〈BD〉「知識の泉~拡張編~」――Detective “K” season 4 episode 07

 

私はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

ビリヤードプレイヤーにとって

悩み多き季節、6月だ。

 

梅雨時のテーブル、ラシャは重く、

クッションは立ちまくる。

 

何より傘を差しながらキューケースを

担いで玉屋に向かうのが大変。

 

ビョビョーン!

 

BDからのメッセージだ。

何となく湿気た着信音だな……。

 

『何か調査をほったらかしに

していませんか? K。』

 

わかっているぜ、時代の変わり目、

インレイの続き、21世紀編だな?

 

『それもありますが、またいずれ。』

 

……また?(汗)

 

『平成の積み残し、

もう一つありますよね。』

 

えーと、『知識の泉』の方か?

 

『そうです。Kはepisode 06

「まだまだ紹介すべき書籍がある」と

言っていましたね。

それを完結させてください。』

 

前回で、キュー好き必携の書籍は

あらかた紹介した。あとは更に

ディープでコアな、言い換えれば

読者置いてけぼりのブツばかりだぜ。

 

『構いません。Kの基礎知識は、

とても幅広いのは知っていますから。』

 

執念深いな、BD。

 

だがよかろう、オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

キューに関する知識は、

ビリヤードに限ったものではない。

 

木工品、美術品、

アメリカの歴史・文化など、

キューを様々な面から見ることで、

より理解を深めることができるのだ。

 

今回は、ビリヤード関連書籍以外から

紹介しよう。相変わらずアメリカの

書籍が多いのはご容赦願いたい。

 

*****

 

ビリヤードキューを語る上でなくては

ならない木材。しかし、素材としての

木材だけでなく、どう加工するのか

という面からの研究も必要だ。

 

 

◆ 接着の科学 竹本喜一/三刀基郷 1997年 講談社

 

オレが駆け出しの

キュー探偵だった20年以上前、

最初に興味を持ったのは接着剤。

 

タップを先角に取り付けるのは

どの接着剤がベストか、

積層タップはどのように

革を貼り合わせているのか、

 

木材同士、あるいは木材と金属を

強固に接着するため、

キューメーカーが使う接着剤は何か、

疑問が次々と湧いてきた。

 

そこで手に取ったのが本書。

 

もの同士がくっつくというのは、

なぜなのかを平易に解説している。

 

接着とは、分子レベルの相互作用、

つまり分子同士が接着界面で引き合う力、

などという難しい話から、

様々な接着剤の特徴まで、

後々役立つ多くの知識を得た一冊だ。

 

*****

 

 

◆ 木材乾燥のすべて 寺澤 眞 1994年 2004年 海青社

 

キューの素材として問題となる、

曲がりや反り、割れを防ぐためには、

木材の適切な乾燥プロセスが必要。

 

本書は、木材人工乾燥技術の習得を

目的とした730ページ以上に及ぶ専門書。

 

「経済的合理性を考えず、

時間さえかければ、

だれでもある程度の成果が得られるが、

より早く、より完全に、より安全に、

より安く仕上げるところに

木材乾燥の技術的価値がある。」

(本書より)という一文が全てだ。

 

本来は木材乾燥の現場に携わってこそ

役立つのだが、知識を体系的に

整理できるだけでも十分価値がある。

 

*****

 

 

◆ 木材の塗装 木材塗装研究会 2005年 海青社

 

木材は、美しさや手触りの良さなどを

持つ反面、水分により膨張・収縮し、

また汚れや傷がつきやすく、摩耗し、

変色しやすいという欠点も持っている。

 

そこで美しさをより引き立たせ、

かつ保護する目的で施されるのが塗装。

それを体系的に整理したのが本書。

 

キューの塗装はメーカーにより

様々な塗料や手法が用いられ、

一見しただけではわかりづらいが、

知っておけば役に立つことも多い。

 

「ニス」の語源は、英語の“Varnish”。

「バーニッシュ」が「ワニス」となり、

さらに「ニス」となったことを

オレは本書で知った。

 

*****

 

 

◆ Wood and Traditional Woodworking in Japan,

メヒティル・メルツ Mechtild Mertz 2011年 海青社

 

著者はドイツ人の女性で、日本語を学び

日本の木工を調査し、まとめた書籍。

 

本書は、西洋から見た日本の

木工に対する考察が有用なのだが、

国産材の英語名が調べられる

資料が付いているのが重要なポイント。

 

国産の銘木が外国語で何と呼ばれて

いるのか知らないと、何が不都合か?

