大井直幸 全日本選手権準優勝&2014年ランキング1位

選手生命の危機と「自分は大井直幸だという意識」

2014年11月

 

8戦のうち6戦が外国人選手。

 

その内の5人に勝ち切った姿は

2014JPBA年間ランキング1位の

プロにふさわしい見事なものだった。

 

とても半年前、

椎間板ヘルニアで

選手生命の危機にあった男と

同一人物とは思えない。

 

より一層強くなって戦線復帰した大井に、


初の全日本選手権のタイトルが

ぐんぐん近付いてきていた。

 

しかし、好事魔多し。

 

国際的には無名のフィリピンの若手で、

大井直幸に過去数回負けていた選手が、

よもや最後の壁となるとは……。

 

「それが試合なんですよね」

 

大井の言葉はいつもと同じだった。

 

 

取材・文・写真/BD

 

…………

 

Naoyuki Oi

 

JPBA40期生

1983年1月10日生 東京都出身・大阪府在住

『ナインボール世界選手権』3位

『全日本ローテーション』優勝2回

『北陸オープン』優勝4回

JPBA年間ランキング1位・3回('06年、'12年、'14年)

他、優勝・入賞多数

 

2014全日本選手権

●予選1組

9-5 陳信延

9-3 T・リャンハン


●決勝ラウンドベスト64から

11-5 渡辺剛史

11-8 田中雅明

11-7 A・リニング

11-10 張榮麟

11-6 張玉龍

8-11 R・ファロン

 

腰を悪くして自分を見つめ直した

 

――結果は準優勝でした。


「うん、そんな特別、感想もないんですよねぇ(笑)。いつも通りです。悔やんだりすることもない。まあ、こんなもんでしょうという感じかなぁ。ただ、途中で『勝てるかな』とちょっとは思っていたからね(笑)。そうは上手くいかないよなって思わされました。やっぱりなかなか試合は勝てない。試合って一人しか勝てないからね。難しいよ。4、5人勝てたらまた全然違うんだけど」


――大会中のご自身の状態はどうだったんでしょうか。


「悪くはなかったです。ただ、最終日に1日4試合するのはやっぱり今の僕にはきついね。途中から少し腰が痛くなってきてたし、身体を休めたり気持ちを切り替える時間が欲しかったのは事実です。全体的にブレイクが入りづらいテーブルコンディションだったし、そうなると試合がもつれやすくなるんで疲れやすくもなります。それで11先(11ゲーム先取。国内トップクラスの長さ)だからね。しんどいですよ」


――ずっと気を張ってる状態ですよね。


「ここが難しいところですよね。体のことも考えると、海外の試合みたいにもうちょっとゆっくりした日程だと嬉しいけど、ここは日本でこれは日本の試合だし、決まっているものはしょうがないからね」


――今大会、事前に目標は立てていた?


「いや、それはないですね。いつもと一緒です。意識したのは『自分は大井直幸だ』と思って撞くことでした」


――普段の自分を出しやすくするためのおまじないみたいなもの?

 

「そうそう。『俺は大井直幸だ』と思えば、元々持ってないことはやらないですからね。例えば大井直幸なら悪いリズムで撞いたりしないだろうってのがあるから。これ、結構良いんですよ。そういう自問自答をここしばらく心掛けていたというか続けていたかな。それもこれも全て腰の具合が悪くなってからですね。腰を悪くして、そこで自分を見つめ直して、色々考えて、人間が強くなれたと思います」

 

一生懸命の度合いが全然違う、以前とは

 

――全日本選手権という舞台に緊張することは?


「試合前はちょっとは緊張はしたし、やっぱり試合が始まると普段みたいには球が入らないものだけど、それも含めていつも通りでしたね」


――北陸オープン優勝からの1ヶ月、ちゃんと調整できていた?


