〈BD〉「復活キュー探偵K 名作 or 迷作? 衝撃のキューと呼ばれて」――Detective “K” season 5 episode 01

サムサラの「チェスセット」。全て合わせて一つの作品
サムサラの「チェスセット」。全て合わせて一つの作品

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

元号が令和に替わった2019年、

ビリヤードキューの世界では

雨後のタケノコの如く(人工素材なのに、

タケノコというのも変だが)、

カーボンシャフトが国内外さまざまな

メーカーからリリースされる時代となった。

 

そして、BDからの調査依頼はぱったり途絶えた。

 

カスタムキューの世界を探りまくってきた

オレにとっては、仕事がしづらい時代だ。

 

夏場のカーボンシャフトは落雷に要注意……

といっても、屋外で撞くヤツはいないか。

ま、ボヤいても何も始まらんがな。

 

リンリンリン♪

 

おお? BDからネット経由の音声通話!

ある意味、新鮮だな。

 

『K、生きていますか。』

 

ま、なんとかな。

 

『まだ暑いですが、調査の依頼です。』

 

おお! 仕事か! もうないかと思っていたぜ。

 

『K、まだやれることはありますよ。

著名メーカーや巨匠たちの

『今となってはちょっと恥ずかしいキュー』を

調べてください。』

 

……芸能レポーターっぽいノリで来たな。

 

『メーカーが“血迷ったのか?”と

思われたキュー、

“弘法も筆の誤り”的キューなど、

アリかナシかの議論が沸き上がる

ようなものをお願いします。』

 

なるほど、新シーズンの

オープニングにふさわしいテーマだな。

 

『はい、また長いシーズンとなりますが、

お願いします。』

 

よかろうBD、オレはキュー探偵K。

 

シーズン5開始にふさわしいトピック、

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

二本と同じものがない凝ったデザイン、

そして高級素材を惜しげもなく用いた、

超高級カスタムキューの世界。

 

本来、玉を撞く道具として

卓越したプレイヤビリティを

追求するべきキューメーカーが、

独創性を求めるあまり、暴走とも暴挙とも

言われかねない作品を生み出した。

 

それらは「アートキュー」とも呼ばれ、

普通のキューでは満足しない

カスタムキュージャンキーコレクターや、

玉撞き自体がメインではない

美術愛好家の注目を集めてきた。

 

*****

 

そのさきがけは、1992年に製作された

マクダモット社の『インティミデーター

(63インチ、153オンスのバケモノだ)

なのだが、少量生産メーカー作品の元祖は、

オレが思うにプレーサーの作品群だ。

 

1997年と1998年のイベント

『ギャラリー・オブ・アメリカン・キューアート』に

出展されたプレーサーは、

 

透かし彫り二重構造バット

『Giza Celebration』や、

バット周囲にワイヤーを張り巡らせた

『Wired』という作品を展示。

キューの構造上あり得ない手法で衝撃を与えた。

 

プレーサー(フォアアーム側)。真ん中がGiza(ギザ)、下から2番目がWired(ワイアード)
プレーサー(フォアアーム側)。真ん中がGiza(ギザ)、下から2番目がWired(ワイアード)
プレーサー(スリーブ側)。真ん中がGiza(ギザ)、右から2番目がWired(ワイアード)
プレーサー(スリーブ側)。真ん中がGiza(ギザ)、右から2番目がWired(ワイアード)

 

当時エキスポ会場で展示された

『Wired』の実物を手にしたオレは、

ワイヤーをびょんびょんと指で弾いて遊んでみた。

 

それを見た作者のジェフ・プレーサーは、

ひどく怒った(笑)。

 

これ以降、カスタムメーカーやコレクターは

「何でもアリ」と思ったに違いない。

 

*****

 

そして「何でもアリ」に早速乗ったのが、

ジョスウェストの作者、ビル・ストラウド。

 

キューバ産葉巻「コイーバ」をモチーフに

1998年に製作した『Cohiba』には、

皆ぶっ飛んだ。

 

左側の赤茶色のキューがジョスウェストの『Cohiba』
左側の赤茶色のキューがジョスウェストの『Cohiba』

 

バールウッドを葉巻形に削り、

バットの周りに貼り付けたデザイン。

 

遠目には、補助燃料タンクを付けた

ロケットにしか見えない怪作だ。

 

展示されるや否や集中した

「こんなのキューじゃない」という、

至極まっとうな批判に対して

ビル・ストラウドは、

「これでプレー出来るよ」と、

実際に撞いて見せたのだ。

 

当時のカスタムキューの世界で、

もろもろの事情から浮いた存在だったゆえ、

『ギャラリー・オブ・アメリカン・キューアート』

には参加できなかったビル・ストラウド。

 

ある種の執念や意地が、このキューに

凝縮されたといってもいいだろう。

 