 

国産材を用いた国内メーカーのキュー、

日本の木工技術を外国メーカーや

コレクターから聞かれる機会も多いからだ。

 

キュー探偵の業務には、

国際交流も含まれるのだ。

 

*****

 

たった一人で製作する、

アメリカの少量生産キューメーカーたち。

 

日本で語られる「職人」という

概念とは異なる共通点があるはずと

オレはずっと考えていた。

 

そこで手に取ったのが以下の書籍。

 

 

◆ アメリカ職人の仕事史 森 杲 1996年 中公新書

 

17世紀から18世紀にかけて、

ヨーロッパ各国の植民地だったアメリカ。

 

「ないものは自分で作る」時代から、

19世紀の独立戦争や南北戦争を経て

急速な工業化が進み、

大量生産の時代に入った20世紀までの

「職人」についてまとめられた書籍。

 

アメリカの「職人」たちには、

「常に工夫し、自分の仕事は

習ったようにはやらない」

「仕事の知識やノウハウは、秘密にせず

積極的に共有してさらに改善する」

精神が常にあったという。 

 

キューメーカーたちは、失われつつある、

モノづくりのアメリカン・スピリッツを

保ち続けている希少な存在だと

気付かせてくれた一冊だ。

 

*****

 

キュー装飾の技法として欠かせない、

インレイとスクリムショー。

 

それはキュー製作に限ったものではなく、

さまざまな工芸品に施されるもので、

関連書籍も多く出版されている。

 

図版や写真も多く、見ているだけでも

楽しめるものに絞って紹介しよう。

 

 

◆ Scrimshaw Techniques, Jim Stevens 2008

 

象牙やセイウチ、クジラの歯などに

ナイフや針で細かい線を彫り、

塗料やインクを刷り込んで絵を表現する

技法は世界各地で古くから存在する。

 

捕鯨が盛んだった19世紀のアメリカで、

乗組員やその家族が手掛けたものは、

「スクリムショー」と呼ばれている。

 

その歴史と、

技法を詳しく解説したのが本書。

 

カスタムキューにスクリムショーを施した

作家(「スクリムシャンダー」と呼ばれる)

の作品も紹介。

 

他の国々と比較して

歴史の浅いアメリカにとって、

「スクリムショー」は伝統工芸として

認識されていることがよくわかる。

 

*****

 

 

◆ Contemporary Scrimshaw, Eva Halat 2008

 

現代におけるスクリムショーの作品実例を

多数のカラー写真で掲載しているのが本書。

 

ナイフや拳銃のグリップだけでなく、

ビリヤードキューも一つのカテゴリとして

まとめられており、

ポール・モッティ、pfd、サウスウェスト、

アーサー・キューの作品が掲載されている。

 

どのキューも過去の

『キューコレクターズショー』で

展示されたものであり、

歴史的資料としても貴重な書籍。 

 

*****

 

 

◆ The Art of Inlay, Larry Robinson 1994 2005

 

インレイ作家による、技法と作品の紹介。

 

初版本の表紙は、奈良正倉院の宝物、

8世紀に唐で作られた楽器、

螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)を

写したインレイを、

アメリカ製バンジョーに施したもの。

 

これだけでインレイが持つ、時代や

洋の東西を問わない普遍的な美しさや

耐久性といった価値が分かるだろう。

 

キューの装飾において、

インレイが欠かせない技法である理由が

そこにあると気付かされた書籍。

 

*****

 

 

◆ A Guitarmaker’s Canvas, Grit Laskin 2005

 

最後に紹介する一冊は、

装飾インレイの豪華さおいて

右に出る者がいないカナダのギターメーカー、

ウィリアム・”グリット”・ラスキンの作品集。

 

カスタムキューメーカーのインレイで

悩んで眠れないようであれば、

オススメの一冊。

 

オレの場合、

あまりに想像を超えるレベルだったゆえ、

インレイに関する煩悩が消失した。

 

「あってもなくても、大した違いではない」

と、一切悩むのをやめた。

 

*****

 

キューに関する興味を深めると、

必要となる知識は際限なく広がってゆく。

 

それは、ビリヤードのプレーを

究めることにも似て、全くゴールが

見えない世界に足を踏み入れること。

 

「自分にとって本当に大切なもの」は、

実はキューではないことに気付くかもしれない。

 

もし全く別のものに興味が移ったとしても、

オレは責任を持たないのでそのつもりでな。

 

また調査があれば連絡してくれ。

 

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

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Detective Kについて詳しくはこちら

 

 

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