「できていたけど、練習量はだいぶ違う。長時間やると腰が痛くなっちゃうんで少ないです。でも、一生懸命の度合いが全然違うなぁ、以前とは。どう言ったらいいかな。誰と撞こうが内容が同じになってきましたね。Cクラスの人と撞こうがプロと撞こうが、ね。それこそ昔はハウストーナメントなんかは適当に撞いたりすることもあったけど、そういうのがなくなってきたかな。それと、腰を診てくれてるトレーナーに言われたんで、筋トレもしてるんですよ。それで結構楽になってきてます」


――8年前、プロ入り当時の大井プロからは絶対出ないような単語、「筋トレ」。


「はははは。ですね。いや、そこは選手生命に関わるから。だから、一日の始まりは筋トレです。あとは運動を色々と楽しめたら良いなって。こないだフットサルやった時は周りからすごく心配されたけど(笑)」


――今回、ベスト16から、A・リニング、張榮麟、張玉龍というワールドクラスとの対戦が続きました。彼らとの対戦歴は?


「全員何回かやってますよ。リニングとは7年ぶりぐらいだったかな。前回は僕が勝ったと思います。張榮麟には負け越してるけど、2、3回は勝ってるな。張玉龍とも6、7回撞いて、勝ち越してはいないけど、2回は勝ってる。今回当たったのが3、4年ぶりだったのかな。やっぱりこのぐらいの選手になると、(撞き番が)回ってこない時はずっと回ってこないけど、それが楽しいですね。回ってきた時にものすごく集中するから。今回勝てたのもそういうのが出たのかな。結果はたまたまですけど」


――ファイナルの相手のファロンは?


「もちろん知ってます。っていうか、何回かやってて一度も負けたことがなかったんですけどね(苦笑)。『世界選手権』(カタール)のステージ1によく出てます。最近だと、今年6月の世界選手権ステージ1の、僕の最終戦の相手がファロン。今回、彼は僕に初めて勝ったってすごく喜んでましたよ。僕、最も大事な対戦でビクトリーゴール決められちゃったようなもん。でも、それもまた試合なんだよなと」


――ファイナルは何が良くなかったんでしょう。エネルギー切れですか?


「うーん、体力というよりは集中力を含めた精神的なものが足りてなかったかな。それはファイナルのプレッシャーのせいではなくて、……いや、実際プレッシャーは多少あったんですけど、単純に11先の試合を4回やってきて、頭や精神面が疲れてきてましたね。それは体力があってもなることだからね。難しい。特に今年はブレイクが入りにくいコンディションだったし、みんなしんどかったんじゃないかな。ブレイクが入ると互いに疲れにくいものなんですよ。ファイナルでは『ここまで来て負けたら意味がない』とは思ってたけど、あの時の自分にはあれ以上できなかった。優勝するのってホント難しいです」

 

年間ランキング1位は手放しでは喜べないです

 

――さて、JPBA年間ランキング3度目の1位が、全日本選手権の成績で確定しました。


「獲ってみたら、獲る前の方が欲しがってたなって気付きました(笑)。嬉しいけど、若干気持ちが上がり切らないよね。それは全日本選手権で負けたから。やっぱり2つとも獲りたかったな。だから、手放しでは喜べないです」


――全日本選手権の前に、ランキングポイントのことは気にしていましたか?


「多少は気にしていましたね。でも、(1位を争っていた)羅立文プロも栗林達プロもしっかりしてるから、勝つ時は勝つし、2人の動向をそこまで意識してた訳じゃないですね。その辺は互いに思っていることだと思うけど」


――最後に。2014年の1年間でまた一段階レベルアップした印象があります。ご自身ではどうですか?

 

「成長出来た感じ、ありますね。年齢的なものもあると思うけど、人間的に強くなってると思います。こんな僕なんで、そんな大きなことは言えないけど(笑)、僕は僕なりに変わってきたと思います。今年は全ては腰ですよね。椎間板ヘルニアになって半年間ぐらいは、『終わった』なんて腐っていたけど、あの時に何かを拾えたっていうのかな。自分自身が見えたのが良かったなと。あそこでメンタル的に成長できたし、今は、ダメになりそうな自分を完全に乗り越えつつあるところだと思います」

 

 

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