平口結貴・全日本選手権初優勝

悩み多き2023年。勝利が照らす2024年

2023年11月

 

本人曰く、

「2023年は今まで一番苦しんだ1年」。

 

試合で妙に慎重になる場面や

表情を曇らせるシーンが見られたのはたしかだ。

 

しかし、年間最後の『全日本選手権』では

迷いなくキューを振り、果敢に球を入れ、

自らのペースで試合を作っていた。

 

5月から川端聡(2006年アジア大会

8ボール金メダル)に師事。

国際大会への参戦も重ねながら

世界を見据えた自己改革に取り組んできた。

意欲的な活動がようやく実りつつある。

 

日本人女子選手で4人目となる

『ジャパンオープン』『全日本選手権』

二冠達成者となった平口結貴は、

着実に世界獲りに向けて進んでいる。

 

→ 大会レポートはこちら

今年一番良い状態だったと思います。決勝戦以外は


 

――初の全日本選手権制覇。ひと晩経った今のお気持ちを。

 

平口:ずっと獲りたいと思っていたタイトルなので優勝できて嬉しいです。私は今まで準優勝が多くて、今年も3回準優勝がありますし、いつも1位と2位の差をすごく感じてきました。今回もギリギリの戦いでしたけど、1年の最後に優勝することができてホッとしています。それが率直な気持ちですね。

 

――「やったー!」という気持ちも?

 

平口:決勝戦の内容が反省点だらけなので、そこまで「やったー」って感じではないです。でも、決勝戦以外の5試合は全て私が先行してそのまま勝てたので、トータルの評価は高めです。

 

――もともと平口プロにとって『全日本選手権』はどんな大会ですか?

 

平口:『ジャパンオープン』(※平口プロは2017年に優勝)と並んで日本で一番大きい大会で、1年を締めくくる試合だという認識でした。とても勝つのが難しい大会という印象もあります(※今まで平口プロは2016年2017年のベスト8が最高)。

 

――今回はどんな目標やテーマを持って尼崎に行きましたか?

 

平口:やるべきことを整理して臨めばきっと結果は付いて来るはずと思っていました。今年は出られる海外の試合には全部出させていただいたんですけど、「ここが足りないな」「あそこはこうした方がよかった」と反省点だらけでした。5月から川端聡プロがコーチになってくださっているんですけど、全日本選手権の前は川端プロと話し合って、今までの反省点や私の性格も踏まえた上で、本番でどう戦うかをしっかり確認しながら練習する時間を作れたと思います。「1試合1試合、毎球毎球、決めたことをやっていこう。そうすればきっと結果が付いて来る」。それがテーマでした。

 

――今大会では迷いのない様子で撞いていて、ショットもリズムも安定していたように感じました。

 

平口:たぶん今年一番良い状態だったと思います。まだ自分の試合動画は見てないんですけど、ショットや撞き方をほとんど迷いなく決められました。その意味では自分でもステップアップを感じられる大会になりました。

 

――ベスト8(vs 陳佳樺)がそうでしたが、強敵を相手にしても自分のやることに集中していましたね。

 

平口:今までは実績のある人を前にすると、迷いとか自信のなさがショットに出ちゃってたと思います。そんな気持ちの弱さをどうしたら克服できるかというところや、表現は難しいんですけど、どうやって自分の内容で相手に圧をかけるかというところも川端プロと話し合ってきましたし、今回はある程度できていたと思います。ただ、全部の試合で最初から最後まで決め事を守りながら全力を尽くすというのは、体力的にも精神的にも結構負荷がかかりますね。3日間で6試合撞きましたけど、最終日は3試合あってきつかったです。

 

私には私の良いところもあると言い聞かせた


 

――決勝戦は河原千尋プロと対戦。あそこで当たるのはどんな気持ちだったんでしょうか?

