「おやっ」と思う
シュートミスが何度かあった。
妙に慎重にラインやポジションを
測っている時もあった。
球聖・小宮鐘之介の
4度目の防衛をかけた『球聖位決定戦』は、
小宮と挑戦者・大塚郷司の両者が
初めて撞く新テーブルで行われた
(※昨年までのテーブルから変更)。
小宮はところどころでボールの挙動に
戸惑いを見せていた。予測を誤り、
取り切りに失敗した場面もあった。
しかし、 撞きながら冷静に対策を講じ、
細かい確認作業を最後まで怠らなかった。
結果、大崩れすることなく、
セットカウント5-2というスコアで
球聖戦史上最多の「4期連続防衛」を達成。
これまでとは違うテーブルだからこそ、
球聖・小宮の適応力と精神力、
長丁場のこなし方がよく伝わってきた
今期の球聖位決定戦だった。
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――ゲームボールを入れた瞬間の感情は?
小宮:防衛できたら連続記録更新(※4期連続防衛は初)になると聞いてたんで、達成できてよかったという安心感と、会場に見に来てくれた奥さん(元女流球聖の梶原愛)に防衛する瞬間を見せられてよかったなという感じです。
――今回は本番前にどんな準備や練習を。
小宮:(決戦会場の)『エニシング』には試合の4日前に行きました。そして、数週間前から週3ぐらいのペースで仕事終わりに自宅近隣のビリヤード場に撞きに行ってました。以前の防衛戦より少し撞く回数が多かったと思います。時間は1回2時間ぐらいでしたけど。
――今回はテーブルが変わったことが大きなポイントだったと思います。小宮選手は以前『プレデターテーブル』で撞いたことは?
小宮:試合の4日前にエニシングで撞いたのが初めてでした。それまでのブランズウィックと違って難しい台だなと感じました。
――どういうところが?
小宮:シュートです。たぶんお互いに「厚く行くとカタカタしやすい(ポケットに弾かれやすい)から意図的に薄めに狙った。そうしたら薄く外れた」という球が多かったと思います。ポケットのカット(開口部の形状)がブランズウィックと違ってましたし、ラシャの影響もあったのかもしれないですけど、厚めから行くとカタカタして外れやすい。それは嫌だから薄めに狙うんですけど、そうするとなぜか先球が薄く弾けやすい(=思った以上に薄く外れやすい)。特に下の撞点を撞いた時はそうなることが多かったですね。
――たしかに今回は薄く外れる球をよく目にしました。そこは試合中に対策したんですか?
小宮:はい。薄めに外れることを見越して厚めに狙ったり、いつもヒネる形でもヒネリをなしにしたり、厚め厚めで組み立てたり……。全体的に以前のブランズウィックよりもシビアに厚みを確認してました。
――第1セット序盤、5-0までリードした時はあまりそんな素振りは見られなかった気がします。
小宮:スタートの時はそもそも薄く弾けやすい球をあまり撞かなかったんです。で、第2セットが始まってシュートミスが続いた時に「おかしいな」と。撞き方も撞点も合ってるのに先球が薄く走ることに気付いて。原因は解明できなかったですし、第2、第3セットあたりは頭がまとまりきってなかったと思います。第4セットぐらいから薄く弾けそうな球がある時は取り方や狙い方をケアしてました。
――ケアしながら撞くのは違和感やしんどさもありますよね。
小宮:そうですね。もうちょっとフリを付けて取り切れたら楽なところをわざと厚く出したりしてたので、イメージ通りのポジションではなくて、いつもより手球が遠かったり、見慣れない景色で取り切ることも多かったです。
――展開的には第1、第2とセットを連取して2-0スタートで行けたことは大きかったのではないでしょうか。
小宮:はい。一昨年と去年の防衛戦は第1セットを落としましたし、みんなからも「1セット目取れよ」と言われてたんで意識はしてました。去年までのブランズウィックテーブルだったらある程度コンディションをわかってるんで、仮に相手に先行されてもそこまでダメージはないなと思ってたはずです。でも、今回はテーブルがプレデターに変わったばかりで、しかも相手の方が多く撞いている(※前日の『挑戦者決定戦』で撞いている)ので、相手に先に行かれたら挽回するのに何セットかかるんだろうと。それで「最初から気を引き締めていかないと」という気持ちで臨んだら、スタートが決まったという感じです。
――第3、第5セットは相手に取られました。実際この2つのセットでは小宮選手にミスが見られました。これはやはり「的球が薄く弾けやすいこと」が原因ですか?
