〈BD〉「キューのインレイ学~材料編~」――Detective K season 4 episode 03

Tonkinキューの様々なインレイ
Tonkinキューの様々なインレイ

 

私はDetective K。

 

ビリヤードキューの調査を

引き受ける探偵だ。

 

平成最後の年末年始・成人式も過ぎ、

気づくと1月も下旬。

 

探偵は相変わらずヒマだ。

 

ビョビョーン!

 

BDからのメッセージだ。

今年から着信音が変わったな……。

 

『K、今年もどうぞよろしくお願いします。

 

うむ? なにやら、慇懃無礼な態度だな、BD。

 

『おぉっと、今なんて言いました?

 

「いんぎんぶれい」と言ったが、それが?

 

『それです!

今回の調査内容を言い当てるとはさすが。

 

??? いんぎんぶれいが?

 

『そう! 「いんぎんぶれい」の

最初と最後を取れば「インレイ」ですね。

 

はぁ、強引だな……。

 

『Kがキューメーカーを見分けられるのも、

デザインにこだわるのも、

「インレイ」があるからですよね。」

 

それは否定しようがないな……。

 

『そうでしょう。

では、「インレイ」の材料や構造、

その形などなど、幅広―く調査してください。

 

じゃ、2019年もよろしく!

 

元号が変わる歴史的な年にしては、

BD、やけに軽いな。

 

わかった、オレはキュー探偵K。

 

2019年仕事始め。

その依頼、引き受けた!

 

*****

 

ジョス、ニッティ、ジョーシィなど 高級カスタムキューに施されたゴージャスなインレイの例
ジョス、ニッティ、ジョーシィなど 高級カスタムキューに施されたゴージャスなインレイの例

 

「インレイ」(inlay)とは、

素材の表面に図形を彫り、

同じ形の別材料を嵌めこむことで

デザインを施す技法。

 

「象嵌(ぞうがん)細工」とも呼ばれる。

 

その起源は紀元前3000年頃の

メソポタミア文明までさかのぼれると

言われるほど古い。

 

キュー装飾においては、

「ハギ」や「リング」と並ぶ重要な要素だ。

 

同一メーカーの、

同一スペックを持つキューであっても、

「インレイ」の有無、あるいは

インレイの数によって価値が大きく変わる。

 

筆やエアブラシで絵付けする技法は、

あまり評価されない。

 

あらかじめシートに印刷されたデザインを、

貼り付けたり巻き付けたりする技法は、

「プリント」と呼ばれ、

安物キューの代名詞となっている。

 

見た目の美しさやカッコよさの判断は

人それぞれだが、全く同じデザインを

インレイで表現するか、描くか、

貼り付けるかで価値が決まるという

共通認識がキューの世界に存在する。

 

仮に同じデザインであっても、

手間がかかる技法を用いて施された方が

価値が高い、ということだな。

 

*****

 

さて、キューに「インレイ」が

施されるようになったのはいつ頃からか?

 

18世紀~19世紀にヨーロッパで

製作されたキューには、

 

「マーケトリー」(Marquetry)と呼ばれ、

材料をベースとなる木材に貼り付ける

技法で装飾されたものが存在する。

 

しかしながら、

現代のキューに施される「インレイ」は、

ひとつひとつのインレイ材が、

デザインとしての形を成しているのが特徴で、

 

複数の材料を組み合わせ、

ひとつのデザインを表現する

マーケトリーとは趣が異なる。

 

その意味で、

現代キューにおけるインレイの起源は、

 

20世紀初頭、アメリカの

ブランズウィック社で製作された最高級品、

『モデル360』ではないだろうか。

 

ブランズウィック社デジタルアーカイブ・ “The Brunswick-Balke-Collender Co. Billiard Table Catalogue 1923-1924.”より。 画像一番下が『モデル360』
ブランズウィック社デジタルアーカイブ・ “The Brunswick-Balke-Collender Co. Billiard Table Catalogue 1923-1924.”より。 画像一番下が『モデル360』

 

モデル360には、

キュー尻に貝かセルロイドで作られた、

三角形のプレートがはめ込まれていた。

 

それは装飾であると同時に、

オーナーの名前を刻むための

ネームプレートでもあった。

 

キューにおける「インレイ」は、

貸キューではなく、プレイヤーが

所有するプライベートキューの証。

 

