〈BD〉寄稿『あなたの知らないキャロムキューの世界』。vol.1「はじまりはいつも酒」

 

ひとくちに「ビリヤードキュー」と言っても、

競技や種目によって、使われるキューの

寸法や仕様、性能は異なります。

 

BDでは国内で最も競技者数の多い

「ポケットビリヤード」用のキュー

(プールキュー)を

記事の題材にすることがほとんど。

 

キャロムキューやスヌーカーキューを

紹介したことはあまりありません。

 

そこで、キャロムキュー事情に精通している

「酔爺」氏に、知られざるキャロムキューの

世界を教えていただくことにしました。

 

今回から不定期で数回掲載します。

 

…………

 

酔爺・記:

 

 旧知の『K』と食事というかビールをかっ喰らっていると、ふいにKから「そういえば、酔爺ってキャロムキュー得意だよね。ちょっとBDに原稿書いてくんない?」と気楽に言われたのが発端だった。キュー探偵でも苦手な分野があるという事なのか、まぁ専門分野であるカスタムもしくはテーラードと呼ばれるキューはキャロム界隈では少なく、またキャロムキューをメインに作成しているメーカーというのもほとんど存在していないというのが現状だから、ある意味仕方がないのか……。

 

 さて、キャロムキューである。いわゆるプールキューとの違いはどこにあるだろう?

 

 まず最初に感じるのが寸法の違いであろう、よく「先が細くて短くて太い」というイメージを持たれているが、実際のところはどうだろう。プールキュー、キャロムキュー両方を作成しているイタリアの『ロンゴーニキュー』のサイトから寸法を抜き出してみよう。

 

 なお、ロンゴーニキューはキャロムキューとしては現世界チャンピオンのフレデリック・コードロン(日本ではクードロンと表記されることが多いが、CaudronのCauをクーとは発音しない。そしてかつて本人に聞いたところでもコードロンと言っていたのでこちらの表記を採用する)や、先日40点4イニング(10アベ!)の世界記録を樹立したディック・ヤスパースを始めとする世界トップクラスのプレイヤーをサポートし、またプールキューにおいてもニルス・フェイエンなど、トッププレイヤーのスポンサードを行っている。

 

バットの長さ比較。キャロムキューはプールキューより短い。上段のプールキューは『ダニーティビッツ』、下段のキャロムキューは『アダム・ムサシ』
バットの長さ比較。キャロムキューはプールキューより短い。上段のプールキューは『ダニーティビッツ』、下段のキャロムキューは『アダム・ムサシ』
シャフトの長さ比較。キャロムキューはプールキューより短い。上段のプールキューは『ダニーティビッツ』、下段のキャロムキューは『ロンゴーニ』
シャフトの長さ比較。キャロムキューはプールキューより短い。上段のプールキューは『ダニーティビッツ』、下段のキャロムキューは『ロンゴーニ』

 

◯全長:

プールキュー/58インチ

キャロムキュー/54~56インチ

※およそ5cm以上の差があることになる。

 

タップ径:

プールキュー/12.8mm~13.0mm、

キャロムキュー/11.5mm~12.0mm

※1ミリ程度の差がある。

 

◯ジョイント部の直径:

プールキュー/21.5mm

キャロムキュー/22mm

※0.5ミリ程度の差がある。

 

◯バットエンド部の直径:

プールキュー/30~31mm

キャロムキュー/32~32.5mm

※1.5ミリ程度の差がある。

 

 先端のタップ径で1mm、ジョイント部分で0.5mm、バットエンドで1.5mm程度の差があることがわかる。先端からバットエンドまでで都合2~3mm程度の違い。キャロムのキューがプールキューよりも若干太めではあるものの、印象よりも違いが小さいと思われたのではないだろうか。

 

 このバットサイズの違いは、プールの手球より大きく重い手球を撞くためだと言われてきた。実際ボールのサイズは、直径57mm・重量156g~170gのプール用ボールと比べて、キャロム用は直径61mm~61.5mm・重量205~220gと一回り大きい(UMB公式戦のゲームに使用する場合は重量の違いは3個とも2g以内でなければならない)。

 

 だが、個人的にはこれらは結局は慣れの問題ではないかと思っている。確かにかつてキューではバットの剛性を出すためには太くすることが必要というか手っ取り早かったということもあるだろうが、現在においては単純なハギだけではない様々なバット構造が考えられ実用化されている。

 

 またショットに与える影響はキューボールに近いパーツの方が当然大きくなるので、必然的にキューの性能におけるバットが占める比重は低くなってくる。これは、ハイテクシャフトが全盛になった現代においてはプールでも同様の認識になってきていると思うが、シャフトさえ良ければバットは基本どんな物でも使うことができるというのはコンセンサスとなっているのではないだろうか。

 

 それでは頭の部分から順に見ていこう。

 

…………

 

■ タップ・先角

 

 

 キャロムキューのタップ径は12mm、もしくはもっと小さめのものが多く使われている。小さいタップ径にすることにより撞点を細かく取ることができるようになる。先角は長さが11~12mm程度と、プールキューの1インチ(約2.5cm)よりは明らかに短くなっている。これにより大きなボールを撞いたときのトビを軽減している。プールキューでも先角を短くすることによりトビが軽減するということは経験として知られていることだとは思うが、キャロムキューにおいては構造的に最初から同様の効果が得られていることになる。

 

 先角の素材については、現在においてはプールキューと同じ人工素材が使われていると考えてよい。素材にも様々種類があり、最近では比較的柔らかめの素材が好まれているようだ。以前ではプールキューではあまり見られない鹿角やシャチといった素材も使われていたが、すっかり見なくなってしまった。

 

…………

 

■ シャフト・テーパー

 

参考URL:https://www.tigerproducts.com/shaftscaromstandard.html

(中央および下段がキャロムキューで以前最もスタンダードだった「ヨーロピアンテーパー」)

 

 シャフトは先角からの直線部分がプールキューと比較するとかなり短く、イメージ的には先からずっと太くなっているように感じられる。また、そのテーパーは「クジラの髭」と揶揄されることもあるように、中央が少し膨らんだテーパーが以前は最もスタンダードだった。これは「ヨーロピアンテーパー」と呼ばれ、キャロムにおける不世出の世界チャンピオン、レイモン・クールマンが使用していたテーパーがベースとなっていると言われている。日本が世界に誇る名プレイヤー、小林伸明・小森純一両選手も同様のテーパーを使用しており、『アダムキュー』の標準的なテーバーとして設定されていた。

 

 しかしながら、コンテンポラリーなキャロムにおいてはブロンダールを始めとする世界的なプレイヤーでもよりストレートなテーパーを好むプレイヤーも増えている、こちらはヨーロピアンに対して「アメリカンテーパー」と呼ばれることもある。因みに『レイ・シューラー』では「コンスタントテーパー」と呼んでいた。

 

…………

 

 ……おっと、このあたりで紙面(ブログにそんなものあるのか?)が尽きてしまったようだ。次回はバット部分とそれに付随する様々なアクセサリーについて紹介しよう。

 

(了)

 

初回

第2回

第3回

 

第4回

第5回

 

 

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