、インレイの数と

デザインで決まるようになってきた。

 

さらに1980年代は、空前の映画『ハスラー2』

あるいは『プールバー』ブーム。

 

バブル景気時代の常識として、

「高価なものほど、後から買うともっと高価になる」

とされた時代。

 

キューのインレイは、数や形だけでなく、

金銀宝石など高価な素材を用いたキューが出現した。

オレはこの時期を

現代「キラキラキュー」の原点とみている。

 

メウチの「タジマハール」
メウチの「タジマハール」

 

1980年代半ば、斬新なデザインで

業界をリードした「メウチ」が

1990年頃製作した、『タジマハール』。

 

インレイの数で価格を決める、という概念を

大きく超え、デザインの美しさや複雑さ、

トータルな完成度という、全く違う考え方の

価値観を生み出した点で画期的だった。

 

当時のトッププロ、ジム・レンピが

短期間所有後、90年代末に日本人所有となった

「キラキラキュー」の金字塔。

キュー好きなら一度は見ておきたい名作だな。

 

*****

 

RC3の大ぶりなインレイ
RC3の大ぶりなインレイ

 

1990年代末から2000年代は、

高価なキュー=複雑かつ高価な材料を使った

インレイ入りのキュー、

すなわちどれだけ「キラキラ」しているかは

重要な指標となった。

 

インレイは大きくかつ複雑な形状となり、

より高度な工作機械なしでは入れられなくなった。

 

幾何学模様だけでなく、不定形のインレイも増えた。

 

ここから「キューデザインはアートか否か」

という議論も生まれた。

 

「芸術」という言葉が免罪符となり、

何でもありなデザインが施されるようになったのだ。

 

ハルゼーの不定形インレイ
ハルゼーの不定形インレイ

 

エキスポやコレクターズショーで、

投票によってキューデザインの優劣を競う、

いわゆる「コンペ」が増え、

「キラキラ」化を促進した面もある。

 

受賞するためには、

とにかくハデで目立つ必要があったからだ。

 

「キューはキャンパス」という考えから、

デザインが施されるエリアの

拡張が進んだのもこの時代。

 

バットエンドが短くなり、

グリップの糸巻・革巻がなくなり、

ジョイントカラーにもインレイが

入れられるようになった。

 

キューのデザインに合わせた

 

「マッチングキューケース」も製作された。↓

 

リチャードブラックのケース付きキュー
リチャードブラックのケース付きキュー

 

バットだけでなくシャフトまでインレイが入り、

さらには、ジョイントプロテクタや

エクステンションにまで

インレイが入るようになった。↓

 

ペシャウワー
ペシャウワー
ジャコビーキューのセット
ジャコビーキューのセット

 

キューにデザインを入れる場所がなくなり、

付属品まで「キラキラ」させる状況。

 

やがて、チョークケースやグローブ、

メカニカルブリッジやテーブルまで

「キラキラ」になるかもしれんな。

 

*****

 

「キラキラキュー」は、

表面的な美しさだけの追求ではない。

 

金属や貴石など、重い素材を使っても

トータル重量を抑えられる構造の開発、

金属と木材という性質が異なる素材を

均一に研磨し塗装する技術など、

キュー製作自体の進歩も生み出している。

 

新たな素材を使い、

斬新かつまばゆいばかりに光る令和版

「キラキラキュー」の登場が待ち遠しいな。

 

次の依頼を待っているぜ!

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

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