「他人のキューとは明確に

区別するための目印」だったのだ。

 

*****

 

ビリヤードエキスポに出展していたインレイパーツ屋のブース
ビリヤードエキスポに出展していたインレイパーツ屋のブース

 

さて、そのインレイに用いられる材料だ。

 

キューのバットにはめ込まれた後、

膨らんだり縮んだりしない材料であれば、

およそ何でも利用可能だ。

 

主なインレイ材は、様々な種類の木材や、

真珠母貝、象牙や鹿角など、天然素材。

 

バット材として使われる木材とは、

異なる色合いや質感の材料を

用いるのがセオリー。

 

遠目で見ても、デザインが引き立つ

材料を選んでいるといってもいいだろう。

 

*****

 

1960年代になると、

現代カスタムキューメーカーの草分け、

西海岸のジナキュー、

東海岸のパラダイス、

バラブシュカなどが登場し、

 

撞いた際の特性だけでなく、

デザインもキュー選びの要素となった。

 

キューに

真珠母貝(マザー・オブ・パール)の

インレイが多いのは、当初、

ギター装飾用の市販品を流用していたからだ

(この件は次回、改めて触れることとする)。

 

やがてキューメーカーは、

インレイの数や、

高価な素材を使用することにより、

他メーカーとの差別化を

図るようになってゆく。

 

1980年代に入ると、

ターコイズやマラカイト、

ラピスラズリなどの半貴石や、

スターリングシルバー、ピュアシルバー、

18金や24金などの貴金属、

果てはルビーやダイヤなどの宝石まで

用いたキューメーカーが登場する。

 

これは、接着剤の進化や、

高度な工作機械の使用という背景もある。

 

木材に石や金属を嵌めこみ、接着し、

平滑になるまで削り、磨くのは

簡単ではないのだ。

 

*****

 

もっとも、インレイ材に

天然素材ばかり使っては、値段が青天井。

 

半貴石や貝の類は、一見本物っぽいが、

実は人工素材が多いことは

知っておいた方が良い。

 

ターコイズと称していても、

違う種類の石を染色したものや、人造石、

果てはプラスチックというのが大半で、

本物の「トルコ石」がインレイされている

キューは非常に稀だ。

 

ダイヤっぽい宝石が埋め込まれていても、

実はキュービックジルコニア、

という例もある。

 

また、近年、動物保護の観点から

取引が規制強化されている象牙。

 

以前は高級カスタムキューに

欠かせない素材だったが、

タグアナッツ(象牙椰子)や

マンモス牙といった他の天然素材や、

アイボリンやエルフォリンなど、

人工の代替材に置き換えられつつある。

 

*****

 

ジャコビーキュー。インレイ材としてバールウッド、様々な人造石、パーロイドなどが使われている
ジャコビーキュー。インレイ材としてバールウッド、様々な人造石、パーロイドなどが使われている

 

一方、キューにおけるプラスチック材の

インレイは、使い方次第で見栄えのよい

デザインを表現可能だ。

 

1970年代に登場した量産メーカーは、

加工のしやすさやコストとの兼ね合いから、

インレイに高級素材だけでなく、

プラスチックも多用している。

 

代表的なのは、

メウチやマクダモットなどだな。

 

タッドのように、

日本への輸出を意識して象牙を使わず、

インレイの一部がプラスチックであっても、

カスタムメーカーとして

高い評価を得ている例もある。

 

デザインやプレイヤビリティという評価軸は、

インレイの素材の価値を超えるのだ。

 

合成樹脂でありながら、製造中止と

なったため貴重とされる素材が「ミカルタ」。

 

経年変化で白かったインレイが

黄色に変色したものは、

「イエローミカルタ」とも呼ばれ、

コレクターの評価ポイントの一つだ。

 

*****

 

貴重な材料を用いているだけで高価なキュー、

ありきたりの材料で

インレイされていても高価なキュー……。

インレイは材料だけでも奥が深いのだ。

 

次回、キュー独特のインレイデザインは

いかに生まれたかを調べてゆきたい。

 

このテーマ、続くぜ。

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

※参考文献

Larry Robinson (2005) “The Art of Inlay : Design & Technique for Fine Woodworking”, Backbeat Books

 

※Detective Kについて詳しくはこちら

 

 

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