大井直幸・世界2位 & US3位(前編)

戦いは紙一重。ワールドタイトルも紙一重

2021年9月

 

ワールドタイトル奪取。

その瞬間の到来が近いことを

強く感じさせた2週間だった。

 

西のラスベガスで

10ボール世界選手権』準優勝。

東のアトランティックシティで

USオープン』3位。

 

プールの本場・アメリカのファンが、

Naoyuki Oiのオンテーブル

オフテーブルのパフォーマンスに

魅せられていた。

 

ワールドランキングでも

Top 5に入った大井直幸は、

引き続きアメリカに滞在し、

さらに3つのトーナメントを戦う。

束の間休息のタイミングで話を聞いた。

 

Photo : Kakuma Mori

 

※後編はこちら

 

…………

 

逃げて撞いた球は1球もない。後悔はない。

 

――『10ボール世界選手権』(ラスベガス)から10日経ちました。準優勝という結果については?

 

大井直幸:今はもう悔しいとか勝ちたかったとかそういう感情は一切ありません。もう終わったことだし、自分のプレーに関しては何の悔いもないし、一球たりともテーブルに置き残してないんでね。人間どうしてもエラーは出てしまうし、それはしょうがない。でも、ここまでの4大会(テキサスオープン、ラスベガスオープン、世界選手権、USオープン)全てそうですけど、あの決勝戦(vs E・カチ)も逃げて撞いた球は1球もなかったんで後悔はないです。

 

――やれることはやったと。

 

大:そう、それでも結果(優勝)は出なかった。それはもうしょうがないと受け入れてるし、もしたまたま勝てていたらそれはそれで嬉しかっただろうし。どうなろうとも受け止める覚悟を持ってプレーしてたんで、何も引きずったりしてないです。

 

――決勝戦直後もそういう気持ちだったんですか?

 

大:いや、終わってから数時間はすごく悔しかった。仲の良い人たちがどれだけ僕を応援してくれてどれだけ僕に期待してくれてたかというのを聞いた時は泣きそうになりました。でも、少し経ったら自然と意識が次の試合に向きました。すぐ『USオープン』が始まるし、アトランティックシティに移動しなくちゃいけなかったから。

 

――『USオープン』の3位についても同じですか?

 

大:同じ同じ。悔いは残してないです。ただ、マッチルーム主催大会の準決勝は他の大会の準決勝とはやっぱり違うんですよ。あの準決勝(vs C・ビアド)では自分のパフォーマンスに少しズレがあったのは事実です。あれだけすごい演出があって、あれだけオーディエンスがいて盛り上がってると、どうしてもこっちもテンションが上がっちゃうんですけど、上がったそのまま撞いてしまったところはあるかなと思います。

 

――マッチルームに上手く乗せられた。

 

大:そう、マッチルームに求められてるというか、テンション上げさせられてるというか。でも、そうやって求められたまま、上げさせられたまま撞いて勝ちたいじゃないですか。大会を盛り上げたいし、プールが熱いものだと伝えたいっていう気持ちもあるんでね。でもそうすると、俺、だいたい調子悪くなっちゃうんだよね(笑)。それもわかっててやってるから全然悔いはないんですけどね。

 

ずっとこの集団にいたい。でもそれは叶わないんだろう。

 

――『10ボール世界選手権』の決勝戦、そして『USオープン』の準決勝で撞いたのは「初」だった訳ですが、そのステージに立てた喜びや高揚感はありましたか?

 

大:一瞬はあったかな。でも、なんだろう……、世界選手権の決勝戦やUSの準決勝で撞けたのは僕の実力が突出してたからじゃないんですよ。トップ達の戦いってもう紙一重なんですけど、今回はたまたま僕に運が向いていて、他の人より1つ2つ多く勝てただけで、実力で行ったんじゃない。というか、おそらく実力だけで行ける世界じゃないです、今のトップトーナメントの上の方は。そう思ってるから、高揚とはまた違う感覚でしたね。むしろあそこで撞けるのは夢みたいな感じで、現実感がないというか。

 

――上に進めば進むほど「紙一重の戦い」になるのでしょうか。

 

大:いや、どのラウンドでもそう。ワールドトップたちが揃ってる大会ではいっこいっこの戦いが紙一重です。これは本当にプレーしていて常に思うことなんだけど、『実力でまさっている』という感覚は一切ないですよ。たぶんトップ20~30人の人達は誰もそんな感覚は持ってないと思う。皆強いし、皆が紙一重のところで戦ってる。そして、トップ集団とその下のグループとの間には結構な隔たりがあるんだろうなっていうのが僕の実感です。

 

――今年の戦績やワールドランキングが示すように大井プロはそのトップ20~30人に入っていると思うのですが、ご自身では?