 

平口:準決勝では私も河原プロも韓国選手と対戦していたので、「2人とも勝ち上がって最後は日本人対決になるのがいいな」と思ってました。実際そうなったことは嬉しかったんですけど、私は河原プロとの対戦成績は良くないし(※ビリヲカによると5勝13敗)、「優勝するためには河原プロを倒さないといけないのか……」とも思いました。正直言って私はまだ河原プロのライバルというポジションには来られていないという気持ちもあります。でも、「私には私の良いところもあるから」と自分に言い聞かせて、自分を信じて撞くことにしました。

 

――決勝戦はマスワリ2発含めて3連取で3-0という良いスタートでした。しかし、中盤から少しミスが増えてきました。

 

平口:途中で一瞬、良くない時の自分の思考に戻ってしまったり、すごく周りが見えちゃったり、「このまま優勝したら……」と未来のことが頭をよぎったりして、集中できてない時間帯がありました。逆に河原プロのプレーペースは一定で、場の空気もだんだん河原プロのものになっていくように感じられたし……「自分がない」状態になっちゃってましたね。それと、撞いてる間にテーブルコンディションがだいぶ変わってたんですけど、私は試合が終わるまでそれに気付いてなかったので、ミスをした時に「自分がおかしくなってる」と思い込んでました。それにしても、あそこまでテンパるのはあんまりないなぁ……(苦笑)。

 

――最後は3番から取り切りました。あの時の心境は?

 

平口:まず「もう何も考えないでバンバン撞いて早く終わらせたい」っていう気持ちになりました。でも、それだと本当に何も良いことないんですよ。だから「ちょっと待って、冷静に考えて」って自分に言い聞かせて、コンディションを踏まえた上でフリ、ライン、スピードとかをしっかり考えました。最後の配置は3番→4番→5番のフリがすごく大事で……。

 

――5番→7番あたりまではプラン通りに撞けていたのかなと。

 

平口:そうですね。次の7番→8番でおかしくなりました。あれは本当は1クッションでセンターに出したかったのに、全然引きが入らなかったし、7番が薄めから入ってしまい2クッションになっちゃって……。なんならサイドスクラッチもありえたので「あぶなっ」て思いました(苦笑)。

 

――次の8番から9番は狙ったポジションでしたか?(※平口プロは9番をサイドポケットに狙う形に出した。上記動画の17min.参照)

 

平口:9番は一応コーナーに取るつもりで撞きましたけど、きれいに出せることを自分に期待してなかったです。なので、手球の動きを見て、「はいはい、ですよね」って(苦笑)。あの場面で一番ダメなのはサイドポケットへのスクラッチ。だから、絶対にスクラッチのないラインを意識して撞いたら行き過ぎてしまいました。普段ならスピンのほどけ具合まで意識して9番をコーナーに取るように出せてると思います。でも、直前の7番→8番の出しをあんなにミスってる時点で8番→9番にちゃんと出せる訳がない。自分への信用性ゼロですよ(笑)。

 

――最後の9番はゲームボールでは撞きたくない形ですね。

 

平口:すごく嫌でした。でも、ひどい出しでしたけど、周りは気にせず、恥ずかしいとか一切思わないで向き合えました。「全日本選手権は簡単に勝たせてもらえない。これ入れないと勝てないですよね」という気持ちで、邪念もなく構えられたと思います。もともとああいう球は苦手で、あの形より少し難しい配置を結構練習してました。だから、スピードのイメージはありました。

 

2024年はもっと国際大会中心に戦っていく


 

――10年ぶりの全日本選手権・日本人女子チャンピオンとなりました(※前回は2013年の梶谷景美)。そして、『全日本選手権』と『ジャパンオープン』の二冠を達成した日本人女子選手は平口プロが4人目です(原田美恵子、梶谷景美、高木まき子、平口結貴)。

 

平口:そのことを後から知りました。全日本選手権を獲れたことは嬉しいですし、両方優勝した数少ない日本女子プロの一人になれたことは光栄です。でも、本当に私には足りない部分がいっぱいありますし、決勝戦でああいうふうになってしまうということを重く受け止めて改善しないといけないという気持ちが強いです。私は技術的にも足りてないし、緊張した場面でできることが少ない。海外トップとの差はそこにあるのかなと思います。彼女たちに追い付くにはああいう痺れる舞台での場数が必要だし、そこへの挑戦を続けながらたくさん勉強していかないといけないと思ってます。

 

――これで2023年シーズンが終わりました。この1年に点数を付けるとしたら?

