〈BD〉カスタムの輝き・「リチャード・ブラック」編

 

カスタムキューを多数取り扱っている

UK Corporation。

 

その代表、大原秀夫氏が所蔵している

キューを見ていく本企画

（※過去記事はこちら）。

 

今回ご紹介するのは

Richard Black（リチャード・ブラック）です。

 

テキサスに工房を構え、

多くの工程を基本的にハンドメイドでこなす

職人気質なキューメーカーです。

 

前回ご紹介したシック同様、

1970年代から一本物の高級キューを作ってきた

アメリカンカスタムメーカーの「巨匠」の

一人でもあります。

 

…………

 

 

今回紹介するのは、

メイプルベースで8剣ハギの入ったモデル。

スリーブはモノトーンデザイン。

 

“1988年5月25日”という製作年月日を

知った上でこのキューを見ると、

どことなくクラシックで重厚な趣を感じますが、

 

発売当初はエレガントでモダンなデザインとして

耳目を集めただろうことは想像に難くありません。

 

大原氏・談：

 

「リチャード・ブラックは、

伝統的なデザインから芸術性に富んだ一点物まで、

様々なモデルを作っていましたが、

 

これは、定番と言えば定番のデザインで、

たしか当時のカタログに載っていたモデルです。

 

1980年代後半の彼のレパートリーの中で、

一番ゴージャスな上級モデルだったはずです。

 

私は5、6年前に中古で手に入れました。

これはFor Sale（売り物）です。

参考価格は120万円としておいてください。

 

なかなかもう今はリチャード・ブラックを

買おうという人はいないとは思いますが……（笑）、

キューの格やレベル、コンディション的には

そのぐらいの値段になるのかなと思います。

 

よく見ると、ハギが少し歪んでいたり、

細かいところにアラがあったりします。

リチャード・ブラックのハギは

左に曲がっているものが少なからずあります。

たぶん旋盤の設定の仕方に問題があるのでしょう。

 

これはもう、手作業の工程が多く、

一種の美術工芸品スタイルで作っている

リチャード・ブラックならではの特徴で、

それが『味』で通ります。

 

たしかに高精度・精巧とは

言えないのかもしれませんが、

そこがパーフェクトだと

このキューは無機質、没個性的なものに

なっていたかもしれません。

 

面白いのは、アメリカに行って、

カスタムオーダーのリチャード・ブラックを見ると

今も惚れ惚れするほど良いものがあります。

 

これはあくまで想像ですが、

彼は白人至上主義の強いテキサスの人ですから、

まず国内マーケットを優先的に

考えていたのかもしれないですね。

デザインや出来のすごく良いものは

まずアメリカで流通していたのかもしれません。

 

私の周囲の、とある女子アマが使っている

リチャード・ブラックは極めて良いクオリティなので、

日本にも良いものはたくさんあると思いますが……。

 

今の日本ではリチャード・ブラックを使ってる人を

見ることが少なくなりました。

 

やっぱりしなりが大きくて、

横ズレ（見越し）がたくさん出る

昔っぽいシャフトなので、

そういったキューを使いこなせる人が

少なくなっていることと、

 

細かく見た場合の精緻さという意味で、

少々見劣りするものがあるということなんでしょう。

 

ですが、私はこのキューのデザインを

非常に気に入っています。

ゴージャスで上品で、ハンドメイドの味もあって……、

 

当時のアメリカンカスタムキューの世界の

空気感を今に伝えてくれるような1本だと思います」

 

（了）

 

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