 

大:もう入れたのかなとは思うけど、それに対して別に喜びはなくて怖さしかないんですよね。『ここ』に居続けることや大きな大会で優勝することって、もしかしたら不可能なのかもしれないっていう悲しい気持ちにさせられる瞬間があるんです。「俺は一生ずっとこの集団にいたい。ここで撞きたい。でも、きっと今の俺のレベルじゃそれは叶わないんだろう、きっとそういうものなんだろう」ってプレイヤーとしての儚さを思う時もあります(苦笑)。

 

――そこまで考えて……というか悟ってしまうものですか。

 

大:結構僕も考えてるんです(笑)。やっぱりこれだけマッチルームとかアメリカの大会に出てると、色々なものを目にするし、肌で感じるものも多い。英語の勉強も少しはやってるんで、前よりもプレイヤー達とコミュニケーションが取れるようになったし、ブレイン(・バーカス。ハイアマ選手であり大井プロと村松さくらプロのホストファミリーでもある)もいるし、色々な情報が入ってくるようになったからね。今まで僕の頭には日本語の新聞が入ってたけど、それがアメリカのニュースペーパーになってきた感じだね(笑)。僕にとってはプールが生活の一部だから、世界の最新情報を追い掛けて、それを体験するのは当たり前のこと。それで「自分の今」もわかります。

 

ゆるくてもいいからアクセルを踏み続ける。

 

――今年4月のインタビューで、 試合中の精神状態について「状態を上げていかなくちゃとは思わない」「“つらい”のままやるべき」「大会で自分がやることは変わらない」ということを語っていましたが、今回もそうだったんでしょうか?

 

大:同じですね。今はさらに一歩進んで普段の生活からナチュラルに試合に近付いて行くことが大事だなと思う。それは身体の準備という意味でもそうだし、気持ちの面でもそう。怖いと思ったら怖いなりに撞けばいいし、入ると思ったら入るなりに撞いたらいい。それを練習でも試合でも同じように出来るのがいいなと、これだけ試合をたくさんやっていると自然とそう思います。要はずっとアクセルを踏み続けていたいなってことですよ。常に『全開で行くぜ!』ってことじゃなくて、強く踏むこともあれば、ゆっくりエンジンを回す時もあるんだけど、ブレーキはできるだけかけたくないですね。

 

――ブレーキをかけたくないのはなぜですか?

 

大:ブレーキを踏めば踏むほど自分自身のコントロールを失う気がするんです。特にやっぱり試合に負けた時がそうで、多くの選手がそこで気落ちしちゃってブレーキを踏むし、それで調子を崩しやすくなっちゃう。でも、僕はそうはなりたくない、というか、すぐ次に向かわなきゃっていうマインドだから、その時間がもったいないなと思ってて。練習でも試合でもコミュニケーションでもなんでもそうだけど、ゆるくでいいからアクセルを踏み続けてれば、ポジティブな方向に少しずつでも近付けると思ってるんです。もちろんアクセルを踏み続けることには、痛み・つらさ・さみしさとかネガティブな感情が伴う時があるけど、ネガティブはネガティブのまま受け入れて、できるだけ良いところを見据えてやり続けるしかないなと。普段からKeep Going。そしたら、いつかは球撞きが応えてくれるかなって。

 

――なるほど。

 

大:……っていう話をブレインにしたら、「オオイ、それはRock 'n' Rollだな」だって(笑)。アメリカ人がそういうフレーズを使うと、まあすごくカッコいいんだよね。スッと頭に入ってきちゃったよ(笑)。

 

後編に続く)

 

 

Naoyuki Oi

JPBA40期生/1983年1月10日生/東京都出身

JPBA年間ランキング1位・6回(2006年、2012年、2014年、2015年、2017年、2018年)

2007年『ワールドカップオブプール』3位

2012年『9ボール世界選手権』3位

2014年『全日本選手権』準優勝

2015年『ワールドカップオブプール』3位

2017年&2018年『ジャパンオープン』準優勝

2017年『ワールドゲームズ・ヴロツワフ大会』銅メダル

2017年『USオープン9ボール』5-6位

2018年『CBSAツアー 中国・密雲戦』優勝

2019年『ジャパンオープン』優勝

2021年『チャンピオンシップリーグプール』5位

2021年『10ボール世界選手権』準優勝

2021年『USオープン』3位

他、優勝・入賞多数(国内で約40勝)

使用グローブはOWL

使用プレーキューはHOW(ハオ) 

使用タップは斬(ZAN)

所属:Shop FLANNELPool & Darts FLANNEL

スポンサー:Owl products、姫路ミルキーウェイ、Session、ココカラダ、Andy Cloth

 

 

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