 

平口:う~ん、40点ですね。最後に全日本選手権で優勝できたので15点ぐらい増えて40点。正直、過去イチ苦しいシーズンでした。私は今まで取り組んだことが割と早く結果に現れるタイプだったんですけど、今年は今まで以上に深いところから見つめ直していたのでなかなか上手くいかなかったし、遠征続きでまとまった練習時間も取れなかったです。それで日本の試合でも結果が出せなくなり、悩んでばかりの1年でした。川端プロが「絶対上手くいくから続けていこう」と励ましてくださって、私もそう信じてやっていた1年でした。

 

――来年はどんな年にしたいですか。

 

平口:もっと技術向上を目指す年にしたいなと思ってます。まだ確定ではないんですけど、2024年は今年以上に国際大会中心に戦っていく予定です。女子の大きな国際大会が少なくとも年に6つ7つあるので、それを軸にスケジュールを組み立てて、大阪で川端プロに教わる時間や一人で練習する時間もちゃんと確保して技術向上に努めます。メンタルトレーニングにも時間を充てたいなと思っています。

 

――最後に応援してくれた方々にメッセージを。

 

平口:ファンの皆さん、『NIKKA5』の皆さん、スポンサーの皆様、北海道の皆さん、川端プロ、お母さん。たくさんの方に支えられて競技活動ができていることをいつも感謝しています。ありがとうございます。会場でもお母さんやお世話になっている方々が見守ってくれていたので落ち着いてプレーできました。今年1年、目標として掲げていたことがなかなか達成できずに悩んでいましたが、最後の最後に『全日本選手権』という一番大きいタイトルを獲ることができて本当に嬉しく思います。来年は今年とは違う形での活動になるかと思いますが、さらに技術向上を目指してやっていきたいと思っていますので、応援していただけたら嬉しいです。

 

(了)

 

 

Yuki Hiraguchi

 

JPBA50期生(2016年プロ入り)

1997年7月11日生

北海道出身・東京都在住

所属店:NIKKA5(東京・武蔵小山)

 

主な戦績:

 

アマ時代:

2013年『全日本ジュニア』

(JOCジュニアオリンピックカップ)優勝

2013年『世界ジュニア』(南アフリカ開催)準優勝

2015年『アマナイン』優勝

2015年『アジア選手権』ジュニア女子の部3位

2016年『第8女流球聖戦』球聖位

 

プロ入り(2016年7月)以降:

2016年・2020年『関東レディースオープン』優勝(2016年大会は最年少優勝記録)

2017年『ジャパンオープン』優勝(女子の部最年少記録)

2018年『東海グランプリ』優勝

2019年『全日本女子プロツアー第2戦』優勝

2019年 中国『CBSAツアー 泰順戦』3位、同『北京 密雲戦』3位

2022年『大阪クイーンズオープン』優勝

2022年『ワールドゲームズ2022 バーミングハム』プール女子9ボール銅メダル

2023年『全日本女子プロツアー第2戦』優勝

2023年『全日本選手権』優勝

 

使用キュー:MEZZ / EXCEED

使用タップ:BIZEN

使用キューケース&グローブ:3seconds

スポンサー:NIKKA5、MEZZ / EXCEED3secondsBIZEN、自遊空間、Q塾、FILLUP、ココカラダ、MILKFED(順不同)

 

 

※「聞いてみた!」の他のインタビューはこちら

 


サポート宜しくお願いします

いつもありがとうございます。この記事を気に入って下さった方、「寄付してあげてもいいよ」という方がいらっしゃったらサポートしていただけると嬉しいです。取材経費にさせていただきます。

金額は空白欄に適当に(15円から)書きこんで下さい(あらかじめ入っている金額はAmazonの設定なので気になさらないでください)。受取人は 「 billiardsdays@gmail.com 」です。よろしくお願いいたします。