喜島安広・第59期名人位

「防衛」の難しさと覚悟

2019年10月

 

防衛へかける強い思い。

最強の挑戦者への敬意。

攻守に最善手を尽くす丁寧さ。

流れを断ち切らない巧みさ。

 

春の『球聖位決定戦』の敗北で

自己を見つめ直した喜島安広名人は、

メンタリティも戦い方もタフになっていた。

 

挑戦を受けて立つ側でありながら

チャレンジャーでもあるような、

後手に回ることを良しとしない防衛戦だった。

 

通算3期目の名人位に就いてすぐ

試合を振り返ってもらった。

 

…………

 

Yasuhiro Kijima

1983年1月7日生 埼玉県出身・在住

所属:『セスパ東大宮店』、『5&9』(ともに埼玉)、SPA

プレーキュー:オリビエ

ビリヤード歴:約21年

主なタイトル:

『第54期、第58期、第59期名人位』

『第19期~第22期、第26期、第27期球聖位』

他、現存する「アマ個人全国タイトル」全て↓

『プレ国体』(全国アマチュアビリヤード都道府県選手権大会)

『アマローテ』(全日本アマチュアポケットビリヤード選手権大会)

『アマナイン』(全日本アマチュアナインボール選手権大会)

『マスターズ』(3勝)

また、2016年&2017年『都道府県対抗』の連覇メンバー(埼玉県。SPA)

 

………… 

 

3セット連取しても気持ちの余裕はなかったです

 

――防衛に成功しました。

 

「本当に勝てて良かったです。1年で2回防衛戦を落としてしまう人はなかなかいないと思うんで、それは嫌だなぁという気持ちがありましたし、かといって相手は大坪さんなので負ける確率は高いですし……。色々なことを考えてました」

 

――体力は最後まで保ちましたか?

 

「全然大丈夫でした。睡眠時間があまり取れてなかったんで、しんどいと言えばしんどかったんですけど、たくさんの方に会場に来てもらって応援してもらえたんで、内容はともかく精神力で乗り切った感じです」

 

――開始から3セット連取。落ち着いて撞いているように見えました。

 

「実際は緊張して震えてました。そのせいで、調子自体は悪くなかったんですが、一日を通して自分の思ったようなタッチでは撞けなかったです。それがずっと気になってましたし、3セット連取しても全然気持ちの余裕はなかったです」

 

――気持ち良く撞けていた訳ではない、と。

 

「はい、少なくとも自分の中では終始あまり内容は良くなかったです。それはお互いにそうだったかもしれません。大会序盤は僕がミスした球が渋く残ったり、ラッキーなショットもあったり、色々な要素が僕にとって良い感じに噛み合ってああいう展開になったんだと思います。ただ僕もずっと空クッションはしっかり考えて撞いてました。それでセーフティ気味になってくれた球もあったんで、やるべきことは出来ていたと思います」

 

――第4セット、大坪選手が183点ランで上がって1セットを取りました。

 

「あれは大坪さんらしいビリヤードだったと思います」

 

――その後も第6セットと第7セットを取られました。追いかけられる緊張感は?

 

「ありましたね。こっちがオープンの球をミスすると、それだけでさらに強い緊張が襲ってくるようになってました。でも、もともと『絶対に楽にやらせてくれることはないだろう』と思っていたし、気持ちが揺れたりすることはなかったです」

 

フルセットになることも覚悟していました

 

――コンディションへの対応はどうだったでしょうか? ラシャは張って1ヶ月ほど経った状態。ボールはニューボールでした。普段あのテーブルではあまり撞いてないそうですね。

 

「はい、でも、ラシャだけでなくクッションゴムも取り替えて、クセのないコンディションになっていたので、特に難しさは感じなかったです。ニューボールは初めのうちはすごく重さを感じました。少しずつ慣れたと思います」

 

――後半はあまりブレイクが入らなくなっていました。

 

「ですね。バンキングも結構負けてたんで、ブレイクをいじる機会もなく……。前日にあのテーブルで練習をした時に、力加減を少し落とした方が的球が入りやすい感覚があって、本番の朝イチはそれで打ったら上手く行ってたんですけど、そこからどんどんわからなくなってましたね(苦笑)」

 

――4-3で迎えた第8セット。「ここで決めたい」という思いは?

 

「いや、ずっとセット数は気にしないでやっていました。こちらの取りたい時に取らせてくれる相手ではないですし、フルセットになることも覚悟していたので、常に目の前の球に集中するだけでした」

 

――最後は第4ラックの2番のセンターショットから、クラスターも割りながら取り切って上がりました。

 

「最後の方はもうポジションが遠くなってしまって、フリだけ合わせて入れ繋いでるだけでしたけど(笑)、取り切れて良かったです」

 

出来るだけ一喜一憂しないということ

 

――印象深い局面やセットとは?

 

「第5セットですね。上がり際の故意ファウルや空クッションもほぼイメージ通り撞けたので、よく頭に残っています」

 

――5ラック目ですね。8、9、10番を巡るセーフティ戦。

 

「大坪さんが8番でセーフティをして、僕は故意ファウルで空クッションで9番をクラスターの方に動かしたんですけど、あのショットは大会1番のショットでした。100点を付けられるくらいです」

 

 

↓第5セット試合動画(撮影:JAPA)

第5ラックは1時間10分頃より

 

――その後、9番でレストを使ってのセーフティ。前クッションで手球を9番に当てて、手球をクラスターに埋めるように撞きました。

 

「ラッキーと言えばラッキーでしたけど、あの形を作れる可能性のある力加減は追ってました。あそこで弱く撞くセーフティもあるでしょうけど、それで後手に回るよりはああした方が良いだろうと。結果的にすごく良い形になりました」

 

――さらに、10番を1クッションの空クッションで入れて、そこから取り切って上がりました。

 

「あの10番はアンドセーフも考えた加減で撞いたんですが、入ってくれました。あそこから取り切ってセットカウント4-1としたのはかなり大きかったですね」

 

――4月の『球聖位決定戦』では敗戦。課題・反省点については「秘密です」と1ヶ月前は語っていましたが、今明かせるものがあれば。

 

「出来るだけ『一喜一憂しない』ということですね。球聖位決定戦では小笠原(晋吾)選手のブレイクがかなりよくて、精神的にだいぶナイーブになってしまっていたと思います。なので、相手のプレーに影響されすぎないようにしようと心掛けてきました。今回も、大坪さんに追い付かれても、渋い球が回ってきても気にしないようにしようと。実際、今回は置かれた状況や回って来た球に対してネガティブに感じることがほとんどなかったですし、その辺りは少しは成長出来たのかなと思います。

 

もっと言えば、一昨日、林隆行選手(SPA、FRC、NRCに在籍していたトップアマ)が亡くなって、改めて自分が今こうやって球が撞けること、試合が出来ることはそれだけで幸せだし、ありがたいことなんだということをすごく実感しながら撞いていました」

 

――最後に、応援してくれた人たちへ。

 

「皆さんの応援をいつも本当にありがたく思っています。特に今回は球聖戦を落としてしまった後で、さらに相手が大坪さんということで、ちょっとやばいんじゃないかと思いながらも僕の背中を押してくれた人もいたと思います。会場では皆の拍手が力になりました。埼玉の方、SPAの仲間、お店(セスパ東大宮)のお客さんにすごく感謝しています。これからもまた応援していただけたら嬉しいです」

 

 

 

(了)

 

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