小宮:そうですね。薄く飛びやすいとわかっていても、いつそうなるかがわからなくて。自分としては「絶対にこれで入る」っていう厚みに構えてるんですけど、いざ撞いたら薄かったっていう球があって自分でもびっくりしました(苦笑)。たぶんYouTubeで見ていた方も「その球外すんだ」っていう場面は結構あったと思います。
――気を抜いていたり集中を欠いていた訳ではなく。
小宮:振り返っても「あの時は気が抜けてたな」という球は一つもなかったです。ちゃんと頭を使って加減や厚みを意識して撞いたのに外れたという球は、今までの球聖戦で一番多かったと思います。
――それでもセットカウントで相手に並ばれることなく勝ち切りました(5-2)。
小宮:第1、第2セットを撞きながら、シュートに対しての違和感みたいなものはどうしても消えなかったんで、ちょっといやらしい球とか入れの確率が落ちそうな球は、結構アンドセーフにウエイトを置いてました。外したけど隠れてるみたいな球を相手に何度も回してたと思うんですけど、守りも終始意識しながら撞けていたから、ああいう展開になったのかなと思います。
――ブレイクはどうでしたか? まずまず当たっていたように見えましたが。
小宮:9ボールのブレイクは基本的に得意というか、球聖戦もこれだけ多く撞いてますし、慣れてはいます。だから、大きく変えたところはなかったですけど、ラックを組む人(※セットごとにラックを立てるレフェリーは変わっていた)によって組み方が微妙に変わるのと、オールランダムラックになったのでどうしても1番の行方を気にしないといけないから、厚みとかヒネリ加減とかはラックを組む人によって変えてました。結果的にそれでいい形になることの方が多かった気がします。
――大塚選手のことはどう見ていましたか。
小宮:一番近くで見て、一緒に撞いて、球の取り方やチョイス、クッションの見方とか総合的に深いところまで知っていて、シュート頼みとかじゃなくて場面場面で最善の球を撞ける方だと思いました。だからこそ自分も、守る時はしっかりと守りを固めて、絶対に相手にロール(流れ・展開)を渡さないように意識していました。
――第6セットは小宮選手が0-1ビハインドから7点連取。これでセットカウント4-2で先に王手をかました。
小宮:その前の第5セットを取られてしまったので、気合いを入れ直して第6セットに臨んだというのもあるんですけど、ずっと意識していた「薄く飛びそうな球」のケアが一番上手く行ったセットだったかなと自分では思ってます。
――第7セットはどうでしたか。ここはお互いミスもありました。
小宮:第7セットに入る時は「ここで締めよう」という気持ちだったんですけど、第6セットよりフワフワしてた感じはあるかもしれないです。お互いのミスから点を取って行くみたいな展開でしたね。
――6-3でリーチを掛けた後、第10ラックの2番をミスして上がりそこねました。あの2番のミスはまさに「思った以上に先球が薄く飛んだ」ケースでしょうか。
小宮:そうです。自分でも薄く飛びそうな感じがしてたんですけど、厚めに行ってカタカタするぐらいなら少し薄めに狙おうと。そうしたら、考えられる中で最悪な形で薄く飛んでしまって(苦笑)。厚みを間違える球でもないですし、普通あそこまで薄くは外せないと思います。でも、あの時はもう「しょうがない。まだセットもあるし、引きずらないようにしよう」と思って座りました。
――最後は相手の8番ミスから小宮選手が2球を取って上がりました。プレッシャーは?
小宮:そんなになかったです。もしここでミスしても、このセットでもう1回ブレイクが回って来るし、このセットを落としてもまだ3セットあるので、「ミスったらヤバい」みたい気持ちは全然なかったです。
――8番→9番のポジションが少しショートして9番がいわゆる「への字」になりました。
小宮:はじめから「への字から真っ直ぐぐらいの間で止まれば十分」と思っていたので、結果手球はショートしたんですけど、あの9番は嫌ではなかったです。もし8番を薄めから入れていたら手球が走りすぎてしまうし、そっちの方が嫌でした。
――これで4期連続防衛。球聖戦の歴史で最多です。また、在位5期は単独2位です。こういった数字を聞いてどう思いますか。
小宮:連続防衛に関しては周りから色々と聞いていて、それも踏まえて「頑張ってくれ」と言われてたんで、「それなら最多を目指してみよう」みたいなのはありました。ただ、個人的には前から「連続◯年」とか「在位◯期」というところは目標にしてません。だから、身構えずに撞けたというのもあると思います。
――球聖位決定戦は長丁場ですが、戦い方や気持ちの持って行き方など、小宮選手の中で蓄積されているノウハウなどはありますか?
