〈BD〉「カタカナ表記の揺らぎ」――Detective K season 3 episode 04

Treadway Custom Cues。BDでは「トレッドウェイ」と表記している
Treadway Custom Cues。BDでは「トレッドウェイ」と表記している

 

私はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

周囲からは”K”と呼ばれている。

 

サッカーワールドカップも、

ビリヤードの『ジャパンオープン』も終わった。

 

夏休み本格到来。

学生は帰省し、社会人は行楽その他で、

結局玉屋に客が少なくなる。

 

オレは事務所で、タライに水を張って

足を突っ込み、涼をとっている。

なごむぜ。

 

*****

 

『ビー・ビー・ビー!』

 

BDからメッセージだ。

 

びっくりして、スマホをタライの中に

落としそうになった。焦らすな……。

 

『最近注目を集める、

ジョシュ・トレッドウェイのキューですが。』

 

……ん? トレードウェイのことか?

 

『いいえ、トレッドウェイです。』

 

は? トラッドウェイじゃなくて?

 

『キューメーカー、Josh Treadwayのことを

指していること、わかってますね?』

 

……はい、わかってます。

 

『英語をカタカナ表記すると、

どうしても揺らぎが生じるもの。

カナ表記がマチマチなキューメーカー名があると、

プレイヤーやコレクター同士の会話で

不都合ですよね。』

 

確かに。それで口論になることすらあるからな。

 

『そうです。これまで、いろいろな

カナ表記のあったキューメーカーは、

トレッドウェイだけではないはず。

それぞれの事情や理由について調べてください。』

 

オレはキュー探偵K。

その依頼、引き受けた。

 

*****

 

外来語をカタカナ表記する際の揺らぎ。

 

アルファベットはカナと1対1で対応しておらず、

ましてや使用される母音・子音の数は

外国語の方がたいてい多い。

 

更に、日本語をアルファベットで表記する

「ローマ字」が存在するゆえ、

外国語のスペルを「ローマ字」読みして、

元の言葉と発音がかけ離れてしまうこともある。

 

最近では、

サッカーロシアワールドカップにおける

フランス代表選手、Mbappéを

「エムバぺ」

「ムバッペ」

「ムバぺ」

と、同一人物と思えないカナ表記が

メディアを賑わした。

 

キューメーカー名においても、

同様の事象があった。

 

*****

 

Meucci
Meucci
McDermott
McDermott

 

Meucci:

「メウチ」「メウッチ」「ミューチ」

「ミィウチ」

 

1980年代末の映画

『ハスラー2』ブーム時に、

カナ表記が揺らぎまくった代表的メーカー。

 

創業者のボブ・メウチは、おそらく

イタリアにルーツを持つアメリカ人。

 

よってイタリア語の発音では「メウッチ」だが、

アメリカ英語の発音では「ミューチ」が近い。

 

それが「メウチ」に収束していった理由は、

当時開催されたトーナメント『メウチカップ』、

あるいは1988年にボブ・メウチ自身が

来日したのをきっかけに、「メウチ」を用いる

キュー販売業者が増えたから、と思われる。

 

同様に、

当時多数輸入されていたMcDermottも、

「マクダーモット」「マクドーモット」

「マクダモット」と揺らいでいた。

 

*****

 

 

Tim Scruggs:

「スクラグス」「スクラッグス」「クラッグス」

 

1980年代から1990年代にかけて

複数の表記が見られるメーカー。

 

アタマの”S”は、子音のみの発音であるため、

それを原則「子音+母音」からなる

「ス」と表記するのは少々無理がある。

 

それにネイティブスピーカーの発音では、

"S"があまり聞き取れないので

「クラッグス」という表記が

「スクラッグス」と併存した。

 

ちなみに有名バンジョー奏者、Earl Scruggsは

「アール・スクラッグス」と表記されている。

 

それに寄せるべきなのかもしれないが、

1990年代半ば以降、日本語としてリズムが良い

5文字の「スクラグス」に落ち着いた。

 

*****

 

 

Cognoscenti:

「コグノセンティ」「コグノ」

 

本来の発音をほとんど考慮せず、

カナ表記が定まったメーカー。

 