そのエネルギーは、自らが主宰するイベント、

『インターナショナル・キュー・コレクターズ・ショー』

(ICCS)となって昇華する。

 

*****

 

そのICCSの目玉は、毎回決められたお題で

カスタムメーカーがキューを製作し、

一堂に会することで形成される「コレクション」。

 

毎年製作されたコレクションの

ピークとも言えるのが、

2007年テキサス州ヒューストンで

発表された『ローンスター・コレクション』。

 

テキサスにちなんだテーマで、

自由にデザインするということだったが、

名所旧跡、歴史上の人物をインレイや

スクリムショーで入れれば一丁上がり、

という作品が増え、キューメーカーの

創造力や意欲に限界が見えてきた

コレクションだった。

 

その中でぶっ飛んでいたのが、

ジェリー・マクウォーターと

トーマス・ウェイン。

 

「ローンスターコレクション」内のマクウォーター(中央左側)とトーマス・ウェイン(中央右側)
「ローンスターコレクション」内のマクウォーター(中央左側)とトーマス・ウェイン(中央右側)
マクウォーター
マクウォーター
トーマス・ウェイン
トーマス・ウェイン

 

マクウォーターは、テキサス州の

幹線道路地図をスターリングシルバーで

インレイするという開き直りデザイン。

ま、これはこれで良い。

 

本当の注目はトーマス・ウェイン。

テキサスのご当地ビール

『ローンスター・ビール』のボトルを

キューのバットに見立て、

ビールラベルは精密なインレイで表現。

ジョイントプロテクタには

本物のビールの王冠を使ったのだ。

 

オレは素晴らしいと思ったのだが、

見た目は非常に地味なキューという

「考えオチ」をどう評価するか、

他のコレクターたちは大いに悩んでいた。

 

*****

 

さて、キューだけで他メーカーとの

差別化を図るのは難しいと考え、

付加価値を付けることも珍しくない。

 

いわば「オマケで客を釣る」作戦。

このオマケが豪華なほど、

始末に困る作品となる。

 

よくあるのは特製ケース。

ビル・シックのキューには、

キューとマッチングデザインの

木製ケースが付いてきた。

 

ビル・シック
ビル・シック

 

ケースにも複雑なインレイが入っていて

……と思いきや、その材料は

インレイを切り出した後のスクラップ。

 

貴重な材料を無駄にしない

良いアイディアなのだが、

このケースを持って外出というわけには

いかないシロモノだ。

 

マクウォーター
マクウォーター

 

ジェリー・マクウォーターは、

最高級5本セットに、ピアノ仕上げの

つやつやと黒光りする大型ケースを付けた。

 

もちろんバラ売りなし。しかもこのケースは

家具のような据置きタイプで、

移動時のキュー保護を目的としていない。

保管するだけでも場所を取る。

 

*****

 

しかし、オマケではなく、

本当の意味で「トータル・コンセプト」を

貫いたのがサムサラ。

 

 

チェスをモチーフにしたデザインの

12本セットには、なんとサムサラ自作の

超豪華チェス盤と駒が付属していた。

 

さすがにこれは置き場所がない上に、

12本セットのキューをバラして使うのも寂しい。

 

オレは「チェス盤と駒だけ売ってくれないか」と

聞いたが断られた。

 

その後、売れたのかどうか不明だが、

これほど大掛かりなセットは、

今後二度と作られることはないだろう。

 

*****

 

いろいろ見てきた中で、オレが最も

「やっちまったな」と本当に感じたのは、

リチャード・ブラックが2009年に製作した

『ザ・フォース』。

 

Copyright 2009, Richard Black
Copyright 2009, Richard Black
Copyright 2009, Richard Black
Copyright 2009, Richard Black

 

スターウォーズやポップカルチャーを

ミックスした独創的なデザイン、

というコンセプトなのだが、

見た目のヤバさは群を抜く。

 

最初に見た時、電池が入っていて、

光ったり動いたりするのではないかと

スイッチを探したほどだ。

 

そうでなくとも、強度が必要とされる

バットのフォアアーム部の銘木が

くり抜かれていて向こう側が見え、

極端な後ろバランスを生み出す

金属パーツがキュー尻に付いている

という過激な構造。

 

これでプレーすれば、

フォースが覚醒する……わけがないが、

ちょっとだけ欲しくなったのも事実。

 

*****

 

超高級モデルは現在でも製作されているが、

実用性を無視してまで斬新さや珍しさを

追求した過激なキューは、

まず見かけない時代となった。

 

玉を撞く道具として正常進化している

キューも良いが、アイディア一発で

既成概念をぶち壊すような一本を

目の当たりにした時のインパクトは忘れがたい。

 

そんな作品に取り組むキューメーカーの出現を、

オレは心待ちにしている。

 

また仕事を依頼してくれ!

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

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