小宮:一応作戦はあります。5-0のワンサイドで勝てるとは思ってなくて、絶対に取って取られての戦いになるとわかっているので、体力の温存の仕方みたいなところは年々上手くなってると思います。僕はスタートをすごく意識していて、最初に集中して中盤からちょっとずつ緊張をほどいていくスタイルです。他の選手と逆かもしれないですね。多くの人は序盤は勢いよくサクサク撞いて行って、後半追い付かれたり競った時に気合いを入れ直しているように見えます。
――たしかにそうかもしれません。
小宮:僕の場合、少なくとも1日を通してずっとピリピリしている訳ではないです。序盤に集中して、みんながフワフワしてるうちにリードできたら体力を温存しながら戦えるという考え方です。もし最初から競ったり、不利な状況が続いたら1試合通して集中するしかないですけど。
――逆に今回「まだまだだな」と思った部分はありますか?
小宮:薄く弾けるミスの原因を突き止めるのは今回は諦めたんですけど、「じゃあこう取ろう、こう狙おう」という対策とケアができてる時はちゃんと取り切れてました。でも、できてない時は試合の後半になっても結局ミスしてました。だから、そういう対策やケアを徹底することだったり、このコンディションに対応できるような技術をもうちょっと上げないといけないなと思います。
――初めて球聖位になった時は26歳(2021年)。今は30歳になりました。
小宮:最初に球聖になった時はコロナ明けだったし、仕事をしつつ球も撞きつつ、周りも盛り上がりつつみたいな感じで、とにかくモチベーションが高かったと思います。今は子供も生まれて、仕事・育児・ビリヤードみたいな感じでメリハリある生活をしていて、球を撞く時間は減ったけど、その時間をより大切にするようになったと思います。最近はなあなあになっちゃうことが全然なくて毎回ピリッと真剣に撞けるので、プレイヤーとしては結構プラスに出てるんじゃないかなと思います。
――どんな30代にしていきたいですか?
小宮:まだ子供も小さくて、2人目もこれから生まれてくるので、撞ける機会は少ないままだと思います。それに、年を取るにつれて試合の体力もなくなり、だんだん勝てなくなって行くと思いますけど、まだバリバリ戦えるように環境を整えつつ、モチベーション高くビリヤードをしていきたい。そんな気持ちで30代をスタートしたいです。
――最後に応援してくれた方々へ。
小宮:いつも応援してくれるエニシングのみんなとは最近あまり会えてなかったんですけど、今回も例年通りたくさん集まってくれて嬉しかったですし、いつものエニシングらしさを見せて応援してくれたことにすごく感謝しています。他にも、自分の競技活動を支えてくださる方々がいて、その人達のおかげでビリヤードをする機会が前より増えたり、いい道具が使えていますし、それが今回の防衛に繋がりました。サポートしてくださっている方々に深く感謝しています。また来年も防衛戦があるので応援よろしくお願いします。
(了)
・初戴冠時インタビュー(2021年)
・初防衛時インタビュー(在位2期に。2022年)
・2度目防衛時インタビュー(在位3期に。2023年)
・3度目防衛時インタビュー(在位4期に。2024年)
Shonosuke Komiya
1994年12月6日生まれ・東京都出身
所属店:『ANYTHING』(千葉)
プレー歴:約18年
職業:会社員
プレーキュー:Far East(シャフトは福、タップはNAOLLY M)
ブレイクキュー:MEZZ POWER BREAK G
ジャンプキュー:Aggressive Jump
タイトル:
アマ『球聖位』在位5期(第29期、第30期、第31期、第32期、第33期)
アマ『全関東』優勝
アマ『9ボールクラシック』優勝
2023年『アマナイン』優勝
2023年&2024年『東日本神奈川10ボール』優勝
JPBAプロトーナメント『Grand Prix East』準優勝1回(2016年)、
他、入賞多数
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