もともとは「目利き」という意味を持つ、

イタリア語起源の単語。

 

1990年代中期から日本に輸入され、

「コグノセンティ」で定まり、

揺らぐことはなかった。

 

アメリカ人の発音を無理やりカナ表記すると

「カグノゥシェンティ」あるいは

「コジュノセンティ」なのだが、

 

途中の”g”の後に母音”u”を付け足して

ローマ字読みしたと考えれば、分かりやすい。

 

ただ、プレイヤーやコレクターの間では

「コグノ」という省略形が愛称として定着した。

 

省略形で通じるのは他に

「サウスウェスト」→「サウス」、

「ザンボッティ」→「ザンボ」、

「バラブシュカ」→「ブシュカ」ぐらい。

それだけ認知度が高く、人気が絶大だったのだ。

 

*****

 

 

Joss:

「ジョス」「ジョース」「ジョス・オリジナル」

「ジョス・イースト」

 

勝手に名称がアレンジされたメーカー。

 

”Joss”の語源は

「幸運を意味する東洋の単語」という、

創業者の一人、ダン・ジェーンズの説明だけで、

よくわからない。

 

アメリカ人の発音に近いのは「ジョース」なのだが、

あっさりと「ジョス」に落ち着いた。

 

ちなみに、もう一人の創業者、

ビル・ストラウドが袂を分かって旗揚げした

”Joss West”は、1980年代後半、

「ジョース・ウェスト」と

広告には表記されていた。

 

この2つのメーカーを明確に区別するため、

「ジョス」は、「ジョス・オリジナル」、

あるいは「ジョス・イースト」とも表記された。

 

もちろん正式なブランド名ではなく、

キューを販売する側が付けた便宜的な名称だ。

 

キューデザインの違いは一目瞭然。

 

「どっちのジョス? イースト? ウェスト?」

みたいな、マヌケな会話は聞いたことがないがな。

 

*****

 

 

Jerry Olivier:

「オリビエ」「オリバー」

 

最初の表記が単なる読み間違いだったメーカー。

 

1990年代末、某ビリヤード月刊誌で、

最初に紹介された際の表記は「オリバー」だった。

 

だがどう読んでも、キューメーカー本人に

発音してもらってもそれには無理がある。

 

これは単に記事を書いたヤツが、

”Oliver”と見間違えたために起きたのが理由だ。

 

この記事を書いたのは、何を隠そう、

駆け出しのころのオレだ。

 

ま、”Olivier”は、

そもそも”Oliver"のフランス語形なので、

あながち間違いではない……

と自己フォローしておく(汗)。

 

*****

 

Mike Capone:

「カポーン」「カポネ」

 

1990年代末、アメリカ英語の

発音寄りのカナ表記に定まったメーカー。

 

日本に紹介された当初は、苗字の綴りが、

イタリア系アメリカ人の有名なギャング

「アル・カポネ」と同じだったため、

イタリア語の発音にならって、あるいは

ローマ字読みに「カポネ」と表記された。

 

しかし、輸入される本数が増えると、

キューメーカー本人と直接話をする機会が

増えたのか、キューディーラーが、

アメリカ英語の発音に近い「カポーン」と

カタログ等に記載するようになり、

表記が定まった。

 

最初に「カポネ」と表記したのは、

やはり何を隠そうオレだった。

 

またやらかしたな、と言われても

反論はできない(滝汗)。

 

*****

 

カナ表記の揺らぎは、

結局のところ日本人にとって、

字面を見ても発音してもわかりやすい

表現に収束し、落ち着くようだ。

 

多くの販売業者が取り扱い、プレイヤーや

コレクターが語ったメーカーだからこそ、

発生したカナ表記の揺らぎ。

 

その意味では、

人気のバロメーターであるとも言える。

 

ま、「ジナ」を始め、例外も多いので、

単なる参考だがな。

 

今後も、カナ表記が揺らぎまくるほど

話題になるメーカーの出現を期待してやまない。

 

*****

 

もし新たな依頼があれば調べるぜ。

よろしくな、BD!

 

(to be continued…)

 

Detective “K”についてはこちら

 

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